『達也と美咲の複雑な航路』

『達也と美咲の複雑な航路』

「結婚ってどう思う？」

坂本達也は友達の美咲に、思い切って結婚について尋ねてみた。　

彼女は結婚しており、家庭もある。でも、普段から「結婚しても自由が減るし、めんどくさいよね」なんて言っているから、どんな答えが返ってくるか予想していた。

「結婚？」

美咲は少し驚いた顔をしたが、それからすぐに軽く笑って言った。

「うーん、結婚はいいけど、しなくても別にいいんじゃない？ 私は結婚してるけど、時々自由がほしいなって思うこともあるし」

私は少し笑った。

「でもさ、独身だと寿命が短くなるとか言われるし、病気になったときとか誰かいてくれた方が安心じゃない？」

美咲は少し考え込んだ後、また軽く笑いながら言った。

「確かに、誰かと一緒にいたら安心だけど……それでも結婚してるからこそのストレスもあるしね。だから、結婚しているからって必ずしも安心なわけじゃないよ」

「うーん、そうかもね」

「だから、結婚しなくても、ちゃんと周りに頼れる人がいればいいと思うよ。結婚してるからって、問題が解決するわけじゃないし」

その言葉を聞いて、私は少しほっとした。

　

すると、美咲が突然真剣な顔で言った。

「でもさ、あなたが結婚したら、奥さんと一緒にいる時間が増えるだろうし、私との時間が減るじゃん」

私はびっくりして、美咲を見つめた。

「え？」

「だって、結婚したら、奥さんと一緒に過ごす時間が増えて、私たち二人だけの時間が少なくなるんじゃない？ そんなの嫌だよ」

私はその言葉を聞いて、少し驚きながらも、胸が温かくなるのを感じた。彼女が本気で心配してくれていることが伝わってきた。

「でも、あなたには旦那さんがいるじゃん。私が結婚しても、別に変わらないよ」

美咲は真顔で言った。

「いや、私だって結婚してるけど、あなたと二人で過ごす時間が好きなんだよ。だから、あなたが結婚してしまうと、すごく寂しくなっちゃう」

その時、突然美咲が私の手を取った。

「え？」

「好きだよ」

私はその言葉に驚いた。まさかの告白に、胸がドキドキした。こんな展開が待っていたとは思わなかった。

「え？ ちょっと待って、どういうこと？」

美咲は少し照れくさそうに、でも真剣な眼差しで言った。

「だから、あなたが結婚しちゃったら、私と会う時間がなくなっちゃうでしょ？ それが寂しいんだよ。好きだって、そういうことだよ」

私は言葉を失った。心の中で色々な感情が交錯し、何か言わなければと思うが、どこかで言葉が出てこなかった。美咲が本気で私を大切に思ってくれていることがわかる一方で、どう反応すればよいのか悩んでいた。

その時、横浜中華街の通りを歩いていたことを思い出した。周りの賑やかな雰囲気が、私たちの会話をさらに不思議なものに感じさせた。

「……帰ろうか？」

ふと、美咲が言った。その言葉に、私は何も言わずに頷いた。

そのまま歩いてタクシーに乗り込んで、私たちはそれぞれの家に向かうことにした。無言のままタクシーの中で窓の外を見つめながら、心の中はあまりにも複雑な気持ちでいっぱいだった。