ど天然田舎令嬢は都会で運命の恋がしたい!

上木 柚

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第二章

36 誘拐犯

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「またですか?カートライト卿」

 ぽっちゃりとしたお腹を上着の中になんとか収め、冬だというのに汗を拭いながら部屋に入ってきた男。
 ゲイリー・ユーバンク・カートライトはパスカリーノ辺境伯家が治めるアランドルベルムの隣、クドルベルムという小さな領地を治めるカートライト子爵家の長男である。クドルベルムは隣国と接しているわけではないが、辺境に程近い為、有事の際には出兵する義務がある。
 3年前、領主教育の一環として、現カートライト子爵によって辺境騎士団に一時期入団させられていたゲイリーは、当時まだ12歳だったロザリンドに一目惚れ。以来、20歳の男がまだデビュタントも迎えていない少女を付け回し、隙あらば求婚すると言う迷惑行為を繰り返し、ついには強制退団の上、子爵家へ送り返されるという事態を引き起こした。
 そんな事もあり、基本的に誰とでも仲良く打ち解けるロザリンドだが、ゲイリーだけは生理的に受け付けない。

「酷いなぁ。ゲイリーだよ!君と僕との仲じゃないか!名前で呼んで欲しいな!」
「わたくしとカークライト卿の仲…。赤の他人って事ですね?」
「つれないなぁ。まあ、いいさ。君と一緒にいたあの男がどうなってもいいのかな?」
「ウォーレン様に何をするつもりです!?」

 ロザリンドがウォーレンの名前を出すと、ゲイリーは顔を歪ませながら近付いてくる。
 ロザリンドは後退しながら離れようとするが、壁にぶつかり、距離を詰められてしまう。

「ウォーレン?あの男の事は名前で呼ぶくせに、何で僕の事は呼んでくれないんだ!あの男は君の何なんだよ!」

 顔を真っ赤にして怒りを顕にするゲイリーは、ロザリンドの顎を掴むと力尽くで自分の方に向けると、痛みでロザリンドは顔を歪ませた。

「ウォーレン様は友人です。…離してっ!」

 両手を縛られてはいたが、何とかゲイリーを押し退けたロザリンドは、ゲイリーが尻もちをついている間に急いで距離を取った。

「痛いなぁ。本当にお転婆だな、リトル・エンジェル。でも、強気でいられるのは今のうちだよ」

 床に尻もちを付き、舌舐めずりしながらロザリンドを見上げるゲイリーに、ロザリンドはゾクッと背中に寒さを感じ『気持ち悪っ!』と心の中で叫んだ。心なしかゲイリーの後ろにいる少年も『うわぁ、ヤバイやつ』という表情でゲイリーを見ている。

「とにかく、ウォーレン様を開放して下さい!誰だかわかってます?」

 ロザリンドの言葉にゲイリーはキョトンとしていたが、次の言葉で青褪めた。

「彼はウォーレン・グレッグ・パーカー。パーカー公爵家の令息で、王太子の従弟にして、その婚約者の従兄です。誘拐したなんてバレたら大ごとですよ?」
「き、君はなんて人物を連れ歩いてるんだ!どこかに書いといてくれよ!わからないじゃないか!」
「はぁ?そっちが勝手に誘拐したんじゃない!」

 睨み合うロザリンドとゲイリーだったが、途中『あ、これってある意味見つめ合ってないか!?なんだよ睨んだ顔も可愛いな、むしろもっと睨んで、なんなら罵って…』と邪な考えがよぎったゲイリーが、急にデレっとした顔になった事で、ロザリンドが「ひぃ!気持ち悪っ!」と思わず叫び終了した。

「とにかく、あの男…えーと、その、パーカー公爵令息様を開放したければ、僕と!僕と婚約するんだ!「お断りよ!」」

 食い気味で断ったロザリンドに、ゲイリーは涙目になりながら、尚も食い下がった。

「あの男がどうなってもいいのか!?」
「どうにかして、困るのはそちらでしょう!?」
「そうだけど!」

『そうなのかよ』と少年が心の中でツッコミを入れる。ゲイリーはまたもや顔を真っ赤に染め、「見張っておけよ!」と少年に命令すると、足早に部屋を出ていった。
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