前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

ゴブリンのダンジョン⑦

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「わかってるって!!」

 フレスベルグが怒鳴るように返す。
 ティティがポシェットから出てきて、フレスベルグにバフをかけ始めた。

 ──いい判断ね。

「フレスベルグ、絶対それ以上進ませないで!」

 パンジーの胴体が、じわじわと吸い込まれていく。

「くっそ、パンジー! 噛んでる、なんか噛んでるぞ! この───」

 ──パンジーは吸い込まれてる訳ではなく、離さないのだ。

 フレスベルグが、ジリジリとパンジーを引き戻し始めた。
 足が不安定な湿地面にめり込んでいる。

「パンジー、離せって! くそ、喰らいついてビクともしねえ!」

 迷ってる時間はない。
 存在軸の異常、おそらく違う位相からの干渉。
 ───ならば。

「空間を切り離すわ! 絶対離すんじゃないわよ!」

 ティティがバフの強化を始めた。

 私は障壁と時空魔法の応用で、薄い結界でフレスベルグごとパンジーを覆うことにした。
 こっち側はすぐ済んだ。

「くそ、パワフル過ぎるだろぉーーー! おい、進むな !パンジー!」

『向こう側』は、手探りで練り上げるしかない。
 より薄く、精密に。
 私はフラガラッハを取り出し、もう片方の手でパンジーの頭沿いに裂け目を探った。

 焦らず、ゆっくりパンジーの頭に結界膜を張り付けるイメージで──

 なに、と戦っているのか?
 カエル?
 違う、ケルベロスは──カエルならすぐ殺せるはず。

(いや、今はパンジーだけ引き出せればいい)

 私はフラガラッハを裂け目に投げ込んだ。
 剣は風を切って、宙を切り裂くように吸い込まれた。
 直後。
 空間が大きく震動し、何かの咆哮と軋んだ耳障りな音を残し歪み始める。

 一瞬、パンジーの前進が止まった。

「引いて!!」

 フレスベルグが渾身の力でパンジーを引きずり出し始める。

 ──フラガラッハが当たって、離れたわね。

 私は結界を爆発的に展開させ、力押しで裂け目から結界を『排除』した。
 フレスベルグとパンジーちゃんは反動で後方数メートルほどふっ飛び、沼地に盛大な音をたてて泥と水飛沫をあげて転がり落ちた。


 ──目の前には、何もなかったかのように静かな湿地が広がっている。
 湿気を含んだ風が、柔らかく私の髪を揺らした。

 裂け目があった場所には、剣が一振落ちていた。

「──まだ借金返し終わってないのかしら」

 私は異空間に投げ込んだ筈のフラガラッハを、拾い上げた。
 戻ってきてくれるかどうか、いちかばちかだったけど。

(今回も帰ってきたとは、義理堅いこと)

 ティティがフレスベルグの頭上から、氷水をぶっかけて大騒ぎしているのを横目に、パンジーちゃんをお尻方面からぬるま湯で流し始める。

 手分けしてパンジーちゃんを洗ってる最中、ティティがお口の中に何かある、と騒ぎ出した。

「パンジーちゃん、お口あーんよ。ほら見せて」

 ケルベロスモードから復帰したパンジーちゃんは嫌! と言わんばかりに拒否。
 クッキーをちらつかせ、『交換』していただくことに。

 右の子……赤いカエルの肉片。
 真ん中の子……良くわからない肉片。
 左の子……タコの足。

 タコ? 
 どこにタコ居た!?

 私とティティは顔を見合せ、もう一度地面で蠢いている、どす黒い紫の吸盤とくすんだ青いタコ足を見つめた。

 ほどなく足は動かなくなり、痕跡すら残さず──溶けるように消えていった。

「…………」

「…………」

「あ、パンジーちゃん肉片食べちゃったァ?」

「まあ、ケルベロスだし大丈夫でしょう」

「全く、何で氷水なんだよ!」

 着替え終わったフレスベルグが、プリプリしながら戻ってきた。

「とりあえず階段探そうぜ! 流石に疲れたわ」

「そうね、湿地帯はあんまり長居したくないものね」

「普通はさァ~、裂け目の近くに階段あるんじゃないのー?」

 コンビは仲良く周辺をチェックしたが、階段は見当たらず。
 結局そこから数時間かけて、前に蛇をたくさん捕まえた場所で階段を見つけた。

「ここに階段なんて無かったよなぁ」

「そうね、あの裂け目でフロア自体がおかしくなってるのかも」

(──あーあ、あのタコ足さっさと時空庫に入れれば良かった)

 消えてしまったら、手懸かりがないじゃないの。

「降りるのはいいんだけど、次のフロアが溶岩地帯とかだったら休憩も野営も厳しいんじゃないかしら」

「とりあえず、ちょっと休憩しとくゥ~?」

「そうね、パンジーちゃんはケルベロスモードで消耗してるはずだし。それとも一旦帰還して仕切り直す?」

 ティティとフレスベルグは、考え込んだ。
 ダンジョンからの撤退は、すなわち負けってお年頃ですものねえ、迷う気持ちもわからないではない。

 戦略的撤退は、悪いことじゃないんだけど。

「そうだなぁ、俺らはともかく──パンジーは戻してやった方がいいよな」

「危ないもんねェ!パンジーちゃんに何かあったら──」

 私達は顔を見合せた。

「か、帰ろうか……カルミラに無事にパンジー返さないとだし……な?」

「わかったァ~! じゃあ、戻るよォ~?」

 ティティが転移術式を展開させた。

「………………」

「あれ、転移出来ない……」
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