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第二章 王都編
第三十八話 会議は踊る
しおりを挟む王立魔法騎士学校の入学試験から五日後。
この日、学校で行われたクラス編成の職員会議は、とある一人の受験生をめぐって荒れていた。
「やはり、この受験生はAクラスに入れるべきですよ」
「そうです。筆記試験の成績も結果は八十点でしたが、実は間違えた問題も一度は正解を書いておきながら、何か勘違いをして、訂正して間違えてしまっただけ。それさえなかったら百点満点でした」
「やはりこの生徒はAクラスに相応しい。十歳の少年が入学したなんて最年少記録です。良い宣伝になりますよ」
比較的若い三人の教師が、十歳の少年JJのAクラス入りを力説している。
「いやいや逆じゃろ、我が校のレベルが低くなったと侮られるぞい」
「さよう。それに勘違いをする時点でそれが実力じゃ。試験は結果が全て」
「そのとおり。先生は、期末試験で間違えた答えを書いた生徒がいても、普段の授業で理解できているからと満点をあげるのですかな」
「そりゃそんな事はしないですけど」
「だったらそれでいいじゃろ」
一方、年配の教師たちは、それに猛反発をする。
「だけど、魔法の的当ては標的破壊判定SSですよ。破壊力、広範囲性共に文句なし。それだけでもAクラスしてもいいはず」
「だがあれほどの威力はありえないのじゃないかね、標的どころか後ろの壁まで壊すなんて、何かインチキでもしたに決まっておる。このまま合格させるのはいかがなものでしょうかな」
禿頭の教師に至ってはAクラスどころか不合格を匂わせる。
「そんな証拠が何処にある、証拠も無しにインチキ呼ばわりは問題ですぞ」
「王立魔法騎士学校の試験にインチキが入る余地があるということですかな」
「そうは言わんが……」
「あんな逸材を不合格にして、大公の私立魔法学校にとられでもしたら、王立魔法騎士学校は笑いものですぞ」
「だがその後の武技の試験もおかしいぞ、たった十歳の子供が三つも四つも上の子供を一瞬で倒し、さらに王宮近衛騎士団のヴァスキス騎士団長の息子と互角の勝負をしたなどありえんぞ」
「それじゃあ教頭先生は、カルロくんが八百長をやったと言うのですかな。彼は近衛騎士団の騎士団長の息子であるとともに、ラージュ王子の護衛でもある。彼自身のそして王子の名誉のためにも、ワザと負けるとは到底思えません」
「ま、まさか。そんな訳なかろうが。勘違いしてもらっては困るよ」
「そうでしょうとも、カルロ君が弱いわけでも、手を抜いたわけでもない、あの少年はカルロくんに勝るとも劣らない才能がある、ただそれだけです」
「やはりAクラス入りが妥当でしょう」
なぜかJJはかなり持ち上げられているようだ。
「いやしかし……今年はAクラスの枠が例年以上に厳しくてな」
「は? 教頭先生、そこは毎年同じで一般生徒のAクラス入りは十五人でしょ」
「いやそれが、その……」
舌鋒鋭い若い教師の言葉に、年配の教頭は言葉を詰まらせる。
実は――。
例年同様、Aクラス入りは、推薦入学十五人一般入学十五人は変わらないのだが、今年は一般入学の十五人についても、試験である一定以上の成績を示せれば、便宜を図って欲しいと、つまり裏口Aクラス入りのお願いが、いくつもの有力貴族から来ているのだ。
一人でも多く自分の子弟のみならず、知己の者を王子と同じクラスにAクラスに入れたい貴族が多いようだ。
入れ替わりにAクラス入りの成績がありながらBクラスに行く者には、奨学金と同額の金額は補填するとその有力貴族たちは保障している。
裏口入学ではないから違法というわけではなく、また有力貴族からそこまですると言われると、学校の教師も中々断れないようだ。
そのため、JJよりも成績は下なのだが、口利きでAクラス入りを約束された者が何人かいるようだ。
JJのAクラス入りを反対する教師は、そうした有力貴族に袖の下をもらっているようだ。
「その事で、一つ皆様にお話しておきたい事がございます」
「どのようなことですかな」
ここまで、一切発言していなかったテティスが手をあげて発言を求めたのを、教頭先生が許可した。
「今年、推薦入学でAクラス入り予定だった有力貴族子女が、本人達の都合でBクラスへ変更を希望されている事はご存知かと思います」
「それは聞いている、名前は知らぬが貴族二人と付き人の三人だとか……」
「それは推薦入学の話だ。一般入試枠の話ではない」
テティスの話に、全ての教員が、何の話だ――? と、首をかしげる。
「今回議題に上がっている、JJという少年は実はその有力貴族の後ろ盾によって受験した少年である事はご存知でしょうか」
「……初耳だな」
「それで? 」
「その有力貴族の子女もその受験生も、同じクラスにしてあげた方が、当人達も親の貴族も喜ぶのではないでしょうか」
「――ッ!? 」
貴族子女喜ぶ ⇒親の有力貴族も喜ぶ ⇒学校の心象がよくなる ⇒寄付が増える ⇒給料が上がる?
多くの教師の頭の中で、ガチャガチャ、チーンと魔導計算機のごとき計算が素早く成り立った。
「まだ十三歳の子供が見知らぬ環境で勉強をするのだ。知り合いと机を並べたいと思うのは道理だ」
「よく考えれば、JJくんは筆記試験もAクラスとしてはギリギリの八十点。武技の実技試験もカルロ君に負けている、Bクラスでも止むを得ませんかな」
「そんな……」
「実力もないのに上のクラスにいきたいというのは問題だが、実力があった上で下のクラスが良いというのなら問題ないのでは」
若い教師も本人の意向というのであれば仕方ない、と最終的にBクラス入りを認めた。
「はあ、肩の荷が下りたわ」
テティスは、親友からお願いされたJJのクラス分けについて、責任が果たせたようだと安堵のため息をついた。
「大体のクラス分は終わったかの」
それまで一言も口を挟まなかった校長が、もう一つ皆に言っておく事がある――、と口を開いた。
「実はつい先ほど連絡があっての、推薦入学のAクラスの子一人と、同じく一般入試でAクラス入りが決まっていた付き人の子の合わせて二人が、そろってBクラス入りを熱望してな」
「だれです、いまさらそんな事を言い出すのは――」
若い教師が聞き返すのを年配の教師が遮った。
「だれでも良いのではありませんか。その分、推薦組の貴族子弟でAクラスを希望していながら、定員の関係でBクラスに振り分けた生徒を上げてあげれば。ねえ、教頭」
「そうですな、まあ毎年の事ですな。何人かいるのですよ、あからさまな推薦入学のAクラス入りでは学力が伴わず、後で恥をかくので最初はBクラス、Cクラスが良いという貴族子弟が」
「皆がそれで良いならその子らはBクラスで決まりじゃな、親御さんにはワシからそう言っておこう」
「それでは、ナント・カー伯爵の三男がBクラスに振り分けられていましたが――」
「いやそれよりも、ダレダッケ子爵の嫡男が――」
職員会議はまたしても紛糾しだした。
「まあ、その辺りは皆で良いようにやってくだされ」
校長はそう言って、報告してくる――、と言って席を立った。
この結果が後々大きな問題を巻き起こすのだが。今はまだそれを知る者はいない。
……校長だけは、少しくらい問題が起こってもいいか――、と思っていたが。
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