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第四十八章 悲嘆のエネルギー

発散のお陰で

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 皆イシスの厳しい顔を見て、沈黙を守っている。
 
「ゆゆしき事が起こったが、当面の危機は回避された、その結果、ヴィーナス様は倒れる寸前となられている」
「……」
「ここからは内内の話として、会話をしても良いですか」
 三人が頷いたので、イシスは言葉を変えた。

「じつはアナーヒターがデーヴァと戦ったとの事です」
「それはどういうことですか!」

「昨日の夜、私はアナーヒターの家の庭で話していた」
「一瞬時間が停止したように感じた、その直後アナーヒターは疲労困憊で倒れる寸前となっていた」
「……」

「アナーヒターがいうには、その瞬時の間に、この世界の未来を賭けて、デーヴァのプリンケプス、帝釈天インドラと戦っていたらしい」
「インドラが再現したか、もとからあったかは定かではないが、古代ローマの五皇帝の年の歴史を、ゲームに見立てて戦ったらしい」
「……」

「インドラを騙すために女狂いを装い、その一方で仮想制御戦闘能力を、極限まで使ったそうです」
「仮想制御戦闘能力を極限まで!」
 マレーネさんが蒼ざめます。

「そんなことをすれば、精神エネルギーが枯渇して、心が壊れる……」
「アナーヒターは壊れなかった」
 イシスは続けて説明します。

「ローマで女を抱きに抱き、同時並行してアンティオケイアで対インドラの作戦を練ったそうです」

「そこで、幾人かの過去の者と戦ったそうです、そしてインドラに何とか勝った、インドラを時空の凍結空間の中で倒した」
「が、インドラはハイドリッヒだったそうです」

「……」

「イシス様、ハイドリッヒ……だったのですか……」
 サリーが聞いた。
 
 頷くイシス。

「お嬢様が本当に壊れてしまう……」
 
「なんとか精神を凍結して、そのままデーヴァの世界、人工回転宇宙を『メギドの火』で消し去ったそうです」
「三十三天全てを……そして何とか還ってきてくれた」

「マスターはご無事なのですね」
 マレーネが尋ねる。

「とにかく今は寝ています」

「マレーネ、そこで尋ねますが、ハイドリッヒの件で、アナーヒターが深く嘆いているとしたら、その負のエネルギーはどれくらいか計算できますか」

「マスターの嘆きを、数値化すればよいのですか?」
「そう」
「しばらくお待ちください、パラメーターが複雑で、その上、かなり推測しなければなりませんので」

 すこしおいて、
「マスターは時間を止められるのですね?」
「大規模には無理と思うが、多分できると思う」
「……」

 徐々に蒼ざめていくマレーネ、そして、
「容量オーバーで計算不能となりましたが、それでもこの三千世界を、幾つも破壊できるでほどのエネルギーです」
「それが推定の二割と考えます」

「デーヴァは精神エネルギーを好む、もし何者かがこのエネルギーを取り込めるとしたら?」
「完全に取り込めれば、瞬時にこの世界はなくなるでしょう」

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