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出禁 第一話 ダンジョン出禁
しおりを挟む第一章 ダンジョン出禁 夜の帳がすっかり落ちて、冒険者ギルドも一日の営業を終えようかという頃、オレは滑り込みで冒険者ギルドダンジョン前支部の受付に飛び込んだ。
時間も遅くロビーは閑散としている。
併設された酒場に何組かの冒険者達がいるだけだ。
開いている受付カウンターは一つ。
その向こうには、遠目には美人で巨乳だが、近寄ると化粧も濃く香水もプンプンと匂う、オレの苦手な受付嬢が一人。
ここまで来ると香害だな、まあ換金する間だけ我慢するか。
なんて思っていたら、受付嬢がなんかいろいろと文句を言っているのを聞き逃していた。
「……というわけでジーンさん、たいっへん申し訳ありませんが、貴方の素材は換金できません」
無表情の受付嬢は、全然申し訳なさそうな態度も見せずオレに宣告した。
「はぁ……? 」
何を言われたのかわからず、オレは生返事を返す。
つまり、どういう事だ?
「なあニーナ。もう一回言ってくれ。オレの素材が何だって? 」
カウンター横にある、一マイトル四方はある換金用魔物素材専用木箱には、オレが獲得した素材が山盛り入れられている。
バッチイ物をつまむ様に素材を確認していた受付嬢のニーナは、面倒くさそうに再度同じ話を繰り返す。
「さっきも言いましたけど、貴方の素材はろくに洗ってもいないから、魔物の体液がついたまんまで、臭いし汚いし、ギルド職員からも評判が悪いんで換金できません。まあ、持って返っても使い道ないでしょうから、無料であれば引き取りますから。それでいいですよね」
そういってニーナはオレの素材を入れた木箱をバッチイ物でも眺めるように見つめる。
いやいや、何言ってんだこの女。
泥付きの素材を持ってくるのには訳があるんだよ。
「いや、それはさ――ッ!?」
「それに、貴方は」
オレにビシッと人差し指を突きつけたニーナは、オレの言い訳を遮って話を続ける。
「よく魔物が発生する、ダンジョンの特異ポイントを独占して、他の冒険者とその情報を共有することもなく一人だけ稼いでいるって、評判なんですよ。悪い意味で」
はあ? そんなバカなこと――、と思っていると周囲の雰囲気がおかしい。
周りを見ると、ロビーの一角にある酒場に入り浸っていた冒険者達がオレを白い目で見ている。
「この【マッドキャタピラ】、ここ一週間に持ち込まれた数は百五十匹近くになります。だけどその大半を持ち込んだのは、ジーンさん貴方です。これをどこで倒したんですか。ダンジョンは貴方だけの物じゃないんですよ! 他の冒険者の分も残さないと皆が迷惑するんです」
ニーナはオレに向かってビシッと指を突きつける。
「ンなこと言ったって、冒険者は自己責任の自営業だからな。自分の腕、レベルに合う場所で自分の才覚で稼ぐのが――ッ!?」
「それに! 」
オレの言い分は再びニーナに遮られた。
「自分の腕、レベルにあった場所で稼ぐっていうなら、ジーンさんはもっと深い場所でもっと特殊な魔物を倒してください。【マッドキャタピラ】はもっと若手冒険者に任せちゃって下さい。ベテランならベテランらしく、それらしい魔物を狩ったらどうなんですか。ギルドとしても、もっと下層階の素材がないと困るんです」
「いや、ベテランは間違いないが、オレなんか、所詮【マッドキャタピラ】を倒すのが似合ってる二流の冒険者だって。ソロだし」
「そういう自分を卑下する態度は美徳でも何でもありません。ベテランはベテランらしく下層で必死こいて高級素材をゲットして、中層の【マッドキャタピラ】は若手に譲ってください。皆で楽しいダンジョンにしましょう」
鼻息荒くニーナは、自分勝手なことを言う。
なんだ? 皆で楽しいダンジョンって。
「とにかく、それが出来なければギルドの規律や調和を乱す冒険者として、今後ダンジョンには入れません」
「お、おい」
「これは換金できませんが、よければこちらで処分させていただきます。ではそういうことで」
ニーナはオレの意見も聞かず素材を裏へ運ぼうとする。
「ちょ、待てよ」
オレの金……いや金の元を勝手に持っていくな。
オレは思わず身を乗り出してカウンターに手を突いた。
「キャア、暴力反対」
別に暴力を振るうつもりはなく、ちょっと勢いがあって、カウンターについた手が少し派手な音を立てただけだ。
だが……。
「「「ニーナちゃん大丈夫かッ! 」」」
酒場にいた数人の、見るからに小悪党のようなガラの悪そうな若い冒険者が駆け寄ってくる。
「ようオッサン、オレ達のニーナちゃんに何をするつもりだ」
いや何もしてないし、これからも何もしないから大丈夫も何もない。
「分かりました。もう貴方はデキンです、出禁! ダンジョン出入り禁止! 」
そう言うとニーナは、一枚の紙切れを突きつける。
「優しい私としては、これまでは、この書類を出そうかどうしようか迷っていましたが、もうカンベンなりません。ダンジョンマスターの書名もあります。ジーン貴方をダンジョン出入り禁止にします! 」
オイ、冗談だろ。
「「「ヒャッッハ~~~~~~ッ!! 」」」
集まっていた若い冒険者が、嬌声を上げる。
「ニーナかっけーよ。もう一回言ってくれよ、その“出禁”ってやつ」
「えっ、かっけー? えへへ、そう? 何、もう一回? では、コホン。……ジーン、あなたは自分がダンジョンの利益を独り占めにして、さらにベテランの責務を放りだしておきながら、それを指摘されたら暴力に訴えて罪をうやむやにするつもりですか? そんなの冒険者の風上にも置けません」
おいおい、なんかずいぶん罪が重くなってるぞ。利益を独占とかそんな事してないし、ベテランの責務とか初耳なんだけど。
あっけにとられるオレに、ニーナは大げさな手振りを交えて改めて最後通告をする。
「こんな事言いたくありませんが、改心するつもりはないようですね。では仕方ありません。貴方はデキンです、出禁、で き んッ! ギルドマスターの通知文もあります。貴方はメセタダンジョン郡一帯全て出入り禁止ですッ! 」
「ヒャッハ~ッ!! ニーナ、かっけーッ!! 」
なんだこの寸劇は。付き合っていられない。
そういえばギルマスの通知文があるって、これか。
オレは、突きつけられたギルドマスターの署名の入った通知文をマジマジと見る。
確かにギルマスの署名がされている。
ニーナの最後通告は茶番っぽいが、通知文は本物のようだ。
あの野郎!
「オッサン、ダッサ」「かっこ悪いんだな~」
オレは踵を返してギルドを出ようとしたが思い直し、カウンターを飛び越えて【マッドキャタピラ】の入ったかごを奪い返す。
「な、何よ」
「素材はオレのもんだ。勝手に処分されるいわれは無い」
腕のリング、アイテムボックスとなっているアーティファクトへ素材の入ったかごごと突っ込む。
「ええ、結構ですよそんな汚いもの。貴方は永遠に出禁です。そんなの持っていてもただのゴミです。誰がなんと言おうと私の目の黒いうちはそんなゴミは換金しませんし、絶対にウチのダンジョンには入れさせませんッ! 」
「「「ヒャッハ~ッ!! ニーナ、かっけーッ!! 」」」
再びガラの悪い若い冒険者の嬌声が響き、オレがあっけにとられている間に、ニーナは受付のシャッターを下ろし、ギルドはその日の営業を終了した。
「ヒャッハ~、ようようオッサン、とうとう出禁だな、デ キ ン! 」
「てめえは散々一人で悪どく稼いでいたから、いづれこうなると思ってたぜ」
「いやいや、遅すぎたくらいなんだな」
ギルドの素材買取所を出たところで、ニーナをおだて上げていたヒャッハーな冒険者たち三人がオレを取り囲む。
こいつらいつも、オレがダンジョンのどこで稼いでいるか、しつこく付け回していた奴らだ。名前はたしか……なんだっけか。まあいい。
「ダンジョンの魔物は早い者勝ちだし、どこで何を倒すかなんて自由のはずだ。オレが魔物を独り占めしてるって言うなら、オレが行く前に魔物を退治してしまえばいいだろう。それに、他のやつらに遠慮して魔物を見逃していたら、それこそ返り討ちに会う可能性だってあるんだ。下手な手抜きは命取りだ」
オレは改めて正論を言う。
ダンジョンは一歩間違えれば命の危険もある。それこそ自分のレベルに合った場所、魔物に対して全力で戦うことのどこが悪いのか。
「そんな事言ってっからみんなに嫌われるんだぜ」
「てめえはキョウチョウセーだかコウコウセーだかが無いんだよ。ニーナが言ってたぜ。何か知らんけど」
「そうなんだな」
落ち込んでる所に、追い討ちをかけるようにバカが絡んでくると疲れる。
オレは明日、本部のギルマスと話をしようと、さっさとギルドを後にする事にした。
「おい、オッサン待てよ」
まだバカが突っかかってくる。
「オッサンがどこであの【マッドキャタピラ】を狩ってたのか、教えろよ。教えるならオレの親父のコネで出禁を撤回させてやってもいいぜ、ウッヒャヒャヒャ」
「あと、ダンジョンの素材と~、あとその腕のリングのアーティファクトも置いていくのが良いんだな、そしたら、オレ達のパーティの荷物係に雇ってやってもいいぜ、なっ」
「そうだな。ニーナちゃんだって言ってたろ。皆で楽しいダンジョンって。……なんだか知らんけど」
「フン、稼ぎたかったら穴場くらい自分で探すんだな」
オレはヒャッハーな冒険者たちを押しのけて、暗闇に沈む街を家路に着いた。
背後からとヒャッハーな冒険者がニーナと話をしている声が聞こえた。
「ヒャッハ~、ニーナちゃんさっきのカッコよかったよ~」
「『貴方はデキンよ、出禁! 』って、もう一回言ってほしいんだな」
本人もいないのにそんな事言うはずないだろ。
「え~はずかしいよ~、カッコイイ? そう? 」
なんだかその気のニーナの声も聞こえてきた。
まさかまた? しかもこんな大通りで? と思っていたら……。
「ジーン聞こえる? 」
大声でニーナが叫ぶ。「貴方、デキンだから、出禁! ギルドマスターの名において二度とダンジョンには入れさせないからね」
「「「ヒャッハーッ!! 」」」
オ、オイッ、個人情報!
そんなこと夜の街に向かって叫ぶな。
もうこの街にいられないかも。オレは逃げるように夜の街に消えていった。
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