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第六十七章 平和な日々の始まり
09 響くは我らの歓喜(よろこび)の歌
しおりを挟む今日も快晴、朝早く出発した私たちは、エラムの娘の服を着てハイキングです。
ガルダ村の入り口の、赤い翼の鷲が見えてきました。
村人が迎えてくれます。
村長とその妻は、天寿を全うしたそうです。
宿屋の妻の方は元気でした。
あの時のタライと食事を持ってきた、幼い三人の少女は宿屋の娘で二十代の娘盛り、綺麗なものです。
この後、この宿屋のバルコニーから挨拶する手筈です、昼食後だそうです。
あの時、サリーさんはカーテンを外してロープとし、たすき掛けをして、勇ましい格好をしました。
10年とはとても早いですが、膨大な時間です、宿屋の娘を見て痛感します、そして私の規格外なこと……
無条件の愛、人類の愛の奉仕者、宇宙の奉仕者、ですか……
ただこの宿屋の娘の健康な笑顔をみて、私のこの10年も無駄ではなかったと、心より思えます。
この近くの、ガルダ草原に眠る兵士たち、貴方たちのおかげで、この少女はすくすくと育ち、エラムの明日を担うでしょう。
こころより冥福を祈りました。
時間です、私はバルコニーに立ちました。
私は伝達のイメージを思い浮かべます。
「お集まりの皆さま、私は黒の巫女です、私がエラムに来て十年、皆さまには塗炭の苦しみの十年でしたでしょう。」
「父や子、兄や弟、幾万の兵士が三つの戦乱に散りました、お詫びの言葉もありません。」
「しかし彼らのおかげで、このエラムに明日が差してきました。」
「今日のこの快晴のように、きっと明るい明日がやってくると信じています。」
「また明るい明日にするために、力限り努力するつもりです。」
「私はガルダ草原で死んだ、幾万の兵士に涙し、そして誓いました。」
「今日この日で、昨日を悼む涙は終りにする、明日からは汗を流すと……」
「しかしその後も、二度の戦乱が起こり、やっと明日のための汗を流す所まで来ました。」
「皆さん、念願の平和です、やっと待ち望んだ平和、血で購った平和、どうか祝ってください。」
「喜んでください、歓喜の響きを、エラムの大地に響かせましょう。」
どこからか、ベートーヴェンの第九の歓喜(よろこび)の歌が響きます。
この中にカルシュの人もいるのでしょう。
私は歌いました、歓喜(よろこび)の歌を……
皆、一緒に歌ってくれます、徐々に徐々に、歌詞を覚えて、それと共に声も大きく響き始めて……
私の後ろで、女官長さんたちも歌ってくれています。
そして再び、私たちは最後の湖畔の教会へ向かいます。
ドロシーさんが、
「感動してしまいました、エラムで、このエラムで人々が世界の平和を……皆で平和を祝い願って歌ったのです。」
皆さん、同じ思いのようです。
「アナーヒターの面目躍如でしたね、エラムの何かが、変わったような感じですね。」
イシス姉さん、なんか嬉しそうです。
「でも、なんであの宿屋の三人娘、食べなかったの、結構、綺麗で、ポン、ギュ、ポンでしたよ。」
「ほっといてください!これ以上作ってどうするのですか!」
「そうですね、たしかに身がもちません、私も持ちませんし、なにせ順番が開きますからね。」
せっかくの良い雰囲気を、台無しにする女がここにいます。
夕刻前に、懐かしい教会につきました。
「アンリエッタさん、懐かしいですね。」
「あれから十年、ジャンも色気づくはずです、もうすぐおばあさんですね。」
「そうですね、あの時まさか、ここまで生きているとは思いませんでした、時は過ぎ去る一方通行……」
「引き戻せはしません、流れたものは遥か、彼方に消えていきます、代わりのものがやってきます。」
「今晩はこのツァー最後の夜、食事は簡単なものになりますが、その後よろしければ、歌でも歌いましょう。」
女官長さんたちは、聞いていました。
バーバラさんが、
「出来ましたら、アメージンググレースをお願いできませんか?」
「いいですね、リクエストはどんどん受け付けますよ、それに私、ギターという楽器はうまいのですよ。」
「ハモニカもでしょう、お父様のハーモニカ持っているのでしょう、私は聞きたいわ。」
「それにあれは、本当に貴女のお父様の遺品でまちがいありませんよ。」
「まちがいなしに、貴女はお父様とお母様の息子、いまは娘ですが、疑っているようですが、姉は偽物でもご両親は間違いなしです。」
「明日人々の前で吹いてはいかが?」
ありがとう、姉さん、気を使ってくれて……吹きますよ、なんだってね。
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