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第一章
1-1 「はい、じゃあ二人組作って」
しおりを挟む「はい、じゃあ二人組作って」
体育の授業がはじまるなり先生はそう言う。それがある種の生徒にとって地獄の宣告であると知らずに。
俺――綿辺夏稀にとってもそれは残酷な一言であるはずだった。二人組を作れない。それは、クラスに『自分を選んでくれる相手』がいないという証明になるのだから。
俺は人付き合いが苦手なことを自覚している。だから当然、こういうときに組む相手なんていない。
いなかった。そう、高校に上がるまでは。
高校になって入ったゲーム同好会。そこで俺は同じく人付き合いが苦手なたっくんと知り合い、『二人組を作らされそうになったときは協力しよう』という協定を結んだのだ。
そしてたっくんとは去年も今年も同じクラス。もう俺にとって二人組は怖くもなんともない――はずだった。
俺は忘れていた。たっくんも人間。
風邪で学校を休む日くらいあるということに。
――ですよねー……
たっくんがいないなら体育なんて見学すればよかった。と思ったのもあとの祭りで、グラウンドに集合した俺たちに体育教師の矢崎が「はい、じゃあ二人組作って」と言う。なんの感情も込めずに。
――もっとドラマチックに言えよ……! こっちはぼっちのレッテル貼られるかどうかぎりぎりのとこでやってんだよ!
俺はクラスメイトたちの顔をさっと見回すが、顔ぶれは去年とあまり変わっていない。ということは人間関係も持ちこされているので、もうみんな気の合う相手を見つけている。
そして俺はたっくんがいることに安心してほかに友達を作ろうとしていなかった。
――あ、詰んだ。
磁石でくっつきあっているみたいに二人組がみるみるうちに作られていくのを見て俺はそう思った。このままじゃ矢崎と組まされる。『友達がいなくて先生と組まされた恥ずかしいやつ』という烙印を――
「あ、綿辺くん」
――押される、と思ったとき。
だれかが後ろから俺の肩をぽんと叩いた。
「まだ相手決まってないの? なら、俺と二人組にならない?」
振りかえる。と、そこにはまぶしいイケメンがいた。
緒川聖夜。
今年の春に転校してきた、アイドルみたいな顔とオーラと長身の男。
「え?……いいの?」
緒川は涼しげな目元を細める。
鼻筋はすっきりしていて外国人みたいに高く、形のいい唇はいつもやさしく微笑んでいるみたいだ。黒髪は見ただけでさらさらなのがわかる。長い指を持つ手はいつも洗い立てみたいで、女子がよく言う清潔感、という言葉の意味を俺は緒川を見て理解した。
手足はすらりと長くてスタイルがいい。緒川が着ていると空色の芋ジャージがブランドものに見える。こんな田舎の高校にいるのが不思議なくらいの『アイドル』。
うちの学校にすげーイケメンがきた、ということで男子も女子もみんな盛りあがった。休み時間にはちがう学年の生徒まで教室に見にきたし、先生たちもあきらかに緒川だけ特別扱いしていた。女性の先生どころか、男の先生まで。
でもそうしたくなる気持ちもわかる。緒川は文武両道で成績もトップクラス。いまどき漫画でもいないような完璧超人だ。
俺だって自分が先生だったら緒川をひいきしてしまうにちがいない。
さらに恐ろしいことに性格もいいのであっという間にみんなと仲良くなった。二人組であまるようなやつじゃ絶対ないんだけど……。
首をかしげてから気づく。
……あ、そっか。俺がひとりになるのを心配して声をかけてきてくれたのか。
イケメンって心までイケメンなんだな……。
「よろしく、綿辺くん」
緒川は俺の目を見てにっこり笑う。
その笑顔が自分だけに向けられていることにどきどきして、女子が体育館のほうにいてよかった、と俺はひそかに感謝したのだった。
「緒川って部活もう入った?」
「ううん、まだ。ここ、クラブ活動も合わせたらかなり多いだろ? 前の学校になかった部活もあってなかなか決められないんだよね。綿辺くん……夏稀って呼んでいい?」
「あ、うん」
「夏稀はどこの部活に入ってるの?」
柔軟体操をしながら俺たちは他愛ない会話をする。
雑談は苦手だけど不思議と緒川相手だとすらすら言葉がでてきた。「ゲーム同好会」と答えると「ゲーム?」と地面に足を開いて座った俺の背を押しながら緒川が尋ねてくる。
「eスポーツってわかる? ゲームの大会なんだけど。あれに向けて練習したり……あと、自分がプレイして面白かったゲームの紹介記事書いたり……」
「俺、FPSならよくやるよ」
「え、マジで? 『アイアン&ドロー』は?」
「やってる」
「マジで!? 俺も、え、ちょ、対戦とかできる!?」
いま一番熱いオンラインゲームを緒川がプレイしていると知ってテンションが上がる俺を矢崎が「静かに!」と注意してくる。
すみません、と謝ってから俺は緒川の顔を見上げた。
「緒川がそういうゲームやってるの意外かも」
「そうかな。よかったらあとでライン交換しない?」
「え、あ、もちろん!」
驚きながら返事をする俺に、太陽の光を浴びながら緒川はにこっと笑う。さわやかさと甘さが絶妙に入り混じった笑みで。
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