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第六十一章 神々の霧の中に

05 だれが私を殺したの

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 イシスが降臨します。
 姿形は明らかに姉さんですが、圧倒的な迫力があります。
 黒の女神とも呼ばれた女神です。

 でも私には、あの優しい姉です、先程まで私と語っていた姉です、それ以外の何者でもありません。

「姉さんと呼んでもいいですね。」
「まずは約束を履行しましょう。」
 そう云うと、私の足元にひざまずき、口づけをしました。

「姉さん、以後、その様なことはしないでください、とにかくお茶でも飲みましょう。」
「マレーネさん、お茶を用意してください、このまま立ち話は出来ないでしょう。」

「隣の部屋にご用意します、それからこの現状は、とても危険と思われます。」
「これから私が呼ぶまで現れないように、壊れますよ。」

「こちらへどうぞ。」

「アナーヒター、私を姉と認知してくれるのですか?」
「どのような経緯であろうと、貴女が私を、愛情深く育ててくれたことには、変わりはありません。」
「寂しくて悲しくて、途方に暮れた時、貴女はいつも私を守ってくれました、それだけで十分ではありませんか。」

「大体推測はできます、云いたくなければ構いません。」
「隠したいなら、それもいいでしょう、だれでも秘密はあるものでしょう。」
「永遠を生きる女神と云えど、一つや二つはあると思います。」

「まずは感謝いたします、そして『だれが私を殺したのか』は、『だれかが事故で死んだのでしょう』ということです。」
 そう、イシスさんが私を殺して、エラムに転移させたということは、封印するのです。

「『しもべ』のデーターベースには、長い年月に耐えきれず、破損している部分もあり、特に姉上の所に破損が多いようです。」
「本当は貴女が私を助けたのに、いないはずの姉を助け、その姉と協議の結果などという、あの説明は、『しもべ』が自分でデーター修復の際、間違ったのでしょう。」

「『しもべ』には、イレギュラーが発生していますから、そ・う・で・す・ね。」
「これが真実で、これ以外はありません。」
 私は断言しました。

「姉さん、お茶を飲みましょう。」

「アナーヒター、いや洋人さん……、このお茶はおいしいですね。」
「そうですよ、おいしい物に言葉はいりません、姉さん。」

「そうですね、人という生き物も良い物ですね。」
「自分がこんな目にあっても、許せるのですか、こんなにも優しさというものが、活力を刺激するとは思いもしませんでした。」

「洋人さん、貴女は究極のアスラ族、完全体なのです。」
「いまその完全体が、どんなに素晴らしいのか理解しました。」

「でもそんなことより、私の愛した洋人さんが、こんなに立派だったなんて……」
「このお茶、とてもおいしいですね。」

「リリータウンへ戻りましょう、後の話しは、ゆっくりあそこでしましょう。」
「いいにくい話は、これで終わりです。」

「最後に『しもべ』に介入しても良いですか?」
「どうぞ。」

 姉はどうやら今の出来事を消去するみたいです。
「では、いきましょうか。」

「マレーネさん、私たちはリリータウンに戻ります。」
「念のために聞きますが、この宇宙船にいるアスラ族は二人でしょうね?」

「姉上様とマスター以外、存在しません。」
 どうやら効果があったようです、なんたってイシスなのですから。
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