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第六十一章 神々の霧の中に

04 思い出に黄昏がやってくる

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 ちょっと待ってくださいよ。

 アスラ族女性体にとって、完全な男性体は邪魔者……
 しかし男性体思考は、存在のために必要だった……

 彼女らは、男性思考のアスラ族女性体を渇望しているとしたら……

 ここにいるのは何者でしょう……

 もってこいの野郎がいますが……

 イシスさんは、後継者に守り育てて欲しかった。
 このエラムや地球を含む世界を、これは確かです。
 この後の推測は怖い物になりますが、『あるがまま、なすがまま、なせるがまま』です。

 いろいろありましょうが、イシスさんとしては お・と・こ が欲しかった。
 心を満たす相手が、欲しかったのです。

 完全な男性体は、どうにも好きになれない、でも男性体思考は必要……
 とにかく、次のヴァルナ評議会議長の資格を持つ者を待った、長い時を休眠しながら。
 エラムに残っていた、ただ一つの稼働するアスラ族の遺物、『しもべ』をセンサーがわりに、三千世界を監視させながら……

 やっと資格を持つ者が出て来て、イシスさんは行動を起こした。
 地球という、辺鄙な惑星のちっぽけな島国に転移した。

 そこで見つけたのが私、吉川洋人という男だったわけです。
 そして一家で仲良く暮らしていた。

 男の子はすくすくと育っていたが、その時、事故が起こった。
 待ちに待った、ヴァルナ評議会議長の資格を持つ者を、ここで亡くすわけにはいかない。

 『しもべ』が全力で対処しているが、こっそりイシスさんも介入した。
 『しもべ』のデーターを書き換えた。
 そして、キュベレーなる男性思考をもつ女性体を作った……

 これが一つのシナリオ、多分、当たらずとも遠からずと思います。

 でも、「こらー、でてこい、使い物にならない身体にしてくれる、はったおしてくれる」です。
 もし実体化して出てきたら、本当に私の、正真正銘の奴隷にしてくれます!

 お尻を真っ赤に叩いて、私の足に口づけをさせてくれます。
 本当ですよ。

「かまいませんよ、アナーヒターが望むなら。」
 突然の声に、私はあわてました。
 腹立ち紛れに、言ったに過ぎない言葉に反応されると……

 本当に実体化されると、知らなくても良いことを、知る羽目になりそうな気がします。
 私の推測が正しければ……

「アナーヒターの恐れは、正しいと思いますよ。」
「私を凌ぐその洞察力なら、どんなに隠しても、真実は明るみに出るでしょう。」
「明星の前には、闇は許されないのでしょう。」

 涙が自然と込みあがってきます。
 私の大事な思い出、薄々感じていましたが、知りたくなかった真実、『しもべ』の説明に、無理やり納得させたのに……
 いま扉が開かれようとしています。

 思い出に黄昏がやってきました。

「そうですね……本来、どちらが存在していたのでしょうね……」
「貴女の口から教えてください。」

「姉さん。」
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