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第五の記録
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「今日の成果はどうでした?」
顔も合わせずに大久保が聞いてくる。初めから返答など期待していない、といった風だ。
しかし、それも無理はなかった。我々のいる交番はとにかく何も起こらない。
「今日も車1つさえ当たらなかった。相変わらずだな、ほんとに」
後藤は淡々と言う。最近はこの報告もマンネリとしている。
大久保は特にそれに反応するでもなく、奥の部屋に入っていった。
「なんかこの仕事、馬鹿みたいですね」
溜息と共に大久保が言い放つ。
大久保とこの交番でタッグを組んで長く経つが、最初の頃はやる気に燃えていた青年であった。
小学生の時分から警官に憧れていたという彼の目は、芯が通っていた。このような人間が、出世を重ね、凶悪犯罪撲滅の第一人者として前線に名を連ねていくのだろうな、と後藤は感じていた。初めて会った時、後藤は度肝を抜かれた。自分には無い、熱量があったからだ。現に、交番の巡査は犯罪が身近にあり、特に問題も無ければ、トントンと出世できるのが常だ。
しかし、彼は今こうして、項垂れている。それは彼の責任ではない。
その後も文字は続いていた。
「何だこれは…!」
後藤は思わず原稿用紙を落とす。
五つ目の”記録”は、自分たちのものだったというのか…!
「これは正しくお前が言った、”記録させられている”状態じゃないか…!」
「…それよりも、もっと非条理なものかもしれません…」
「…」
沈黙だけがそこに流れた。
挫けている場合ではない。何か手を打たなければ。後藤はまた自戒した。
物理的な脱出が不可能であるなら、残されているのは、最早犠牲者達が残した凄惨な”記録”しかない。これを読み解く他は無い。
記録が始まれば、怪異はすぐそこまで来ている。これは、四項で何度も見た光景だ。然し、未だ件の男は、窓の外には現れていない。これは如何なる事を示すのか。後藤は頭を概括させる。
始まりは、警察官による日誌。近辺で怪異が始まり、それが伝播するかの如く交番に襲来した。そして、交番に一ヶ月程、奇妙な事象を招いた。最期は不明だが、恐らく外に出たところ、というオチだろう。この時点では、交番としての怪異は薄い。本人は抑、交番に留まっていたと思われる其れを、最後の段階まで目撃していない。然も、この男性の場合は、某かが交番内に侵入して来たのでは無く、自ら話を聞きにいった事が直接的な原因なのだろう。訪問者がいる事からも、異界とは呼び難い。
次に、黄ばんだ原稿用紙。ある雨の日に現れたフードを被った男が立ち尽くしていた。依然として微動だにせず、奇怪な状況が続いていたが、晴れていた日に、フードを取った男の顔を目撃してしまう。あまりの恐怖に居ても立っても居られなくなり、警察官を辞し、記録を残して去った。大久保の推理では、この話には続きがあるかもしれないという。真偽は不明だが、同僚などが目撃している点から、怪異は日誌よりも強いと定義できる。
カセットテープは、偶々テープを記録していた際、奇妙な男を目撃。その儘、成す術も無く、交番内の電気が消え、侵入してきた其れに襲撃を受ける。大久保の推理では、最初から異界に誘い込まれていた可能性が高く、記録されている怪異としては、原稿用紙よりも格段に強くなっている。最初に現れた女性が、普通の人間とは異なるものであったとするならば、外界との関係は完全に断たれていた事にもなり、侵入してきたという事象からも、怪異の強さが伺える。
少女のノートでは、不条理にも目が覚めたら、何処とも知れぬ交番に閉じ込められていた。外にはおかしな男がおり、其れが最後は侵入し、記録は途絶える。交番に誰も帰って来ない事などから、こちらは完全に異界と見做せる。怪異のレベルも、前提から圧倒的な奇怪さを放ち、外界との関係も完全に断たれていた。
そして、五つ目の記録は、現在が示される原稿用紙。
大久保の推理から、車や人などが全く存在していない事が分かった。外界との関係は完全に断たれているのだろう。そして、記録が"強制的に”行われている。
これらを踏まえると、少女のノートより、更に深刻であるのは、残念ながら決定的ではないか。
後藤は頭を抱えた。
だが、例の男がまだ現れないというのは、一体…
勿論、現れないに越した事はないのだが…
顔も合わせずに大久保が聞いてくる。初めから返答など期待していない、といった風だ。
しかし、それも無理はなかった。我々のいる交番はとにかく何も起こらない。
「今日も車1つさえ当たらなかった。相変わらずだな、ほんとに」
後藤は淡々と言う。最近はこの報告もマンネリとしている。
大久保は特にそれに反応するでもなく、奥の部屋に入っていった。
「なんかこの仕事、馬鹿みたいですね」
溜息と共に大久保が言い放つ。
大久保とこの交番でタッグを組んで長く経つが、最初の頃はやる気に燃えていた青年であった。
小学生の時分から警官に憧れていたという彼の目は、芯が通っていた。このような人間が、出世を重ね、凶悪犯罪撲滅の第一人者として前線に名を連ねていくのだろうな、と後藤は感じていた。初めて会った時、後藤は度肝を抜かれた。自分には無い、熱量があったからだ。現に、交番の巡査は犯罪が身近にあり、特に問題も無ければ、トントンと出世できるのが常だ。
しかし、彼は今こうして、項垂れている。それは彼の責任ではない。
その後も文字は続いていた。
「何だこれは…!」
後藤は思わず原稿用紙を落とす。
五つ目の”記録”は、自分たちのものだったというのか…!
「これは正しくお前が言った、”記録させられている”状態じゃないか…!」
「…それよりも、もっと非条理なものかもしれません…」
「…」
沈黙だけがそこに流れた。
挫けている場合ではない。何か手を打たなければ。後藤はまた自戒した。
物理的な脱出が不可能であるなら、残されているのは、最早犠牲者達が残した凄惨な”記録”しかない。これを読み解く他は無い。
記録が始まれば、怪異はすぐそこまで来ている。これは、四項で何度も見た光景だ。然し、未だ件の男は、窓の外には現れていない。これは如何なる事を示すのか。後藤は頭を概括させる。
始まりは、警察官による日誌。近辺で怪異が始まり、それが伝播するかの如く交番に襲来した。そして、交番に一ヶ月程、奇妙な事象を招いた。最期は不明だが、恐らく外に出たところ、というオチだろう。この時点では、交番としての怪異は薄い。本人は抑、交番に留まっていたと思われる其れを、最後の段階まで目撃していない。然も、この男性の場合は、某かが交番内に侵入して来たのでは無く、自ら話を聞きにいった事が直接的な原因なのだろう。訪問者がいる事からも、異界とは呼び難い。
次に、黄ばんだ原稿用紙。ある雨の日に現れたフードを被った男が立ち尽くしていた。依然として微動だにせず、奇怪な状況が続いていたが、晴れていた日に、フードを取った男の顔を目撃してしまう。あまりの恐怖に居ても立っても居られなくなり、警察官を辞し、記録を残して去った。大久保の推理では、この話には続きがあるかもしれないという。真偽は不明だが、同僚などが目撃している点から、怪異は日誌よりも強いと定義できる。
カセットテープは、偶々テープを記録していた際、奇妙な男を目撃。その儘、成す術も無く、交番内の電気が消え、侵入してきた其れに襲撃を受ける。大久保の推理では、最初から異界に誘い込まれていた可能性が高く、記録されている怪異としては、原稿用紙よりも格段に強くなっている。最初に現れた女性が、普通の人間とは異なるものであったとするならば、外界との関係は完全に断たれていた事にもなり、侵入してきたという事象からも、怪異の強さが伺える。
少女のノートでは、不条理にも目が覚めたら、何処とも知れぬ交番に閉じ込められていた。外にはおかしな男がおり、其れが最後は侵入し、記録は途絶える。交番に誰も帰って来ない事などから、こちらは完全に異界と見做せる。怪異のレベルも、前提から圧倒的な奇怪さを放ち、外界との関係も完全に断たれていた。
そして、五つ目の記録は、現在が示される原稿用紙。
大久保の推理から、車や人などが全く存在していない事が分かった。外界との関係は完全に断たれているのだろう。そして、記録が"強制的に”行われている。
これらを踏まえると、少女のノートより、更に深刻であるのは、残念ながら決定的ではないか。
後藤は頭を抱えた。
だが、例の男がまだ現れないというのは、一体…
勿論、現れないに越した事はないのだが…
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