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第二章 王都編
出禁 第三十話 誘魔香 その1
しおりを挟むアンティコバの街でも相変わらずオレの宿はなかった。
仕方なく俺はまたしても高級宿の厩舎に忍び込み、藁に包まれて寝ようとした。
するとそのとき、風の精霊が囁いた。
「アイツ~デテキタ~」「マックロクロスケ~」
マックロクロスケとは黒服を着たあのイジワル執事のようだ。服も黒いし腹も黒いのでぴったりなネーミングだと思う。
いや。オレが付けたんじゃないからね、精霊がつけたんだからね。
時間は夜も遅くシャーロットたちは寝付いた時間で、執事にとっては自由時間だろう。飲みに行くこともあるだろうし、出歩いたっておかしくないさ。
と思っていたのだが、
「アヤシイコトカンガエテル~」「オコッテル~」
風の精霊がなんだか不穏な事を伝えてきた。
この名もない風の妖精たちは、オレのミストを食べながら、オレの周囲を警戒してくれている。
怪しい人影とか悪意を持っている人がいるとオレに教えてくれるのだ。
仕方ない、風の精霊のご忠告を無視する訳にもいかず、オレは執事の後をつけることに。
すると少し離れた所にある安宿、御者や召使達が泊まっている宿に入っていった。
風の精霊が声を拾ってくれるので、オレは外で待機する。
耳を澄ますと執事と、シャーロットが乗った貴族馬車の御者の話し声が聞こえた。
執事:なんだ今日の魔物は、あんな子供にも倒されるような魔物じゃ、怪しまれるじゃないか。
御者:いや、アタシはテイマーですが、落ちこぼれで御者になった男ですから、あれ以上強いのはアタシじゃ扱えやせんぜ。それにお嬢さんにバレなきゃ良いんでしょ。
執事:ダメだ、オレハ様の指示だ。明日こそ上手くやれ、あの小僧は怪我をさせてもいい、もっと強い魔物を呼べ。明日は荷馬車を先頭にして、魔物が出たら荷馬車に乗ってる小僧が真っ先に戦うようにする。あれでも護衛だっていうんだから逃げないだろう。
御者:いや、強い魔物を呼ぶとしたら誘魔香を使うしかないですぜ。
執事:いいじゃないか誘魔香。
御者:でも、細かい調整が出来ませんや、呼ぶなら本当に危険な奴が来ちまいます。
執事:公爵家の護衛がついているんだ問題ない。いいか強い魔物を呼んで、JJの小僧が最初に戦って魔物に大怪我を負わされる、そして公爵家の騎士がお嬢様の窮地を救って、オレハ様の株が上がる、筋書きはこうだ、分かったな。
御者:はあ。
執事:明日、午前中の休憩の時に、お前だけこっそり先行して、少し先に誘魔香を仕掛けるんだ。
御者:……はい。
話はそれで終わって、執事は自分の泊まる高級宿へ戻っていった。
どうやら執事はオレハと繋がっていて、お嬢様、つまりシャーロットと仲良くするオレに嫉妬して、オレに怪我を負わせて、ついでにシャーロットの窮地を救って自分の株を上げようとしているらしい。
完全にマッチポンプだな。しかも自分で戦わずに配下の騎士に戦わせる所もダメダメだけど。
それにしても、誘魔香か。魔物を誘き寄せる香りを発する魔道具だ。
危険なのであまり表立って売っていないと聞いていたが、御者は何か伝手があるのかな。
と考えていると、今度は御者が外に出てどこかへと向かった。
後をつけると、とある建物に入っていった。看板にはテイマーギルドと書かれていた。
風の精霊が拾ってくる声に耳を澄ますと、先ほど執事と打ち合わせしたように、御者の男が誘魔香を買っていた。
そうか、テイマーはテイムするための魔物を集めやすくするため誘魔香を使うのか。
御者は、公爵家の子息が暇つぶしに魔物退治を見たいので、魔物を集めて配下の騎士に退治させると嘘を言っていた。
窓からこっそり覗くと、誘魔香は普通の成人男性の二の腕くらいの筒のような形をしていて、ネジ式のふたが付いていた。
ギルド職員は、そのふたのネジをひねると匂口が開いて、魔物が好きな匂いが外にもれて魔物が寄って来る。ふたのネジをひねってを匂口を閉めれば匂いがもれるのが止まるので、それ以上は魔物は来なくなるのだと説明していた。
御者の男は、初めて見る形だと言っていたが、ギルド職員はこの形はこのアンティコバのテイマーギルド独特の形で使いやすいはずだと言っていた。
ふたを開けた後、小ロウソク一本分(燃える長さ、十本で大ロウソクの一本分)で必ず閉めろ、でないと強い魔物が寄ってきて取り返しが付かなくなる、くれぐれも取り扱いは慎重にな――、と釘を刺されて御者はギルドを後にし、真っ直ぐ安宿にもどった。
さてどうしようか。
御者から誘魔香を取り上げて、事件を起こさないようにするのは簡単なんだが、それでは何の解決にもならない。多分同じような事がずっと続くと思う。
あの執事は百害あって一利なし。もう執事も御者共々退場してもらおう。
事件はあえて起こさせる。そして真正面から叩き潰してやる。
翌日、オレが乗る荷馬車が車列の先頭を走った。昨日の執事と御者の打ち合わせどおりだった。
でもおかしいよね。仮にも貴族なんだから体面というものがある。
普通貴族の華やかさを見せ付けるため、また危機管理のため鎧を着た護衛騎士、四騎から六騎が先頭になり、その後に豪華な貴族馬車、そしてまた護衛騎士二騎、せいぜいその後に荷馬車だ
執事は、オレが先頭を行くことについて、
「JJ殿の優秀な事はよく理解できました。護衛で索敵も出来るJJ殿が先頭にいた方が危険は少ないでしょう」
という言い訳していた。
よくそんな歯の浮くセリフで騙せると思ったものだと、逆に感心する。
護衛騎士は何も文句は言わなかったのだろうか。
もしくはコイツらもグルか……。
朝早めにアンティコバの街を出たオレ達の車列は、大ロウソク二本分走った所で最初の休憩をした。
するとシャーロットがのった馬車の御者、つまり執事と打ち合わせをしていた、テイマーの落ちこぼれの御者が、小荷物を抱えて一頭の予備の馬に乗ってこっそりと休憩場所から離れていった。
それに気づいた者はオレ以外いなかった。
執事との計画どおり、誘魔香を仕掛けに行ったようだ。
休憩時間が終わるころ、御者の男はこれまたこっそりと戻ってきた。
そしていつもどおり、馬車の御者台に乗り込んだ。ただし顔つきは少し緊張しているように見える。まあ当たり前だな、この先で魔物が集まっているんだからな。
短い休憩を終えて、再び車列は走り出す。
やはりオレが乗る荷馬車が先頭だ。
この日は穏やかな春らしい日差しで、今後の事を考えなければ、つい眠ってしまいそうだ。
だが、残念ながらと言うか予定通りと言うか異変は起きた。
名もなき風の精霊が叫んだ。
『コノサキ~マモノイッパイ~』『オッキイノ~、オッキクナイノモイル~』『コワイ~』
風の精霊によると、どうやら百マイトルほど先の森の入り口に、魔物がかなりの数が集まっているらしい。
「おじさん、馬車を止めて、この先魔物が集まってる」
「ええっ」
事情を知らない、荷馬車の御者が馬車を急停止させる。
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