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第二章 王都編
出禁 第三十話 誘魔香 その2
しおりを挟む「おじさん、馬車を止めて、この先魔物が集まってる」
「ええっ」
事情を知らない、荷馬車の御者が馬車を急停止させる。
「ちょっと様子を見てくるから、ここで――ッ!?」
ここで待ってて、と言おうとすると、後方から騎馬が四騎が駆けつけてくる。
「どうした、魔物でも出たか」
なぜ、最初から魔物が出たと思う。
「まだ分からないけど、ちょっと様子を見てくるね」
「よし魔物の偵察は任せた」「オレ達は後方に知らせよう」「公爵家の騎士に応援を頼もう」
だから、なぜ魔物と決め付ける。
なぜ偵察を子供に任せきりにする。
なぜ荷馬車の護衛はしない。
なぜすぐに公爵家に応援を頼む。
もう、突っ込みどころ満載で、逆に言葉がない。
多分、この騎士達は全部グルで、公爵の騎士に花を持たせるために、自分達は手を出さないように言われてるのだろう。
「うん、応援つれてきて、願いね」
後方に下がる四騎の騎士に応援を頼む。
今回の魔物騒動が、執事と御者とオレハが仕組んだ物だと暴くには、誘魔香で魔物が集められたという証拠を、公爵家の騎士に見つけてもらわなくちゃいけないからね。
昨日の態度からすると、公爵家の騎士は計画は知らないようだから。
あくまでもオレハがイジワル執事に命令しているのだろうが、二人はどういう関係だろう。まあ詮索は後だ。
「ちょっと行ってくるね」
荷馬車の御者に言い捨てて、オレは森の入り口へ走る。
多分、森の入り口で戦う分には問題ないだろう。誘魔香が効いてる間は、魔物は馬車へは行かないだろう。
だけど風向きなどで誘魔香が馬車の方向に流れていくとちょっと厄介だな。魔物が車列に気づいて襲われる可能性がある。
ま、その時はホントの護衛の騎士に頑張ってもらおう。
森の入り口が見えてきた。
そして森に近づくにつれ、森や草原ではありえない甘く刺激的な嫌な匂いがしてきた。
これが誘魔香か?
そしてその匂いが強くなる方向に、……いた!
クマの魔物グリズリー、狼の魔物グレイウルフ、鳥の魔物はよく分からないのがいっぱい、大小様々だ。その数……いっぱいだな。数えられん。
誘魔香に引き寄せられた魔物だろう。
こういう魔物の数が多い場合は、魔法で一気に殲滅する方が簡単なんだが。ジェシカの風魔法とかね。
オレの場合はイフリートって事になるんだが、イフリートは威力の調整が出来ない。
証拠の品の誘魔香も、その背後の森も灰になる事は間違いない。他に攻撃が出来るのはタロスだけだ。やはり剣で地道に数を減らしていくしかない。
だが、タロスに頼むのは後だ。
まずは、遠目から大型魔物を、ケイロンボウ・コレクティオで狙う。
「フッ、フッ……」
五矢で五頭のグリズリーの頭を射抜く。
ケイロンボウ・コレクティオはミストを込めれば命中力と威力が上がるので、中々優秀な武器なのだが、ジェシカのレインボウなら一矢で七頭まで倒せるから、ちょっとうらやましくなった。
大きいのが一旦いなくなったので、次は小回りの聞くナイフや鞭で小さな魔物を狩っていく。
タロスを使わないのは、ナイフや鞭ではタロスの怪力に武器が耐えられないからだ。
タロスを顕現する時は、ファイブフィンガードソード一択だ。
ダンジョンで鍛えた脚力を生かし、瞬時に魔物の群れに飛び込むと、やや遠目から鞭を振り回す。
「セイッ」
イバラの鞭を一閃、ネズミの魔物やウサギの魔物がミンチにされていく。当るを幸いに振り回し、数十匹屠ったところで、さすがに隙が出来て、狼の魔物がオレの懐に飛び込んできた。
鞭をあきらめて、大型ナイフの二刀流で応戦する。
なるべく喉や頚動脈など柔らかい急所を狙う。魔物はあまり変則的な動きをしないので、戦うのもあまり難しくないが、それでも数が多いと厄介だ。
さらに数十匹屠った所でオレもかなりの手傷を負った。だがまだまだ魔物は数が多い。
絶体絶命とまではいわないが、いい加減面倒になった。
そろそろ応援に来てくれてもいいのに。と思ったその時。
「おーい、加勢に来たぞ」「魔法を使うぞ、そこを離れろ」
見ると公爵家の騎士が六人、馬を下りて、ガッシャンガッシャン鎧をならして駆けて来る。
オレはナイフを大振りに振り回して魔物を遠ざけると、すぐさま騎士の側まで後退する。
騎士の中の一人が詠唱をしている。オレがその騎士の横にたどり着いた時、
「――穿て千の針、サウザンドニードル! 」
と叫んで、人差し指ほどの長さの針を、それこそ千本くらい(適当)魔物に発射した。
おお、大量の魔物が一瞬で……。
やはり数が多い魔物を倒す場合は、大量殺戮魔法が便利だと改めて思った。
後で聞くと、これは土魔法の一種らしい。
ハリー爺さんに頼めば出来るかも知れないと思うのだが、それはちょっと後の話だ。
「よし、数が減ったぞ、かかれっ殲滅しろ」
隊長らしき男が命令し、残りの騎士は血に飢えた猟犬のように魔物に飛び掛っていく。
多分今までは暇しょうがなかったのだろうな。皆嬉々として魔物に飛び掛っていく。
しかし隊長はその場を動かなかった。そして
「バカモノ、なんで我々を待たなかった。貴様が部下ならぶん殴ってやるところだ」
「痛ッタ~~~~~~~~~~ッ!? 」
と言って、脳天に拳骨を落とされた。
もう殴ってますけど。メッチャ痛くて涙が出た。
部下が危険目にあってたら怒るのも分かるけど、部下じゃないから許してよ。
なぜ待たなかったかと言えば、誘魔香を一刻も早く見つけたかったから。アレは時間がたてばたつほど、強い魔物を誘き寄せるからに他ならない。
テイマーギルドの職員が言っていた。
小ロウソク一本分で蓋を閉めろと。
もうかれこれ小ロウソク五本分以上はたってると思う。かなり危険だ。
「それよりも、オジチャンなんか変な匂いしない? 」
「オジチャ……お兄さんと言いなさい」
無精ひげの三十男が、何かたわけた事を言ってるぞ。こいつ、この状況でそんなこと気にするなよ。
「そんな事よりッ! オッチャン」
殴ったから絶対お兄さんとは言わない。「なんか変な匂いするでしょッ! 」
「ん、……この不自然に甘い刺激的な匂いは、誘魔香か! 」
知ってたんだ。誘魔香。
実は後で知ったのだが、誘魔香は戦争の道具としても使われる、騎士や兵士にはよく知られた道具、兵器だという。
誘魔香を使って魔物を集め、敵の都市を攻撃させるのだ。後々、その街を人間が住めるように取り戻すのが大変だったり、あまりにも非人間的なので使わないように条約が結ばれているが、軍隊では良く知られた戦争兵器だそうだ。
「この匂いにつられて魔物が寄って来てるんじゃないかな」
「そうか、皆聞け、この近くに誘魔香が仕掛けられている。魔物と戦いながら、匂いの元を探せ」
「ええ~~~ッ」
戦っている最中に? この隊長、中々無茶な事を言う。
だが、部下の騎士は戸惑いを見せたがそれ以上文句は言わなかった。たぶん、言っても殴られるだけ、肉体言語の教育がきちんとされているのだろう。
騎士に任せてもいいが、オレが探した方が早い
「クーッ! この甘い匂いの元を探せ」
オレは犬の妖精クー・シーのクーを呼び誘魔香を探させる。
最初嫌な臭いに戸惑いを見せていたクーだったが、オレの周囲をぐるぐる回った後、ダッと走り出した。
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