個性豊かな異世界召喚

佐原奏音

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第一章 『始まりの一ヶ月』

15.『自己欺瞞の成果』

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 いつも、俺は本当の俺を欺いているんじゃないかと思っていた。本性を隠すため、演技をして、嫌われないために注目を集める。そんな日々を過ごしていた。やりたくもない部活に日々励み、馬鹿な奴らと馬鹿やって、誰も傷付けないように。そして、あの二人にも同じように--

「お前は俺をよくわかってるよな。いつもありがとうよ」

 そんなことを言うな。俺は誰に対しても偽りの自分を出しているんだ。お前のその言葉も偽りになってしまう。そんな優しい言葉を俺にかけるな。礼なんてするな。俺に甘くするな。厳しくあってくれ。

「タクミお兄ちゃん! 私と遊ぼうよ!」

 まだ、純粋無垢だったから騙し易かったけど、これ以上は君を騙したくない。本当の俺は君が思ってるよりも駄目な人間なんだ。そんな目で俺を見ないでくれ。そんな目で俺を見たら、君が汚れてしまう。
 そして、いつからだっただろう。君が大きくなり、俺への当たりが強くなったのは。
 俺のせいなのだろうか。いや、俺のせいだろうな。変わってしまったのは。

「なんか、あんたさ、私に隠してることあるでしょ?」

 そんなことは……。

「それ、ウザいからやめてくれる?」

 え?

「鬱陶しい。面倒臭い。気色悪い。……だから、やめて」

 そんな、俺は君が傷付かないために自分までも欺いて、偽って、騙して……いや、違う。俺は君が傷付かないためじゃない。俺が傷付かないためにやっていたんだ。
 俺が本性を出して、アイツを、君を、どこかの誰かを傷付けて、俺が傷付いてしまうのを防ぐために、

「あんたが何を隠していても、何も咎めないから」

 そんなの嘘だ。本当の俺を知ったら、君は俺の元を離れてしまう。本当の俺はクズで駄目で、なんの取り柄もない、つまらない人間なんだ。

「なんで、そんな顔をするのよ。別に私はとっくにあんたのこと、どうも思ってないから」

 なら、どうしてそんなに俺に構うんだ。どうも思ってないのなら、俺なんかほっといてくれ。

「そういうわけにもいかないわよ。だって、--私とユウ兄、そしてあんたがいて、兄弟なんだから」

 きょう、……だい? 俺等が? 血縁関係でもないのに? 確かに俺はアイツと一緒に君の兄として過ごしてきた。でも、俺は偽りの兄だ。君だって知ってるはずだ。家が隣で親しくやっていただけの関係だ。そんななのに、なぜ、俺を気にかけるんだ。

「兄が困っていたら、話を聞いてあげる。それが、妹の役割だもの」

 ……。

「なんもかんも、自分が悪いと思っちゃいけないの。たまにはガス抜きが必要になるのよ。それに、

 道を外れそうになったら、戻る手助けをして、何か虚ろな感じになっていたら、心の支えになってあげる。それが妹なの」

 そんな妹なんていない。幻想だ。空想だ。虚像だ。ありえない。あるはずがないんだ。

「そんな妹が今、目の前にいるの。だから、甘えてもいいの。辛ければ、投げ出してもいい。兄としての尊厳を失わなければね」

 優しく、それでもって、細く折れそうで、なのに、人の悩みに敏感で。俺を兄と思ってくれる。
 そうだ。このときだった。俺が、君を、いや、ユミちゃんを大切にしていきたいと、何があろうと守りたいと思ったのは。

     ※    ※    ※

 でも、俺は守れなかった。ユミちゃんは石化してしまった。俺はあのとき、自分勝手だが、約束した。それを果たせなかった。
 あのあと、僕は偽ることをやめ、本性で自分を証明した。でも、誰にも呆れられることはなく、俺は本当の自分で過ごしてきた。ユミちゃんの後押しで俺は変われた。

『お前、なんか変わったよな。いや、別に悪い意味じゃないぞ? 接し易くなったっていうか、楽しくなったかな?』

 ユウヤの俺を見る目も変わった。それも全部、ユミちゃんのおかげだった。嬉しかった。なんのしがらみもなく、ただ、自分のやりたいことができる。嬉しかった。誰も俺から遠ざからない。嬉しかった。ユミちゃんが俺を見ていてくれて。

「タクミ! 頼む! 早く戦線に復帰してくれぇ!」

 ユウヤの声が聞こえる。俺を呼んでいるみたいだが、今、俺が行ったところで何になるんだ。大切なものも守れずに何が勇者だ。ユウヤには悪いけど、俺はここでユミちゃんと運命を共にさせてもらうよ。ユウヤは俺の分まで、…………俺の分まで……何をするんだ?

 ユウヤにとって、ユミちゃんは俺とは違い、血縁関係にある。本当の妹だ。その妹がこんな姿になってしまった。なのに、なんで動けるんだ? 俺は動けなくなったのに、なんでだ? なんでお前は動ける? そんなにボロボロになってまで何を守ろうとしてるんだよ。

「タクミぃっ! 俺はお前を信じる! だって、お前は俺の親友! 兄弟でもあるんだからな!」

 お前まで俺を兄弟と呼んでくれるのか。ありがとうよ。でも、そんなことを言ってると、ユミちゃんみたいになるぞ。ユミちゃんは俺に歩み寄ったからこんなことになったんだ。お前までなってほしくない。お前にはちゃんと生きててほしい。大切に思ってる人を二人も失いたくない! だから、

「……逃げてくれ」

「はぁっ!?」

 心の声がうっかり出てしまった。ユウヤは俺の発言に頭を悩ます。

「逃げろよ。どうせ、戦っても無駄なんだ。相手が悪い。目を見るだけで即アウト。しかも、動きが素早い。攻撃も重い。なら、もう逃げても、投げ出してもいいじゃないか」

 そう、全て投げ出してもいいんだ。ユミちゃんが言ってた。辛ければ、投げ出してもいいって。俺を導いてくれたあの子が言ってたんだ。なら、正解だ。ユミちゃんが言ったことに間違いはない。
 ほら、早く逃げろよ。俺はあのとき、逃げたんだ。辛いから逃げたんだ。いいんだよ逃げても。魔王軍の幹部を一度、出し抜いたってだけでも、いい成果だと思うぞ? ほら、スズネとアオイも誘ってさ、どんな汚名を背負ってもいいから逃げようぜ? な?

「--おっ前は! 馬鹿かぁ!?」

「……え?」

 突然、ユウヤに怒鳴られた。ユウヤはレジーナと戦闘中であるにも関わらず、俺の言葉を拾ってくれている。

「お前は馬鹿だ! 大馬鹿だ! 確かにコイツは強い。俺単体じゃ、勝てない。でも、仲間がいるんだよ! 仲間が戦ってくれているのに逃げる? そんなの、自分を偽っているのと同じじゃないか!」

「……っ!」

「仲間を信じてるのに、危なくなったら逃げようなんて、意味がわかんねーよ! 仲間を信じてるなら、最後まで戦えよ! いい加減なこと言ってんじゃねぇ!」

「でも、ユミちゃんは、辛かったら逃げてもいいって……」

「確かに逃げてもいいよ! 辛いのなら、枕に俯いて泣いてもいいよ! ……でも逃げて、そのあとどうするのかが大事なんだよ。逃げたところでまた降りかかってくるのなら、意味がないだろ? 一時的な自己満足のために他のものを捨てるな」

 俺の言葉を遮り、ユウヤが熱論を述べる。ユウヤの言葉には納得できるところがいくつもある。でも、俺は弱いんだ。お前と違って弱い。とことん、弱い。

「それに、ユミだって、ただ逃げていいなんて言ってなかったろ?」

 刹那、あのときのユミちゃんの発言を思い出す。

『そんな妹が今、目の前にいるの。だから、甘えてもいいの。辛ければ、投げ出してもいい。

 ーーああ、そうだった。ユミちゃんの言葉は全て覚えてるはずだったのに。どうしてだろう。ユミちゃんは逃げてもいいが、兄としての尊厳は捨てるな、と言っていた。
 兄=人、兄は人なのだ。だから、人としての尊厳を捨てるなとも、汲み取れる。

「お前は本当に逃げたいか? それとも、小さな可能性を信じてユミたちを元に戻すために戦うか?」

 わかったよ。そこまで言われたら戦うしかないよな。これ以上やって、お前に嫌われるのは嫌だしな。

「決まってるだろ、戦うよ。そして、ユミちゃんたちを助けよう!」

「それでこそ、タクミだ! 頼りにしてるぜ、親友っ!」

 ユウヤはサムズアップをし、俺への信頼をぶつける。

 そうだよな。お前だって辛いはずなのに頑張ってるんだもんな。なのに、俺が突っ伏してたら駄目だよな。ありがとう、ユウヤ。気付かせてくれて。

 俺は心の中でユウヤに感謝し、立ち上がる。
 そして、レジーナ戦はクライマックスへと近付いていく。
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