前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

ゴブリンのダンジョン⑤

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 パンジーちゃんの三つの頭の目が、琥珀色から深紅に変わったら『ケルベロスモード』だ。
 この時の司令塔は、背中に背負われてる子犬。

 ──子犬姿は擬装で、その中身はケルベロス第四の脳、つまり凶悪な統括脳である。

「ケルベロスモード待機状態になってるわ」

 喉の奥からグゥウウ、と不穏な唸り声を押し殺しているパンジーちゃん。

 カエルは微動だにしない。
 コンビとパンジーちゃんに待機指示を出し、私は深紅と黒の毒々しいカエルに近付いた。

 ──こっちを見ないし、逃げもしない。

 鑑定も通らない。

 私は五メートルほどの距離で立ち止まり、圧縮魔力をぶつけてみた。
 重力も乗せてあるから、感覚的には鉄球をぶつけているようなもの。

 魔力はカエルを素通りし、遠くの木を倒しただけだった。

(──幻影?)

 それにしては魔力通過時に、霧散も歪みもしない。

 おかしい、おかしい、おかしい──

「ジューン?」

 いつの間にか、フレスベルグとパンジーちゃんが傍に来ていた。
 パンジーは相変わらず、今にもスイッチが入りそうな緊張状態だ。

「このカエル、そこに居るのに──居ないのよ」

「……?」

「なあ、あのカエル、ちょっと見てきていい?」

「近付き過ぎないように」

 フレスベルグはカエルから距離を保ちつつ、炎弾や氷塊をぶつけ、周囲をぐるりと一周した。
 暫くして、フレスベルグはカエルの正面をウロウロし始めた。

「何か気がついた事ある?」

 私はフレスベルグの方まで行って、聞いてみた。

「確かに、居るのに居ない──だが、ちょっとここ、もうちょい右。そこから見たら、カエルと目が合わないか?」

 私は自分の立ち位置を、左右に少しずつ調整をかけカエルを観察した。

 ──本当にピンポイントの位置。

 確かに、カエルは、私を見ている。
 いや、正確には私を通り過ぎて何かを見ている。
 位置をずらすと、カエルはこっちを見ていない。

 ──これは一体、なにを意味する?

 ティティが呑気そうにこっちに翔んできた。

「ちょっと──迂回して、危ないわよ」

「えー? なぁにィー?」

 ティティはヒラヒラとカエルを突き抜けて、こちらに到着した。

「ちょ、おま! よくあんなもん突き抜けてきたな!?」

「えっ」

 ティティは首をかしげて、来た方向を振り返った。

「なにも居ないよォ?」

「いやいや、そこにでかいカエル居るじゃん」

「またまたぁー! さっき倒したカエルと、フレスベルグが見に行った時は居たけどォ~、消えちゃったでしょ~?」

 その瞬間、ティティの足が水平に、ピュッと上がった。
 ────羽を急に引っ張られたかのように。

 とっさにフレスベルグが、ティティの体を握り、引き戻す。

「ぎゃん! 痛い痛い!」

 フレスベルグが手のひらを開き、ティティを解放した。
 ティティは飛び上がらず、フレスベルグの手のひらに座り込んだままだ。

「おい、ティティ──」

 ティティの美しい4枚の羽は、引きちぎられて無くなっていた。

 もちろんちぎったのは、フレスベルグではない。

「──一旦ここを離れるわよ」

 私達は緊張状態のパンジーを連れて、カエルから結構な距離を取った。

 湿地を抜け、休憩しやすそうな草原で結界と障壁でしっかり周囲からの干渉を遮断。
 パンジーちゃんは待機モードが解除されない。

「まず状況整理しようぜ。最初のカエルは確かに実態があった。だけど二回目のカエルは、見えるのに居ない」

「で、ティティには見えないと。見えなくなったタイミングは、多分フレスベルグか私が目を合わせた時」

「んー、パンジーちゃんのお目々拭いてたから、消えた瞬間は見てないんだよねェ~」

 フレスベルグは、自分の手のひらにいるティティに確認するように尋ねた。

「ティティ、引っ張られたよな?」

「うん! 羽、引っ張られた! フレスベルグが捕まえてくれたから、羽だけで済んだ感じ~」

「おう。で、痛くないのか?大丈夫か?」

「ちぎれる時は痛いよ? でも数時間したらまた形成されると思う~、今はちょっと生えるとこが痒い!」

「なら、今日はここで野営するか、とりあえず階段を探して階層移動するかの対策会議よ」
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