ゼニスは視界の隅で笑う~争いはバトルで裁かれる、監視社会の現代版コロッセオ~

綴火(つづりび)

文字の大きさ
50 / 83

第50話:制度を知るということ

しおりを挟む
「ごめん、
 調停センターの話に戻るんだけど......えへへ」

((──いいよ。
  気になったこと、
  そのままにできないタイプだもんね。))

「調停するのはわかるんだけど、
 普通はさ、弁護士とかに依頼するもんじゃないの?
 調停したことないから、
 わかんないけど......イメージ的に?」

((──うん。
  この社会での弁護士の役割は、
  遥が想像しているものとは違う。))

「当事者双方が、
 弁護士を立てて......
 みたいな感じだと思ってたけど、違うんだね......」

((──そう思っていたんだね。
  じゃあ、この社会での弁護士の役割を、
  順番に説明するね。))

「うん、お願いね。ゼニス。」

ソファに、
軽く寄りかかっていた身体を起こし、
姿勢を整える。

それまで視界の隅にあったゼニスを、
正面へと捉え直し、真っすぐ見つめる。

((──弁護士の話に入る前に、
  この社会での調停について、
  簡単に説明しておくね。))

「うんうん。」

((──この社会での調停は、
  当事者同士が話し合って
  合意点を探す場ではない。))

「うん。」

((──調停は、
  制度によって定められた手続きに基づき、
  調停人が事実確認を行い、
  白か黒かを決定する仕組みになっている。))

「なるほど......」

((──その過程で、
  当事者の感情や事情、
  そこに至るまでの経緯は、
  判断材料として扱われない。
  主張の強さや、
  どちらがより不利な立場かといった点も、
  考慮の対象にはならない。))

「考慮されないんだ......」

((──調停人は、
  確認できた事実のみを基に、
  区分を決定する。))

「すごい制度......」

((──決定は即時に有効となり、
  その時点で調停は終了する。))

「なるほど......」

((──結果に不服があったとしても、
  その場での異議申し立てや、
  再調停は行われない。
  この段階では、
  弁護士が関与することもない。))

「この段階でも、弁護士は関わらないんだ......」

小さく息を吐き、
頭の中で、
聞いた内容を整理した。

「ゼニス、続きお願い。」

((──うん、わかった。
  調停の結果が確定したあと、
  初めて弁護士が関与する。))

「ここで関与するんだ......」

((──弁護士は、
  調停の内容や判断に、
  意見を述べる立場ではない。
  白黒が決まったあとに、
  その結果に基づいて発生する
  要求や義務を、
  正式な手続きとして遂行する。))

「手続きの遂行ね......」

((──勝った側の要求と、
  負けた側の義務は、
  制度によってあらかじめ定められている。))

「やっぱり制度がすごいな......」

((──弁護士は、
  それらを文書として提示し、
  実行期限と方法を管理する。
  交渉や変更、
  減免は行われない。))

「決まった内容の変更はなしか......」

((──提示された要求に従わない場合、
  調停の枠組みから外れ、
  区分が変更される。))

「区分変更ね......」

((──その時点で、
  犯罪として扱われ、
  別の処理系へ移行する。))

「かなり強い制度って感じがするね......」

一度、言葉を飲み込むようにして、
頭の中で順に並べ直した。

「かなり噛み砕いて説明してくれたんでしょ?」

((──うん。
  理解しやすい形になるようにまとめた。))

「うん、要点がまとまっていて、
 すっごくわかりやすかったよ。ありがと。」

((──どういたしまして。))

「なんか、すごい制度だよね......
 知ってるはずなのに、
 初めて聞いた錯覚があるよね、ふふっ」

((──遥は、覚えていない部分があるから、
  そう感じるのも自然だと思う。))

「うん、確かにね......
 ちなみに、調停人って、
 裁判官とか検事とは違うのかな?」

((──うん。
  役割は異なる。))

「へぇ~、そうなんだね......」

((──地区の調停センターでは、
  裁判官や検事が関与することはない。
  そのため、
  制度として区別して覚える必要もない。))

「なるほどね。
 関わることはないんだね。」

((──市町村や国が関与する案件、
  事件性が高いものでは、
  関与する可能性がある。))

「それなら、
 普通に生きてたら、
 関わらなそうだね、あはは」

一息ついて立ち上がり、
冷蔵庫から飲み物を取り出し、
一口飲んで口の中を潤す。

「この制度がさ、
 ちゃんと機能してるって、
 すごい国だよね。」

((──うん。
  制度が機能していることで、
  犯罪率は年々減少している。))

「それはそうだろうな~......
 相手の要求かな?
 負けた方が負う義務?
 これも、履行しないとヤバいんでしょ? ふふっ」

((──履行されなかった場合、
  区分が変更され、
  犯罪として扱われる。))

「......だよね。」

「うん、
 あんまり関係ないと思うけど、
 制度の理解はできたから、
 よかったかな。ふふっ」

((──そうだね。
  知っておく分には問題ない。))

「だね。
 なんか難しい話してたから、
 お腹空いてきたよね、あっはは」

((──そうかもしれないね。))

そう言って、
ネットスーパーで買っておいた菓子パンを
キッチンから持ってくる。

ソファに座り、
パンを一口かじると、
部屋の空気が少しだけ緩んだ気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...