55 / 66
第三章
53 領地からやってきた
しおりを挟む
その日、パスカリーノ辺境伯家タウンハウスには、領地からあるものが到着した。
未だに落ち込んでいるロザリンドは、やはり部屋に籠りがちで、鈴の様な笑い声も、くるくると変わる表情もあまり見られなくなっていた。
「ローザ、ちょっと裏庭に出てみない?」
ロザリンドの兄ブラッドリーの妻、クリスティーナが、裏庭散策に誘いに来た。
ロザリンドは少し考えて、「今日はやめておくわ」と断ろうとすると、「いいから!ちょっと来てみなさいな!」と半ば強引に連行された。
「何かあるの?お義姉さま」
「うふふ。それは見てのお楽しみよ!」
楽しそうにロザリンドの手を引くクリスティーナに、渋々裏庭へと向かう。
タウンハウスの裏庭は馬車用の馬がいる厩舎などがあり、馬用の運動場などが設けられ、庭園と言うよりは馬場の風情だ。
ガッシリとした筋肉で引き締まった体躯、漆黒の鬣、知性を感じさせる、凛として黒く大きなその瞳にロザリンドを捉えると、嬉しそうな嘶きが聞こえてくる。
「え!?まさか!」
その声にロザリンドは弾かれたように顔を上げ、その姿を見つけると、いても立ってもいられずに走り出した。
「っ!エドワード!」
飛びついてきたロザリンドの顔に頬ずりをするエドワード。ロザリンドはそんなエドワードの身体を優しく撫でながら、久方ぶりの笑顔を浮かべた。
「お前の元気がないから、領地から呼び寄せたんだ」
「ありがとう!お兄様!」
エドワードに付き添っていたブラッドリーが、ロザリンドの頭を撫でながら、あまりに大きいエドワードに尻込みしているマルコムを手招きする。
「マルコムおいで!大丈夫だから!」
侍従の足にしがみついて怯えていたマルコムは、ヒョコッと顔を出すと「ほんとに?」目を潤ませている。そのなんとも愛らしい姿に、ロザリンドも思わず笑顔が弾ける。
「なんて可愛いのマルコム!大丈夫よ!エドワードは見た目はとっても頼もしいけど、すっごく優しい子だから!」
ロザリンドの言葉にエドワードが「当然だ」と言うかのように、歯を見せてニッと笑ったように嘶くと、「うわぁー!母上ー!」とマルコムはクリスティーナの元へ全速力で走った。
その様子に一同が笑顔で場が和んだ時、執事がブラッドリーの元へやってきて来客を告げた。
「若旦那様、トマス・バリー・ファインズ候爵令息様がお越しです」
「え?そうか、では応接室へ。ローザ、お前は部屋に戻っていなさい。マルコムと遊んでやってくれ」
ブラッドリーは突然のトマスの訪問に眉を顰めるも、対応すると執事に指示し、応接室へと向かって行った。
「トマス様?なんで?」
ロザリンドは疑問に思いつつも、可愛い甥っ子の手を引き、自室へ戻った。
未だに落ち込んでいるロザリンドは、やはり部屋に籠りがちで、鈴の様な笑い声も、くるくると変わる表情もあまり見られなくなっていた。
「ローザ、ちょっと裏庭に出てみない?」
ロザリンドの兄ブラッドリーの妻、クリスティーナが、裏庭散策に誘いに来た。
ロザリンドは少し考えて、「今日はやめておくわ」と断ろうとすると、「いいから!ちょっと来てみなさいな!」と半ば強引に連行された。
「何かあるの?お義姉さま」
「うふふ。それは見てのお楽しみよ!」
楽しそうにロザリンドの手を引くクリスティーナに、渋々裏庭へと向かう。
タウンハウスの裏庭は馬車用の馬がいる厩舎などがあり、馬用の運動場などが設けられ、庭園と言うよりは馬場の風情だ。
ガッシリとした筋肉で引き締まった体躯、漆黒の鬣、知性を感じさせる、凛として黒く大きなその瞳にロザリンドを捉えると、嬉しそうな嘶きが聞こえてくる。
「え!?まさか!」
その声にロザリンドは弾かれたように顔を上げ、その姿を見つけると、いても立ってもいられずに走り出した。
「っ!エドワード!」
飛びついてきたロザリンドの顔に頬ずりをするエドワード。ロザリンドはそんなエドワードの身体を優しく撫でながら、久方ぶりの笑顔を浮かべた。
「お前の元気がないから、領地から呼び寄せたんだ」
「ありがとう!お兄様!」
エドワードに付き添っていたブラッドリーが、ロザリンドの頭を撫でながら、あまりに大きいエドワードに尻込みしているマルコムを手招きする。
「マルコムおいで!大丈夫だから!」
侍従の足にしがみついて怯えていたマルコムは、ヒョコッと顔を出すと「ほんとに?」目を潤ませている。そのなんとも愛らしい姿に、ロザリンドも思わず笑顔が弾ける。
「なんて可愛いのマルコム!大丈夫よ!エドワードは見た目はとっても頼もしいけど、すっごく優しい子だから!」
ロザリンドの言葉にエドワードが「当然だ」と言うかのように、歯を見せてニッと笑ったように嘶くと、「うわぁー!母上ー!」とマルコムはクリスティーナの元へ全速力で走った。
その様子に一同が笑顔で場が和んだ時、執事がブラッドリーの元へやってきて来客を告げた。
「若旦那様、トマス・バリー・ファインズ候爵令息様がお越しです」
「え?そうか、では応接室へ。ローザ、お前は部屋に戻っていなさい。マルコムと遊んでやってくれ」
ブラッドリーは突然のトマスの訪問に眉を顰めるも、対応すると執事に指示し、応接室へと向かって行った。
「トマス様?なんで?」
ロザリンドは疑問に思いつつも、可愛い甥っ子の手を引き、自室へ戻った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる