ゼラニウム

ぴぽ子

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 朝起きたら隣に彼がいる。稀に間に犬がいる。
 見てこの、天使が下界に舞い降りたかのような姿を!美しい。こんな素敵な男性が私の彼氏だなんて信じられない。
 同棲はしてないが、週3か4は彼が家に泊まりに来てくれる。最初は警戒心剥き出しだったブン太も彼の美貌にやられたのか、今ではすっかり虜だ。

 私の朝は早い。毎日5時半に起きて、支度をしてクリニックに向かう。それに比べて朝遅い彼は、私が支度をしている間、朝ごはんを作ってくれる。
 料理はあまり得意ではないそうで、最初の頃は目玉焼きを作ると言っては最終的にスクランブルエッグを完成させた。今は料理の腕がかなり上達したと彼は自信満々に話している。
 私は7時に家を出て、彼は8時に家を出る。時々、一緒に家を出る日もあるがそれは本当数え切れるくらいだ。


 家に帰ると、ブン太がお迎えをしてくれる。短い尻尾をこれでもかというくらいブンブン振っている後ろ姿はまさに心打たれる可愛さ。目の保養以外のなにものでもない。
 彼も定時であがれる日はいつも来てくれるから嬉しい。今日は定時であがれるって言ってたから、夕飯は彼の分も作ろうと。


 毎日幸せだ。会えない日でも連絡はまめにとってくれるから、寂しくない。
 もし不満があるとしたらそれは一つ、結婚かな。私は今年で26歳で彼は28歳になる。もうそろそろ結婚したい時期である。
 でも、彼の元カノさんの話を思い出すと、結婚の話を持ち出すことはできない。本当は彼の方から聞きたい言葉でもあるから、私からは何も言わないようにしてる。
 私の気持ちに早く気づいて。





 土曜出勤の日。なぜか彼に友人と遊びに行ってきなと言われた。しょうがないから、鶴ちゃんの家で夕方まで過ごすことにした。
 鶴ちゃんの子供はもう年長さんだ。言葉もたくさん覚え、よく話すようになり、私のことをあんずう!と呼んでくる。子供の成長って早すぎ~と鶴ちゃんと話した。



 19時を過ぎた頃に家の前に着いた。夕方までと思ってたけど、これはもう夜だ。
 鍵を開けて家に入ると、いつものブン太のお迎えがない。よく見たらリビングの扉が閉まってる。玄関には男性用の靴が置いてある。彼が来てるの?

 リビングの扉を開けると、まず最初にテーブルが目に入った。可愛い柄のロゼのボトルとグラスが2つ。スペアリブとパエリアとアヒージョが並んでいる。なぜか真ん中にはオレンジが積まれている。キャンドルなんて私持ってたっけ…

 「おかえりなさい。」

 キッチンからシャツを腕まくりした彼と蝶ネクタイをしたブン太がやってきた。

 「今日って何かの記念日でしたっけ?」

 「いや。でも、記念日になるよ。」

 「どういうこ…」

 私が言い終える前にキスをしてきた。彼がキスをしながら私の頭を撫でる。そして、私の髪を手でとかしながら彼は言った。

 「杏子の髪はとても綺麗だ。長いのも似合うよ。」

 私を見つめる彼の瞳はなぜか懐かしそうなモノを見ているようだった。
 彼は跪いてポケットから小さな箱を出した。なんだろうこの空気は。期待してもいいのかな。

 「ずっと前から好きでした。貴女とこれから先も一緒にいたいです。

 僕と結婚してください。」

 彼は箱を開けた。そこには小さなダイヤがついた銀色の指輪が入っていた。
 私は返事もせずに彼に抱きついた。そして、泣いた。まるで子供みたいにわんわんと泣いた。私が泣くものだから、ブン太も私と彼にくっついた。

 「これはOKということでいいのかな?」

 抱きついた私を支えていた彼だったが、私が頷くと、今度は彼が私のことを強く抱きしめた。

 「もう泣かなくていいんだよ。僕がずっと側にいるからね。」

 「これは感動の涙だから泣いてもいいんだよ!」

 私をなぜか泣き虫扱いしてきた彼のほっぺをぐにぐにと触った。彼はクスッと笑って、また私にキスをする。


 ずっと前からっていつからなの王子様。

 
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