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出禁 第十八話 最強の精霊使い走る その4
しおりを挟む「急ごう、魔物に襲われている」
二股に分かれている道があって、どちらにも匂いは続いているようで、クー・シーは迷ってクルクル回っていたがそれも一瞬。耳がキョトキョトと動いて微かな争う音を聞き分けたようで、すぐに右方向に走り出した。
「こっちだ」
クー・シーを信じてオレ達も迷わず右への道をとった。
すぐに前方の薄暗闇の中、赤い頭が鈴なりに群れを成しているのが見えた。泣き叫ぶナナイの声は聞こえるが赤いの群れに囲まれて見えない。
「ナナイーッ! 今行くでー! 」
「フラウお姉ちゃ~ん」
やはり魔物の群れに囲まれているようだ。
魔物は身長四十セルチほどの三頭身、頭でっかちののっぺらぼうでギザギザの歯を生やした大きく裂けた口だけがある、赤い小オニの【クレイジートマト】と黄色い小オニの【デスパプリカ】の群れだ。
頭のてっぺんに角を一本生やしていて、芽が出た玉ねぎのような形をしている。
ちなみに、他に茶色の【キラーオニオン】、緑の【ダークパンプキン】、オレンジの【バッドキャロット】がいるが、この五種類のオニは全て同じ種で色が違うだけの差だ。
「ウオリャーーーッツ! 」
二、三十匹はいる小オニの群れに筋肉の塊が飛び込んだ。
そして飛び込みざまの大車輪。
ブオンという風鳴りと共に、漆黒の鋼鉄の刃、マッスルの愛斧でありオーガに止めを刺した巨大武器「鬼切り丸」が十五匹ほどの小オニを、一瞬にして黒い霧に変えた。
魔物が悲鳴をあげる暇も無いほどの早業だ。やっはり筋肉は持久力よりも瞬発力に長けているようだ。
さすが引退してギルマスに収まっていたとは言え元は第一線級の冒険者だ。地下十四階辺りの魔物は物ともしない、そして現役時代と変わらず思い切りがいい。
……まあ悪く言えば慎重さが無いとも言える。以前はそれで高級素材をズタボロにしてしまっていたのだが、今回は大正解だ。
オニは何故か分からないが、倒されると実体を残さず黒い霧になって消える。小さいものは魔核も残さない。旨みの無い魔物だ。素材も何もないから何も考えずに戦斧をぶん回して倒してしまえばいい。
オレも飛び込もうと剣を抜く。が、一瞬早くジェシカの鞭が小オニの群れをなぎ倒す。
まとめて十匹以上の小オニが壁に叩き付けられ五匹ほどが霧となって消えた。
「あとは僕がやるよ」
最後残った五匹はナナイたちに近すぎ、斧や鞭を振り回すのはチョット危険だったので、まとめてオレが引き受ける事にした。
マジックリングから取り出した刃渡り二十五センチマイトルのナイフを両手に持って、小オニの群れに踊りこむ。
「ゲッ」「グエッ」「ギャッ」
当るを幸いに切り飛ばし、ものの十数秒で小オニの群れは霧となって消えた。
「なんてひどい事を」
鬼の群れがいなくなった通路に、切り傷による血だらけのロックとナナイが倒れていた。
穴から落ちたときに出来た傷もあっただろうが、大半は鋭利な刃物などで切られた傷だった。小オニたちの爪で切られたものだろう。
小オニは嗜虐心が強く、こうした弱い者や動けなくなったものを爪などで少しずつ切り刻んで楽しむ事がある。
二人は気絶しているのか倒れたまま目を開けない。
死んでないよな。
ジェシカがロックの半身を起こして支え、フラウがナナイを支える。手の脈を測ると弱々しいが反応がある。
「まだ生きてる」
オレはマジックリングから、ギルドから預かった下級ポーションを取り出しジェシカたちに渡す。
さっそくロックとナナイに飲ませると小さな傷がたちまち消えていく。
そしてだいぶ出血していたので、増血剤となるサンギス水も飲ませやる。
「う、うん」
「もう怖い事あらへんで、ゆっくり寝ててや」
二人が微かに反応して目を覚まそうとしたので、フラウが自分の手の平で、まぶたを上から押さえた。
目を覚まそうとしていたロックとナナイがまた深い寝息を立て始めた。
何かしたんだろうな。魔法か種族固有のスキルか何かか。
「だいぶ恐い思いしたやろからね、少し寝かせて気持ちええ夢見させたんや(ヒソ)」
オレは怪訝な顔をしていたのだろう、フラウがこっそり教えてくれた。
「このままやとトラウマになるさかい、夢で記憶をあいまいにさせたんや(ヒソヒソッ)」
イタズラ好きの妖精は、意外と子ぼんのうな世話好きな妖精だった。
夢魔みたいな事するなと思ったが、こいつの場合元々がクックという夢魔よりも高位の妖精らしいから、そういうものなのだと納得しよう。
ナナイにとっては悪い事ではなさそうだし。
「JJ、ウチが預けた荷物、持って来てよかったな」
「ああ」
そう言ってオレは預かった荷物を取り出した。
宿屋に置きっぱなしにされていたナナイの着替えなどが入った荷物を、フラウが念のためにと持ってきてマジックリングに預かっていた物だ。
「傷だらけんなってかわいそうに、今着替えさせたるさかいね。男どもはあっち向いててや」
そう言ってフラウは、かぎ裂きだらけで血だらけのナナイの服を着替えさせ始めた。
やはりフラウは子供の面倒見がいい。オレの時も古着を買ってくれたりと意外と面倒を見てもらった。……まあそれ以上に迷惑をこうむっているが。
オレはジェシカが面倒を見ているロックの様子を見る。
こっちも傷だらけで、服はかぎ裂きだらけだ。
「ロックの着替えは? 」
ジェシカが聞いてきたので「ない」と答えると、なぜか恨みがましい目を向けてきた。なぜに?
ジェシカの謎行動は放っておく事にして、ロックの怪我の状態を見る。
やはり足を怪我しているようだ。足首が紫色にはれ上がっている。落とし穴に落ちたときに怪我したのだろう。それとは別に足の関節が一個増えている。まあつまり脛の骨が途中であらぬ方向に曲がって骨折している。
度合いにもよるが、骨折の怪我はポーションで直すとまずい。骨を折って曲がったまま高級ポーションを飲ませたりすると、曲がったまま骨がくっついてしまうから。
先ほど飲ませた下級ポーション位なら、擦り傷は治せても骨折は直せないから問題ない。
で、ロックの怪我はどうすれば良いかというと、まず最初に整復して骨を正しい位置に戻す必要がある。
「骨折れてるみたいだね、誰か骨接ぎできますか? 」
オレは知っているが、JJがマッスルが骨接ぎできる事を知ってるのはおかしいからあえて聞く。
「そうね、……それならギルマスにやってもらいましょう」
一瞬ためらったが、ジェシカはマッスルに指示をだす。あくまでも夫のマッスルを他人行儀にギルマスと呼ぶ。これは仕事中のけじめと言うやつらしい。
フラウが寝かせたのを幸いに、少し荒療治だがマッスルに骨接ぎをしてもらう事に。
骨折の整復は力任せで、勢いで元の形に整えてしまわないといけない。ゆっくりやっても痛いだけだから。この手の力技はやはりと言うかマッスルが上手い。
「おう、まかしとけ」
久しぶりにジェシカに頼られて張り切ったマッスルが、ロックの曲がった足を掴むと、「フンッ」と力任せに引っ張り、真っ直ぐに戻す。
ギャーーーーーッッッツ!!!
ロックの口からこの世の終わりのような叫び声が聞こえ、整復が終わったとたん、またパタンと倒れて気絶した。
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