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第一章
6 ラッシュブルック公爵家にて1
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数日後、ロザリンドはラッシュブルック公爵家にいた。
お茶会後に本当にアリソンからの招待を受け、侍女のルーシーと共に訪れたのだ。
そして天真爛漫なロザリンドと彼女の事を存外気に入ったアリソンは、瞬く間に打ち解け、お互いを愛称で呼ぶほどになった。
「それでね、2週間後の王宮の舞踏会でデビュタントの予定なの。ねえアリーは参加する?」
「もちろん。婚約者が一応王太子だからね。面倒くさくてどうやってサボろうかと思っていたけど、ローザが出るなら楽しそうだわ」
「待って!アリーって婚約してるの!?」
「そうね、まあ幼い頃に」
「素敵!恋をしているのね!」
「ふふふ、それは、どうかしらね…」
王都で王太子の婚約者であるアリソンを知らない者はいない。その為、辺境の地で社交の社の字も知らずに育ったロザリンドの反応はいちいち新鮮だった。
夜会やお茶会ではやがて王妃となる自分と繋がりを持って、ゆくゆくは王家と繋がろうと目論む打算的な人間ばかりが近付いてくる。
繋がればそれなりに利益になる者もいるが、最近はそんな人間たちに些か辟易としていたアリソンは、表裏がなく素直なロザリンドを好ましく思った。同年代の令嬢には絶対に呼ばせなかった愛称も秒で許してしまった程だ。
アリソンの婚約者の話題でしばしロザリンドが妄想に浸っていると、アリソンの侍女が来客を告げにやって来た。
「特にお約束している人はいないけど、誰かしら?…ああ、やっぱり来た?まったくどこで嗅ぎつけてくるのやら…」
怪訝な表情のアリソンに、ロザリンドが首を傾げていると、サロンの扉を勝手に開けてウォーレンが入ってきた。
「おいアリー!友達が来ていると聞いたぞ!何故俺を呼ばない!」
ワクワクとした表情で駆け込んできたウォーレンにアリソンは冷たい視線を送る。
「呼ぶわけ無いでしょうが。馬鹿なの?」
「えっと、アリーこちらの方は?」
首を傾げて尋ねるロザリンドを見たウォーレンはハッと目を見開き、物凄い勢いでロザリンドの手を取ると、片膝を立てて跪く。
「これはこれは美しいレディ!俺はウォーレン・グレッグ・パーカーと申します。以後お見知りおきを…」
ウォーレンはそう言うとロザリンドの手の甲にチュッと口付ける。
その手をアリソンが急いで引き剥がし、「ローザが穢れる」と言いながらハンカチでゴシゴシと拭いた。
一方、ロザリンドは突然の出来事に呆気にとられてポカンとしていたが、ルーシーの咳払いにハッと我を取り戻し、慌ててカーテシーを取る。
「失礼いたしました。わたくしはロザリンド・リリアン・パスカリーノ。パスカリーノ辺境伯家の長女でございます。こちらこそ、以後お見知りおきを」
「ローザ、こんな奴にそんなに丁寧に挨拶なんていらないわよ」
「酷いなー。アリーと俺との仲だろう?」
アリソンとウォーレンは親しげに軽口を叩きあった。
「えと、お二人はどういったご関係で?」
キョトンとするロザリンドの姿に「あらやだ、すごく可愛い」とアリソン。
「母方の従兄よ。彼の父親のパーカー公爵がわたしくしの母の弟なの。それから婚約者のアーサー殿下の従弟でもあるわ」
「俺の母親が陛下の妹なんだよ」
「まあ、そうなんですね」
ウォーレンも交えて、3人は再びお茶を囲んだ。
―――――1時間後
「ロザリンド嬢、君は見た目と中身の差が激しすぎないか!?」
「あら、そこがいいんじゃない。馬鹿ね」
アリソンとウォーレンのやり取りにロザリンドは再び首を傾げた。
「え?わたくし何かおかしな事言ったかしら?」
お茶会後に本当にアリソンからの招待を受け、侍女のルーシーと共に訪れたのだ。
そして天真爛漫なロザリンドと彼女の事を存外気に入ったアリソンは、瞬く間に打ち解け、お互いを愛称で呼ぶほどになった。
「それでね、2週間後の王宮の舞踏会でデビュタントの予定なの。ねえアリーは参加する?」
「もちろん。婚約者が一応王太子だからね。面倒くさくてどうやってサボろうかと思っていたけど、ローザが出るなら楽しそうだわ」
「待って!アリーって婚約してるの!?」
「そうね、まあ幼い頃に」
「素敵!恋をしているのね!」
「ふふふ、それは、どうかしらね…」
王都で王太子の婚約者であるアリソンを知らない者はいない。その為、辺境の地で社交の社の字も知らずに育ったロザリンドの反応はいちいち新鮮だった。
夜会やお茶会ではやがて王妃となる自分と繋がりを持って、ゆくゆくは王家と繋がろうと目論む打算的な人間ばかりが近付いてくる。
繋がればそれなりに利益になる者もいるが、最近はそんな人間たちに些か辟易としていたアリソンは、表裏がなく素直なロザリンドを好ましく思った。同年代の令嬢には絶対に呼ばせなかった愛称も秒で許してしまった程だ。
アリソンの婚約者の話題でしばしロザリンドが妄想に浸っていると、アリソンの侍女が来客を告げにやって来た。
「特にお約束している人はいないけど、誰かしら?…ああ、やっぱり来た?まったくどこで嗅ぎつけてくるのやら…」
怪訝な表情のアリソンに、ロザリンドが首を傾げていると、サロンの扉を勝手に開けてウォーレンが入ってきた。
「おいアリー!友達が来ていると聞いたぞ!何故俺を呼ばない!」
ワクワクとした表情で駆け込んできたウォーレンにアリソンは冷たい視線を送る。
「呼ぶわけ無いでしょうが。馬鹿なの?」
「えっと、アリーこちらの方は?」
首を傾げて尋ねるロザリンドを見たウォーレンはハッと目を見開き、物凄い勢いでロザリンドの手を取ると、片膝を立てて跪く。
「これはこれは美しいレディ!俺はウォーレン・グレッグ・パーカーと申します。以後お見知りおきを…」
ウォーレンはそう言うとロザリンドの手の甲にチュッと口付ける。
その手をアリソンが急いで引き剥がし、「ローザが穢れる」と言いながらハンカチでゴシゴシと拭いた。
一方、ロザリンドは突然の出来事に呆気にとられてポカンとしていたが、ルーシーの咳払いにハッと我を取り戻し、慌ててカーテシーを取る。
「失礼いたしました。わたくしはロザリンド・リリアン・パスカリーノ。パスカリーノ辺境伯家の長女でございます。こちらこそ、以後お見知りおきを」
「ローザ、こんな奴にそんなに丁寧に挨拶なんていらないわよ」
「酷いなー。アリーと俺との仲だろう?」
アリソンとウォーレンは親しげに軽口を叩きあった。
「えと、お二人はどういったご関係で?」
キョトンとするロザリンドの姿に「あらやだ、すごく可愛い」とアリソン。
「母方の従兄よ。彼の父親のパーカー公爵がわたしくしの母の弟なの。それから婚約者のアーサー殿下の従弟でもあるわ」
「俺の母親が陛下の妹なんだよ」
「まあ、そうなんですね」
ウォーレンも交えて、3人は再びお茶を囲んだ。
―――――1時間後
「ロザリンド嬢、君は見た目と中身の差が激しすぎないか!?」
「あら、そこがいいんじゃない。馬鹿ね」
アリソンとウォーレンのやり取りにロザリンドは再び首を傾げた。
「え?わたくし何かおかしな事言ったかしら?」
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