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出禁 第十八話 最強の精霊使い走る その3
しおりを挟む「どうやらロックたちは、この穴に落ちたようだね」
地下七階層で見つけた穴でクー・シーは動かなくなってしまった。他に続く匂いを確かめさせるが、ウロウロするばかりで結局穴の縁に戻ってしまう。
オレは手の平を舐めさせてミストを与えながら、クー・シーの鳴き声に耳を傾ける。
クウ~ン。「ここ以外ないよ~」と言っているようだ。
「行くしかないようだな」
【迷宮モグラ】が作った穴は比較的壁がつるつるで、つかまる所がないのでゆっくり降りていく事が難しい。
飛び降りたら、高さによっては底に着いたときに怪我をしそうだ。
「これで足りれば良いけど」
オレは長さ三十マイトル程のロープを取り出した。
慣れたダンジョンなので、普段はこれ以上長いロープは必要なかったので用意していなかった。
ロープの片側を近場の坑道の梁にくくりつけ、もう片側を穴にたらす。これで足りればいいが、足りなければそこからは飛び降りるしかない。
<明りの妖精>や、魔物の悪意を感じ取る<風の妖精>では、穴の深さとか、ロープが足りているとかまでは判らない。
下の階層に繋がっているのだけはなんとなく分かった。
<風の妖精>によると、穴の底には【迷宮モグラ】も含めて魔物はいないようだ。
「僕が一番軽いから先に行くね」
こういう場合、ロープが切れたり、ロープを括りつけた梁が壊れたりする可能性を考え、安全に降りられる可能性の高い者、つまり体重が軽いものから降りていくのがセオリーだ。なのでオレから行くのが当たり前。と思っていたら、
「チョット待って、私の方が軽いかもしれないわよ」
「……」
えっと、ジェシカさん?
確かにジェシカは痩身麗躯だが、身長一マイトルちょっとのJJと比べて体重が軽いと言うのは無理がある。
「ジェシカお姉ちゃんさすがにそれは……」
「……」
何に対して見栄を張りたいんだか。
「確かに、ジェシカ姉えちゃんは痩せてて体重は軽いと思うけど、身長は僕の倍くらいあるから、体重が重い……僕より少しだけ重いのは仕方ないと思うんだけど」
なるべくオブラートに包んで体重の話をジェシカに告げる。
「や~だ~JJくんたら~、痩せててスタイルよくって美人だなんて~、そんなにおだてないでよ~、えっ、おだててない? 本音? いやだもう~。まあ、確かにJJくんよりホンのちょっと、すこ~しだけ微妙に体重はあるかもしれないわね~」
おだててないし、言ってないから。
マッスルもフラウも口ポカン状態だ。もしかしたらオレも。
いつからジェシカはこんなキャラになった?
「じゃあ仕方ないわね、JJくんロープ足りなかったら、大声出してね、すぐ引き上げるから。命は一個しかないから大事にね」
「……う、うん、大丈夫。僕は妖精が使えるから、先に行って様子を伺ってくるよ」
マジメモードと浮かれ妄想モードのギャップが激しい。
ジェシカの気が変わらないうちに、オレは飛び込むように穴を下りていく。
【迷宮モグラ】が作った落とし穴は意外と深く、上を見るともうジェシカの心配そうな顔が小さくなって見えなくなった。
そして下を見ると、先に下りていた<明りの妖精>のお陰で下の階が見えてきた。
ロープは少し足りなかったが、床まであと四、五マイトルほどだったので、まあ家の二階から飛び降りるぐらいですんだ。ジェシカやマッスルの身長なら殆ど問題ないだろう。
残り十マイトルだったら多分引き返していたかな。
さっそく左右に<風の妖精>を疾らせる。
左は、……魔物の気配なし。
右は、……いた。十マイトル離れた所にデスハムスターというダークラットの大型種が群れを成していた。こっちに気が付いたようだ、走ってくる。
ジェシカたちが一緒だったら早速逃げた所だが、まだ降りてきていない。仕方ない、やるしかないようだ。
愛剣のファイブフィンガードソードを、アーティファクトのマジックリングから取り出して迎え撃つ。
飛び掛る二匹のデスハムスターを、一匹はけさ切りに、返す剣でもう一匹を水平切りにして始末すると、足元に噛み付いてきた三匹目を壁に蹴飛ばしてから刺突、四匹目は飛び掛って来たところを串刺しにした。最後の五匹目は恐れをなして逃げ出したようだ。あえて追うような事はしない。
ふう、この辺りの階層ならまだ大丈夫だな。
だがやはりオレにとってはこの剣はチョット重いな。この先大物相手ならタロスに頼るしかないかな。
他には魔物は近くにいないようだ。
安全を確保した所で穴の上で待機しているのジェシカに声をかける。
「ジェシカお姉ちゃ~ん、こっちは問題ないよ~。ロープ、ギリギリ足りないけど、チョットだけ飛び降りればすぐ床だよ~」
返事が聞こえ、間もなくジェシカたちが降りてきた。
「三十マイトルのロープが足りないなんて何階分降りたのかしら」
そうだな、単純に一階分四、五マイトルとして三十マイトル強なら六階から七階分。穴の入り口が地下六階だったから、地下十二階か十三階あたりか。
かなり落ちたな。
地下十二階、三階となると魔物もそれなりに強くなってくる。
ダンジョンに入った事もないロックたちにとっては歯が立つ相手では無い。
さっそくクー・シーに匂いをかがせると、ウォンッ「こっち! 」と少し鳴いてから走り出した。
「僕らも行こう」
地面を見ると何かを引きずったような跡がついている。
それほど重いものを引きずったような跡では無い。そう、足を怪我して引きずっているような跡だ。まだ新しい……
穴は真っ直ぐ垂直に伸びていたわけではなく、途中で多少曲がっていたりしたので、そのお陰でロックたちも落ちるスピードが緩やかになって、大怪我にはならなかったのかもしれない。だが足を引きずる程度には怪我をしているようだ。
早く保護しなければ。
とさっそく、<風の妖精>が、百マイトルほど先に魔物の気配を感じ取った。そしてそれとは別の弱々しい別の生き物の気配も。
「キャーッ」
「ナナイーッ! 」
小さな少女の金切り声。それをすぐにナナイの声と聞き分けたフラウが叫び返す。
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