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第二章 王都編
出禁 第三十話 誘魔香 その3
しおりを挟むそのころ、森の入り口から少し離れたところで待つシャーロットたちは。
「けっこう遅いわね、JJくん大丈夫かしら」
「分からないけど、JJくんてダンジョンに潜っていたんだろ、昨日も言ってたし。大丈夫じゃないかな」
シャーロットが心配するので、ロレンツォはシャーロットの馬車まで来て、必死に安心させている。だが、
「大丈夫さ、JJが死んだとしても、いざとなったらシャーロット様は私の騎士が守る。心配無用だ」
「JJが死……え、えっ」
そこに呼ばれもしないのにオレハが混ざって、シャーロットに要らぬ心配をさせるのだった。
「オレハッ、キミは余計な事を。シャーロット大丈夫だよ公爵家の騎士がJJの後を追って魔物退治に行ったから安心だよ。ハミル家の騎士もここにいるから僕らも安全だ」
「そ、そうよねJJも安心よね」
ロレンツォが必死にシャーロットを慰めるのを、オレハは嫉妬深い目つきで睨む。
「それにしても、ここでは魔物を退治する配下の騎士の姿が見られん、シャーロットにも自慢出来ないな」
オレハがブツブツと言っているのをロレンツォが聞きとがめる。
「オレハ、何をブツブツ言ってるんだい」
「い、いや、なんでもないさ。それより、そんなにJJが心配ならいっそもう少し馬車を前の方まで進めようではないか」
「いや、それはどうだろうか」
「前方には、うちの騎士がいるのだ問題ないだろう」
オレハが必死に勧めるのを、ロレンツォは冷静に引き止める。
その時、シャーロットの乗る馬車の御者台にいる男は、甘くそれでいて刺激的な匂いが漂ってくるのを感じた。
「しまった、ここまで匂って来るとは。まずいぞ……」
と、男は周囲を見回す。誘魔香が思ったよりも周囲に拡散したようだ。
その声を聞いてロレンツォが小窓から御者台に声をかけた。
「何がまずいんだい」
「え、いや」
御者の男があせって、言葉を詰まらせた、その瞬間「魔物が来たぞ」そう言って叫ぶ騎士の声が聞こえた。
「あ、魔物が出たからまずいって」
苦し紛れに騎士の声に便乗する。
「何、魔物だと、よしチャンスだ、うちの騎士に倒させよう。隊長を呼べ! 」
オレハが過敏に反応して外にいる執事に叫ぶ。
「坊ちゃま、逃げましょう」
すると馬外のアホネン家の執事が反対する声が。
「うちの騎士はどうした」
「全員まだ戻ってきません、多分、殺られたかと」
「なんだと、今ココにいないのかなぜだ」
「坊ちゃまが、皆行けと仰って……」
「それじゃここも危ないじゃないか、逃げるぞ」
オレハの危機管理能力が高いのか単に臆病なのか、逃げる決断に躊躇はない。そして自分が戦ってシャーロットの前でいいところを見せるという考えはない。
あくまでも戦うのは配下の騎士で、自分はその“指揮を取る偉い男”なのだ。
「シャーロット様、一緒に逃げましょう」
せいぜいこのくらいだ。
「しかし、私の家にも騎士はおりますので……」
「えっ、うちの騎士が殺られたというのに……分かった、では私もココに残――ッ!? 」
苦渋の決断で残る選択をするオレハ。だがその決意をあっさり砕く男が。
「坊ちゃま、ここは戦略的撤退です」
アホネン家のオレハ専属執事だ。
「シャーロット様の避難先の確保も重要な仕事です。貴方様のお気持ちはシャーロット様には充分伝わっています。勇気を振り絞って苦渋の決断ながら断腸の思いで撤退しましょう」
どう言いつくろっても逃げる事に変わりはない。
「そ、そうか、やはりそうだよな。勇気ある戦略的撤退は苦渋だが重要だ、わかった。シャーロット様ご安心ください。あなたの避難先は私が確保しておきますので。ではお先に。あなたも速く避難を」
すばやく馬車を大回りに回頭させたアホネン家の執事は、オレハのケツをたたいて馬車に押し込むと、さっさともと来た道を逃げていく。
「と言う事は、私達は見捨てられたと」
オレハの思いは一ミリも伝わっていない。ただ事実は正確に伝わっていた。
「まあ、そうだけど、まだうちの騎士とキミとこの騎士がいるから大丈夫だよ」
残された戦える者は、ハミル家の騎馬騎士四騎、ガレア家の騎馬騎士四騎。
「まずい、騎士達でも勝てなかったか、誘魔香が強すぎたんだ」
御者の男は慌てて御者台を降りて、馬の鼻先を取って馬車を回頭させようとする。だが馬車はもはや、狼の魔物に囲まれて身動きできなくなっている。
八人の騎士は、狼の魔物を相手に奮戦するが、そのうちの辺境伯家の騎士四人は、
「話が違うぞ」「公爵家の騎士め何をしていやがる」「金をもらっても死んだんじゃ割りにあわねえ」
と怨嗟の言葉をつむいでいる。
そのうちに、やっていられるかと一人二人と脱落し、残った騎士は、ガレア家の四人だけになった。
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