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第一章
2-2 本気だったんだ
しおりを挟む「ど、どした……?」
あ、なんか忘れものとかしてたかな。でも財布もスマホもあるし。
それ以外に緒川が俺に用事とか……あるわけない、よな?
「ごめん、驚かせた」と緒川ははにかむ。自分でも突然の行動だった、っていうみたいに。
そして彼はポケットからスマホを取りだす。最新のiPhoneだ。
値段を考えてちょっとびっくりしたけど、緒川が持ってるならそれも当然という気がした。
「体育のとき言っただろ? ライン交換しようって」
「あ……」たしかに言われた、けど。
「……本気、だったんだ」
ぽろっと漏れた本音に緒川はさびしそうな顔をする。
「社交辞令に聞こえた?」
「い、いや、なんていうか……」
「俺は本気だよ。本気で、もっと夏稀のこと知りたい」
聞きまちがいかと思うほど緒川はそれをさらりと言う。
俺のこともっと知りたい、って、いま言った……?
固まっていると「夏稀、スマホだして」と緒川に言われる。
「休み時間終わっちゃうよ」
「そ、そうだよな」
うながされるままに俺はスマホをだし、たっくんと連絡先交換したのなんてもう一年も前だから操作の仕方が全然わからなくて――「ここ押して」「俺の画面読みとって」と緒川に優しく指示される通りに動く。
そして、なにがなんだかわからないまま俺のラインの友達一覧に緒川が追加された。
「はい、できた」
「う、うん……」
「ごめん、どこか行くところだったよね。また」
小さく手を振ると緒川は教室にもどっていく。
俺は自分がトイレに行こうとしてたことを思いだして。それが、べつに行きたくもないけど行こうとしてただけということも思いだした。
そんな感じで中休みは終わって、三限目の古文の授業がはじまったけど。
――え、スマホって生きてんの?
ついそう思ってしまうくらいポケットの辺りが落ちつかなかった。理由はわかってる。緒川からのラインが来ないか気になっているから。
当然、俺が授業中ということは緒川だって授業中だ。そして緒川はこういうときにスマホをいじるタイプじゃない。だから気にする必要なんてないんだけど。
……やばい。
嬉しい、かも。
クラスメイトとラインを交換しただけ。日常でありふれてるはずのそんな行為が――胸がじわじわ熱くなるくらい俺には特別だった。
相手が緒川だから?
たぶんそう、だと思う。たっくんとライン交換したときも嬉しかったけど、なんとなくあのときは安堵感のほうが強かった。これでもうぼっちじゃないっていう。
緒川だから、こんなに嬉しい。
たっくんのことはもちろん友達として好きだけれど、それは認めざるをえない。たっくんもさすがに緒川相手ならわかってくれるだろう。
クラスの『アイドル』とライン交換してもらえるときがくるなんて。
自分まで特別になったような気がする。そんなわけない。俺なんか緒川からしたらたくさんいる知り合いのひとりでしかないことは百も承知で。
「では緒川くん、ここの『聞かすな』とはどういう意味でしょうか」
眼鏡で細身の国語教師――キボセンに指されて、緒川は「聞かせるなという意味です」となんなく答える。
「そのままここの文を現代語に訳してください」
「はい――」
ふつうは何度も突っかかりそうなところを緒川はすらすら答え、『あいつ木彫りなんじゃねえの』と陰口を叩かれるくらい表情に変化がないキボセンが満足そうににっこりうなずく。「正解です。さすが緒川くんですね」
「すげーじゃん」と伊藤が振りかえって調子よく手を叩く。それにみんな乗っかって拍手をして、緒川は困ったように笑った。俺も近くの席(あいにく俺は後ろの扉から一番近くで、緒川は窓際の前から二番目の席だ)だったら手くらい叩いたかもしれない。
――イケメンって生きてるだけでドラマなんだな……。
遠くの星の住民を見ているような気持ちで俺は思う。もうひとつの心臓みたいに意識していたポケットのスマホが急速に眠りについたような気がした。
そしてつつがなく授業は終わって、昼休み。
ゲーム同好会に与えられている部室のソファでひとり黙々と弁当を食べていたらスマホがメッセージを受信した。
母親かたっくんからかな。そう思いながら俺はスマホの画面を確認し、え、と思わずつぶやいた。
『緒川聖夜』
メッセージの送り主は、まさかの緒川だったから。
驚きのあまり弁当箱をひっくり返しそうになりながら俺はラインを開く。そして、緒川からのメッセージを読んで首をひねった。
『俺、軽く見えるのかもしれないけど冗談であんなこと言わないよ』
……どういう意味だろう。誤送信?
迷ったけれど、間違いなら間違いって教えてあげなきゃいけない。『どういうこと?』と俺は返信する。
すぐに既読がついた。返信もすぐにくる。
『夏稀を知りたいってこと』
え? と思ったのも束の間だった。すぐに信じられないようなメッセージが送られてくる。
『放課後、一緒に出かけない?』
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