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第二章 王都編
第三十二話 王都 JJ受難 その2
しおりを挟むピシリと鞭でたたかれた。まだ軽く叩かれただけなので怪我するほどじゃないが、それなりに痛い。
「本気で殴られたいのか。子供だからと言って容赦はしないぞ」
「だから、誤解だって――ヅッ!?」
今度は声が出せなかった。背中に激痛が走る。一瞬息が出来なかった。多分思い切り鞭で叩かれたのだろう。
さらにもう一撃。
もの凄い音と衝撃、そして真っ赤に焼けた鉄棒を押し付けられたような、熱さと激痛がオレの体を襲った。
「いい加減吐く気になったか」
「は、吐くも……何も」
ビシッと三撃目が今度は肩に落ちる。重い身を切られるような痛さだ。
なんでオレがこんな目に。
もう何もかも投げ捨てて、こいつらぶん殴って逃げ出したい。
だけど、ここで逃げると只の犯罪者プラス逃亡犯。このあとリベルタにも会えなくなるし、ディアも学校で一人ぼっちだ。ここは耐えなければ。
やはり、護衛にしたいとか言ったハミル辺境伯の誘い言葉は真っ赤な嘘で、オレをはめるための罠だったんじゃないかと思われる。理由は分からないが……。
「オレは……言われたと、り馬車……届け」
「まだ言うか! 」
あくまでも白を切るオレに、鞭を振るい続ける警邏の男。
五発目までは鞭を背中に受け、その後は身体の向きを変えられて、胸と腹に五発鞭を受けて、この日の尋問は終わった。
「ふん、明日もその強情が続くかな。牢屋にぶち込んでおけ」
警邏隊の詰め所の半地下のような石造りの牢屋に蹴飛ばされてぶち込まれた。
冷たい石畳が、痛いが気持ちいい。
チクショウ、何が何でも罪を認めさせる気か。
どうしてこうなったのか謎だが。このままでは本気でまずい。
身体が持たないので、一本だけ残っていた高級ポーションを飲もうかと思ったら、
「小僧、出ろ。釈放だ」
鞭を振るった男とは別の男が、気まずそうに牢屋の鍵を開けてオレを釈放した。
「なんで急に釈放されたんだ」
「さっさと行け」
男はイライラしながら、オレを出口へと促す。
外に出ると、もう日はギリギリ暮れた、いわゆる逢魔が時という薄気味悪い明るさだつた。その薄暗闇の中、オレを迎えに来たらしい、一人の女が立っていた。
それはとても意外な人物だった。
「アラアラ、とてもヒドイ格好ザマスわね」
その女は、オレのズタズタに破れたシャツと傷だらけの身体を見て、抑揚の無い声でそう言った。
この女は、メセタの街のギルマス?
「メセタのギルマスの……ザーマスさん? 」
「違うザマス。サーマス・ザーパス、ザマス」
なんでここに、なんでオレを迎えに、ギルドはどうした?
様々な疑問が浮かぶが言葉が出ない。
オレを迎えに来た……味方か。
「ハミル家としてユーを引き取りに来たザマス。釈放されてよかったザマスね」
そう言いながら、ザマスギルマスは、警邏の人間から、取り上げられていた傷だらけの馬車と四頭の馬を受け取った。
〝ハミル家として〟ということは、ザマスは辺境伯家の人間なのだろう。
つまり、オレの敵か。
「ありがとう、ザマス」
「? どういたしませて」
何をありがとうなのか分からない。
「ユー、人に頭を下げられない人は、一生大人にはなれないザマスよ」
御者台に上がりながら、オレを見下ろしてザマスが言う。
そこまで言われて初めて、“ありがとう”と礼を言えと言ってることに気がついた。
まあ、そうだな。たとえ敵でも、いったんは礼を言っとかないといけないかな。助けられたのは事実だし。油断は出来ないけど。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしましてザマス。では光の精霊よ、JJの傷を治すザマス」
ザマスギルマスが呟くと、オレの傷が癒され、体の痛みがなくなった。
「これは……精霊? 」
傷が癒される時に感じた暖かい波動は、精霊魔法のようだ。
「この間も思ったザマスが、やっぱりユーは、精霊の魔法がまだまだ、ザマスわね」
「な……」
精霊魔法自体使い手がほとんどいない中で、オレ以上の使い手なんているはずが……。
いや、目の前にいるのは、オレ以上の使い手なのか。
精霊には、ポーションのように傷を癒すような事は出来ない。
そう思っていた。
だがそれはオレの思い込みだったのか。精霊の魔法はもっともっと奥深いものなのだろうか。
だとしたら、精霊の魔法がまだまだと言われても仕方がない。
「まあ、これに懲りたら、もう一度精霊の魔法をシッカリと修行しなおすザマス。今までサボっていた罰に、今日のところは屋敷まで走ってもらうザマス」
へ? と思っていたら、ザマスはオレを置き去りにして馬車を発車させた。
「さっさと付いてこないと、屋敷に行く前に迷子ザマスわよ」
「おい、ちょっと待てッ」
この後オレは、馬車を追って辺境伯家まで、小ロウソク一本分ほど全力疾走させられた。
※
辺境伯家に付くと、玄関には二人の女性の影があった。
もはや夜の帳も下りて、その姿は黒い影としか見えなかったが、なんとなく予感はあった。風の精霊が教えてくれていたから。疲れてよく聞こえなかったけど。
「光の精霊、明かりを」
疲れた身体に鞭打って、光の精霊にお願いすると、光がぽうっと浮かんで、ディアとリベルタの顔を浮かび上がらせてきた。
「JJッ!? 」
リベルタが駆け寄ってきて、オレに抱きついた。「心配したんだからッ」
言ってるそばからディアの声が少し涙声になったのが分かった。
どうやらかなり心配かけたようだ。
本当は昨日の内に、この屋敷で合流するはずだったのに、一日遅れてさらに、護衛対象の少女は来たのに、護衛するはずのオレだけ来ないのだ。心配もするだろうな。
心配させてゴメンとオレは頭を撫でてやる。
ふとリベルタを見ると、彼女は彼女でホッと胸をなでおろしたといった感じで微笑を見せた。
「まあ玄関先で話し込むのもなんザマスから、中に入るザマス」
「JJ、この服どうしたのッ!? 」
ザマスがオレ達を屋敷の中に誘おうとした時、ディアがオレの破れたシャツを見て驚きの声を上げた。今頃気がついたのか。
「ああ、えっと階段で転んじゃって破れちゃった」
ホントの事を言っても心配させるだけだからね。
「本当に? 階段で転んだってこんなに破けないわよ、本当に大丈夫なの? 」
ディアは心配性だな。オレはディアに大丈夫だといってシャツの破れ目から肌を見せてやる。ザマスのお陰で身体は傷一つない。
「だったらいいけど……本当に大丈夫なの、ねえ、本当!? 」
ディアは疑り深い性格なのか、本気で心配なのか、オレが肌の一部を見せただけでは信用せず、オレのシャツを脱がせて身体全部を確認しようとする。
「あっ、バカ止めろ、イヤッ、エッチ」
ズボンまで下ろし始めたので、オレは必死に大事な所を死守する。
「JJくん遅かったじゃない、今まで何やって……何を……って、人の家の前で何やってるのよッ!」
タイミング悪くオレが半裸にされたところで、シャーロットが玄関から飛び出してきた。
ようやくディアの攻撃が止まったところで、おれはマジックリングから替えのシャツを取り出していそいそと着替えたのだった。
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