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第五十九章 明かされる隠し事

11 家畜制度

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 ヒルダさんをエラムへ送り返したのち、私はさらに聞きました。

「このエラムは、バンアレン帯も多少弱く、染色体異常が起こりよい環境であるのは理解できます。」
「とくにY染色体が壊れるXO染色体の固体、つまり女性が多い、しかもレムリアの生体実験の結果が、さらに女性が多いことを助長したのは確かでしょう。」

「このアンバランスが、女を売り物とする、エラムの風習が発生したのは理解できます。」
「その結果の奴隷制も、何となくわかるのですが、本来、奴隷制とは、労働人口の必要性から発生しませんか?」

「非力な女を奴隷にしても、家事労働や売春程度でしょう、せいぜい軽作業しか、できないと思われます。」
「しかしエラムの奴隷制度は、根深い物があります、何らかの必然性がなければ発生しないはず。」
「なぜこのエラムに、これほど根深く奴隷制度が浸透しているのか、不思議なのですが?」

「レムリアが壊滅するすこし前、家畜制度というものを、レムリアは制定しました。」
「飢饉が始まったからです、放射能汚染が農地も汚染し、そこから取れる食糧も汚染が進み、ついには食糧生産が停止しました。」

「生体実験により、死ぬ寸前の女性を植物状態にし、食糧を生産させたのです。」
「マスター、お顔が真っ青ですよ、やめましょうか、すこし人間には刺激的かもしれませんから。」

 姉が、
「私は別室へ行きます、気持ちが悪くなりそうですから、この後は洋人一人で……」
 スタコラと逃げて行きました。

 レムリアの碑文、『レムリアの者ども、ここに罪を悔いる』の本当の意味が、いまこそ分かりました。
 しかし……これほどとは……

「続けてください、なんとか耐えられますから……」

「残ったのは家畜制度での食糧増産です。」
「この家畜制度は好評でした、なぜなら穀物を簡単に、動物タンパク質に変換できるからです。」
「女性は余っていました、レムリア人は女性の重罪人も、家畜制度の対象とし、果ては生体実験用の個体も、転用して量産を始めました。」

 だんだん吐き気がしてきました、許せない行為です、これで私に許せというのですか?

「すいませんが、はしおって説明してください、かなり込み上がるものがありますので……」

「では途中は省略して、結果として、レムリア自身この食糧に依存する羽目に陥り、しかもその食糧も、枯渇してきました。」
「神のたたりと、おそれおののきながらレムリア人は滅亡していきました。」
「そのあと奴隷人種として生き残ったのが、今の人々の先祖になったのは前に説明いたしましたが、この時、この家畜制度が、神の怒りにふれたと、生き残った人々は信じました。」

「しかしマスターが不思議といわれたように、余った女性をどうするかという問題に直面しました。」
「たしかにこの問題を、手っ取り早く解決するなら、家畜制度がベストでしょうが、それでは神の怒りにふれてしまう。」

「この恐れは、残った人々との記憶に遺伝子レベルで組み込まれました、民族としての記憶です。」
「奴隷として人種改良された人々ですので、余った女性を奴隷として扱うことは必然でした。」

「エラムの奴隷制度が根深いのは、この家畜制度への恐怖、神の怒りの恐怖が根底にあり、そこへ奴隷として、人種改良された人々の本質が助長するのです。」
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