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第三章
52 事の顛末
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「恋…俺が?ロザリンド嬢に?」
ぶつぶつと呟くウォーレンを尻目に、アリソンは想像する。
―――もしローザとウィンが上手い具合にまとまって婚姻を結んだら…、わたくしの従兄であり、アーサーの従弟。それも、どちらともきょうだい同然に育ってきた存在。つまり、王太子妃になって、王城で暮らすようになっても、今みたいにいつでもローザに会えるのではないかしら?だって、ほぼ兄妹のウィンの妻なんだから、ローザとも実質姉妹みたいなものよね?
「…悪くないわね。むしろ最高に良いわ」
恍惚と笑うアリソンに気付いたウォーレンは、「また碌でもないことを考えているな」と胡乱な視線を送った。
「おい、何を考えてるんだ?」
「別に悪いことじゃないわよ。大切な従兄の恋路を応援してあげようと思っただけ」
「いや、絶対にそれだけじゃない気がするんだが…」
「そんな事よりも、これを見てちょうだい」
アリソンは先程から見ていた書類をウォーレンに手渡した。
「これは?」
「先日言ってた話の調査結果よ」
「ああ、ノース伯爵令嬢の…」
ウォーレンはパラパラと調査結果を読むと、眉間に皺を寄せる。
事の顛末はこうだった。
ファインズ侯爵家では、様々な仕事が細分化され、業務を効率的に行い、残業や長時間の勤務を無くした環境の良い職場として、使用人達に好評な家だった。そこでジュリアは細分化された仕事を逆手に取り、主に手紙や荷物を受け取ったり、配達手続きをしたりする仕事をしていたメイドに近付いた。
表面では仲良くしたいと近付き、裏で金で雇った者たちに、そのメイドが多額の借金を背負うように仕向けた。
困り果てたそのメイドに「力になりたいの」と声をかけ、借金を肩代わりする代わりにあるお願いをした。
そのお願いとは、ロザリンドからトマスに来た手紙と、トマスからロザリンドに出された手紙を抜き出して自分に渡す事。
そうやって、二人のやり取りを妨害しつつ、トマスには会うたびにロザリンドに関する悪い印象の作り話を語り続ける。メイドから手に入れたロザリンドの手紙の内容を織り交ぜつつ、「わたくしにはお手紙がよく来ますのに…」などと言いながら…。
そして、だんだんとトマスが弱り始めた頃に甘い言葉を囁やき、自分の家から婚約を打診させた。
もともと、両家には仕事上の付き合いがあった事もあり、トントン拍子に話はまとまり、見事に婚約者に収まったのだ。
「思ったよりも酷いな…」
「とんでもないご令嬢よね。ちなみに、そのメイドは良心の呵責に苛まれて、ファインズ侯爵家を去っていたわ」
「このままにしておくのは癪だ」
「同感ね。さて、どうしてくれようかしら…」
アリソンの黒い笑みに、いつもと違い、頼もしさを感じるウォーレンであった。
ぶつぶつと呟くウォーレンを尻目に、アリソンは想像する。
―――もしローザとウィンが上手い具合にまとまって婚姻を結んだら…、わたくしの従兄であり、アーサーの従弟。それも、どちらともきょうだい同然に育ってきた存在。つまり、王太子妃になって、王城で暮らすようになっても、今みたいにいつでもローザに会えるのではないかしら?だって、ほぼ兄妹のウィンの妻なんだから、ローザとも実質姉妹みたいなものよね?
「…悪くないわね。むしろ最高に良いわ」
恍惚と笑うアリソンに気付いたウォーレンは、「また碌でもないことを考えているな」と胡乱な視線を送った。
「おい、何を考えてるんだ?」
「別に悪いことじゃないわよ。大切な従兄の恋路を応援してあげようと思っただけ」
「いや、絶対にそれだけじゃない気がするんだが…」
「そんな事よりも、これを見てちょうだい」
アリソンは先程から見ていた書類をウォーレンに手渡した。
「これは?」
「先日言ってた話の調査結果よ」
「ああ、ノース伯爵令嬢の…」
ウォーレンはパラパラと調査結果を読むと、眉間に皺を寄せる。
事の顛末はこうだった。
ファインズ侯爵家では、様々な仕事が細分化され、業務を効率的に行い、残業や長時間の勤務を無くした環境の良い職場として、使用人達に好評な家だった。そこでジュリアは細分化された仕事を逆手に取り、主に手紙や荷物を受け取ったり、配達手続きをしたりする仕事をしていたメイドに近付いた。
表面では仲良くしたいと近付き、裏で金で雇った者たちに、そのメイドが多額の借金を背負うように仕向けた。
困り果てたそのメイドに「力になりたいの」と声をかけ、借金を肩代わりする代わりにあるお願いをした。
そのお願いとは、ロザリンドからトマスに来た手紙と、トマスからロザリンドに出された手紙を抜き出して自分に渡す事。
そうやって、二人のやり取りを妨害しつつ、トマスには会うたびにロザリンドに関する悪い印象の作り話を語り続ける。メイドから手に入れたロザリンドの手紙の内容を織り交ぜつつ、「わたくしにはお手紙がよく来ますのに…」などと言いながら…。
そして、だんだんとトマスが弱り始めた頃に甘い言葉を囁やき、自分の家から婚約を打診させた。
もともと、両家には仕事上の付き合いがあった事もあり、トントン拍子に話はまとまり、見事に婚約者に収まったのだ。
「思ったよりも酷いな…」
「とんでもないご令嬢よね。ちなみに、そのメイドは良心の呵責に苛まれて、ファインズ侯爵家を去っていたわ」
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アリソンの黒い笑みに、いつもと違い、頼もしさを感じるウォーレンであった。
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