ど天然田舎令嬢は都会で運命の恋がしたい!

上木 柚

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第一章

5 出会いのお茶会

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「え?それでは皆様、馬には乗りませんの?狩りの時には馬に乗れないと話にならないではないですか?」
「まあ、ロザリンド様はご冗談がお上手ですのね。殿方の狩りに同行する事はありますが、天幕を張ってそこでお茶会をしながら待ちますの。参加はいたしませんわ。ふふふ」
「え?狩りの場で天幕を張ってお茶会を…?…都会のご婦人やご令嬢は思っていたよりも、とても豪胆なのですね…知らなかったわ…手負いの獣が襲ってくるかもしれない中、お茶を頂けるなんて!皆様、よほど腕に自信がおありなのね!素晴らしいわ!得物はやはりクロスボウ?それとも鉄砲かしら!?」
「え??て、手負いの獣??襲ってくる??得物…?」

 麗らかな春の陽射しが降り注ぐプリスコット侯爵家のサロンではいくつかの円卓が用意された中規模のお茶会が行われていた。
 プリスコット侯爵夫人の関係者でその年にデビュタントを迎える令嬢たちの為に、同年代の令嬢との顔繋ぎの場として毎年開催されている。
 淡い水色の訪問用デイドレスに身を包み、ドレスと共布のリボンで輝く金色の巻き毛をハーフアップに纏めた、まるで動く美しい人形の様なロザリンドが義姉のクリスティーナに連れられてサロンに現れると、出席していた者たちの注目を一身に集めた。
 5歳で辺境の領地に移り住んでからというもの、年に数回程度しか王都に来なかったロザリンドを知る者はほとんどなく、皆興味津々に話しかける。先程からトンチンカンな回答をし続けているのだが、鈴を転がしたような可愛らしい声とあまりに可憐な風貌にあてられ、『辺境育ち故に少し感覚がズレているのかな?』くらいに周囲は受け止めていた。
 その様子を傍から見ていたアリソンは笑いを噛みしめるのに必死だった。

―――ずいぶん面白い子が現れたわね。とても興味深いわ。

 お茶会も終わりに近づき、そろそろと出席者達が帰り支度を始める頃、アリソンはロザリンドにスッと近づき話しかけた。

「お茶会は楽しめたかしらロザリンド様」
「すっごく楽しかったわ!…あ、失礼しました、とても楽しめましたわ。ほほほ」

 アリソンの問いかけに最初とても元気よく返事をしたロザリンドだったが、後ろに控えていた侍女のルーシーが小さく咳払いすると、慌ててしおらしくしてみせた。その姿がとても可愛らしく、アリソンは思わず頬を緩めた。

「ええと、申し訳ありません、お名前を伺っても?」
「アリソンよ。アリソン・ポリー・ラッシュブルック」
「大変失礼いたしました!公爵家の方だったのですね!」
「いいのよ。ねえ、それより貴女ってとっても楽しい方ね。良かったら今度うちにもいらして?わたくしもっと貴女とお話してみたいの」
「ちょっと聞いた!?ルーシー!お友達が出来そうよ!」

 アリソンの誘いにエメラルドの大きな瞳をカッと見開いたロザリンドは、物凄い勢いで後ろに控えたルーシーに声をかける。そして、ルーシーがまた咳払いをすると、ハッとした様に再びアリソンの方を見る。

「ごめんなさい!嬉しすぎてつい…是非伺わせていただきます。ほほほほ」

 コロコロと変わるその表情に、アリソンはついに吹き出した。

「ふふふ、失礼。本当に面白いお嬢様ね。ええ、ぜひいらしてちょうだいな。手紙を出すわね」

 アリソンはロザリンドに微笑むと、付き添いの侍女と共にサロンを後にした。

「ローザ、わたくしたちもそろそろお暇しましょう。あら、何かあった?嬉しそうね」

 主催のプリスコット侯爵夫人サマンサとの話を終えたクリスティーナがロザリンドに声をかけると、ロザリンドは頬をほんのり赤く染めて……フンスフンスと鼻息を荒くし、傍らのルーシーは額に手を当てて俯いていた。

「クリスお姉様!わたくしお友達が出来たわ!お家に誘っていただいたわ!同年代のお友達よ!?なんて嬉しいの!」
「お嬢様、もう少し声を小さく…」
「王都で育む友情!青春!素晴らしいわね!ぜひ一緒にたんて「公爵家のご令嬢をおかしな道に巻き込んではなりません!」」

 またおかしな事を言いそうな空気を察したルーシーがピシャリと食い気味にロザリンドを止める。するとロザリンドは「なによぅ」と口を尖らせる。
 その様子を見ていたクリスティーナは『この先社交界でやっていけるのかしら…心配すぎる』と遠い目をした。
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