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第一章
2-1 本気だったんだ
しおりを挟む体育が終わってからもクラスの話題は緒川のことで持ちきりだった。
中休み。緒川をかこんでいた輪にはいまや男だけじゃなく女子も加わっていて、「緒川くんがシュート決めるところ見たかったぁ」「ね、もう一回最初から話して」とさっきのサッカーの話を無限にしている。ほかのクラスのやつらもちらほら混ざっているみたいだ。
――そりゃたしかにかっこよかったけど。
あんなに同じ話ばっかさせられて緒川は疲れないんだろうか。ちょっと心配になるけれど、これは俺が他人と話すのが苦手だから思うのかもしれない。
「緒川くんってさー、ほんと少女漫画からでてきたみたいだよね」
「むしろ漫画のキャラよりかっこよくない?」
「わかるー」
緒川をかこんでいる女子たちがきゃあきゃあはしゃぐ。「そんなことないよ」と緒川は控えめだ。絶対あるのに。
「ねえ、緒川くんって彼女いるんだよね? 前の学校の子?」
クラスで一番かわいい女子の取り巻きがいきなり切りこみ、周りにいた女子たちの顔色がちょっと変わった。すぐにみんな「あ、それ聞きたい!」と目をきらきらさせて緒川の顔を見る。
緒川は苦笑した。
「いないよ。向こうから言われてつきあったことは何回かあるけど、あまり長続きしなくて」
「えー、なんで?」
「緒川くんと釣りあわないから?」
「なんか、完璧すぎて面白みがないとか言われるんだよね」
えー、と女子たちが信じられないという声を上げる。俺も心の中で上げた。
「緒川くんと話すのすごい楽しいのに」
「あれでしょ? 緒川くんの顔がきれいすぎていたたまれなくなったんでしょ」
「ありそー」
派手めな女子たちがけらけら笑う。
……ここまで聞いて俺はなんで自分が参加してない会話をこんながっつり聞いているのかと疑問を持った。
盗み聞きじゃん。いや、教室の真ん中でこんなでっかい声で話してるのに盗み聞きも変だけど。
壁時計を見ると休み時間が終わるまであと五分ちょっとだった。トイレくらいなら行ってかえってこれる。
楽しそうな話し声を聞きながら俺は席を立った。
――別世界の住民だなぁ。
五月中旬の廊下はぽかぽかして暖かい。歩いてるだけで眠くなりそうな気持ちのいい日、なのになんとなくさびしいのはなぜだろう。たっくんが休みだからか。
ラインしてみようかな。でも寝てたら悪いし。制服のポケットに入れたままのスマホを俺はちらりと見て、でも取りだすことなくひとり歩く。
クラスのグループラインというものに俺は入ってない。たぶんみんな、それについて悪気はない。ただ忘れちゃってるだけ……なんだと思う。
――でも、俺はこうやってここにいるのに。
存在してるのに忘れられる。悪意も好意も通りすぎていく。
それはよく考えると結構きついことで、たまに俺ってなんなんだろうとかふと考えこんでしまう日もある。自分で望んだことだけど。
きっと緒川には絶対にない悩みだ。
転校生だけど、あいつはもうクラスのグループラインに入ってるだろう。たくさんのクラスメイト――同級生――ひょっとしたら学年のちがう一年や三年とも――とラインを交換しただろう。
緒川は、いる。みんなの交友関係の中に。
みんなの意識の中に。
うらやましいを通りこして『すごいな』としか思わない。
ほんとうに俺と緒川は同じ人種なんだろうか。ざっくり分けたら同じヒト科でも、細かく分けていったらちがうかもしれない。それくらい別の人間だ。
なんてことを考えて歩いていたから。
「夏稀!」と後ろから大声で呼ばれたとき、俺は飛びあがるほど驚いた。
「え……、」
いま、名前呼ばれた? 俺の?
いやいや、たっくんが休みなのに俺を呼ぶ相手なんているわけ……
ない、と思いながら俺は念のため振りかえって。
ちょうど頭の中で考えていた相手が――緒川が走ってきて俺の前で立ちどまったのを見てきょとんとする。
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