ゼニスは視界の隅で笑う~争いはバトルで裁かれる、監視社会の現代版コロッセオ~

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第80話:ひより水族館へ

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「とりあえず、どうしようかな?」

((──行きたいところはない?))

「う~ん......」

調停センターの入口近くでどうしようか考えていると、
佐藤さんを始めとした撮影クルーが歩いてきた。

「七瀬さん、動画はご覧いただけましたか?」

「はい、さっき観させてもらいました。
 アイドルのプライベートみたいな感じで編集してくれて、
 ありがとうございます、佐藤さん。」

「七瀬さんに、気に入っていただけたようで光栄です。
 これから、どこか出掛けるご予定でしたか?」

「今日はオフにしようと思いまして......
 出掛けようと思っているんですけど、行く当てがないというか、
 どこ行ったらいいか考えてました。」

「そうだったんですね。
 それなら、水族館などはいかがですか?」

「水族館ですか?」

((ねぇ、ひより市に水族館なんてあったかな?))

((──うん。あるよ。))

((え~っ......わたし知らないな......))

((──抜け落ちた記憶の中では行った事があるかもしれないね。))

((あぁ~、なるほどね。))

佐藤さんが、手持ちのバッグからチケットを手に取って話しを続ける。

「七瀬さんは、『ひより水族館』は行ったことないですか?」

「あっ、う~ん、たぶん行ったことないですかね。ふふっ」

佐藤さんは、チケットを差し出す。

「『ひより水族館』の無料優待券があるので、
 ぜひ、行ってみませんか?」

「あっ、はい、『ひより水族館』行ってみます。
 佐藤さん、ありがとうございます。」

((──良い仕事するね、佐藤は。))

((佐藤さんね。ふふ))

チケットを受け取りバッグにしまい、
携帯用の端末を取り出す。

「じゃ~、タクシー呼ばなきゃだね。」

((──うん。))

佐藤さんの側にいた男性スタッフが駐車場の方へと姿を消す。

「七瀬さん、よければ我々の車に乗っていきませんか?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんです。車内でも撮影ができますし、
 我々にとってもメリットは大きいので、ぜひ。」

((大丈夫かな?))

((──佐藤達に敵意はないと推測できるから、
  送迎の提案を受け入れても良いと思うよ。))

((佐藤さんね。確かに敵意はなさそうだしね。))

((──うん。佐藤は無害確率99%。))

((佐藤さんね。ふふふ))

携帯用の端末をバッグにしまう。

「佐藤さん、お願いします。」

佐藤さんは、ワゴン車のスライドドアを開け、
手で車内を指し示す。

「では、七瀬さんお乗りください。」

「はい。」

運転席の後ろのシートに座る。
上質なレザーシートは手触りもよく、
電動オットマンやサイドテーブルが備わっていた。

((なに、この車、高級車じゃん。))

((──うん。これは、最上級グレードの車だね。))

((こんなの初めてだよね。きっと初めて乗ったと思う。))

((──うん。))

隣のシートには佐藤さんが座り、
助手席にはカメラ担当のスタッフが乗り込む。

「七瀬さん、撮影をしていますが、お気になさらないでくださいね。」

「あっ、はい、撮影してるんですね。ふふっ」

「七瀬さんの日常を撮影するのが、我々の責務ですので。」

「ですよね。」

スライドドアが自動で閉まり、
車は『ひより水族館』へと向けて走り出した。

佐藤さんは、車内の小さな冷蔵庫から、
コーヒーを取り出しドリンクホルダーに置く。

「七瀬さん、良ければお飲みください。」

「あ、ありがとうございます。」

冷えた缶コーヒーを開け一口飲む。

「冷たくて美味しいです。」

佐藤さんも缶コーヒーを一口飲み口を開く。

「七瀬さん、サバイバル・レジスタンス素晴らしい戦いぶりでしたね。」

「なんとか勝てましたけど......」

「七瀬さんの戦いぶりと日常のギャップで、
 サバイバル・レジスタンスは、きっと盛り上がりますよ。」

「そ、そうですかね......」

「これからも、応援していますので頑張ってくださいね。」

「はい、ありがとうございます。」

((なんかインタビューみたいじゃない?))

((──うん。撮影しているから、次の動画用だね。
  インタビュー要素も追加していきたいから、
  送迎の提案をしてきたと推測できるよ。))

((なるほど、考えてるんだね~。))

ワゴン車は、まるで動いていないかと錯覚するほど、
振動もなく静かに走り続けている。

((高級車って、こんなに静かなの?))

((──うん。剛性性能が高く、最先端のサスペンションが装備され、
  快適性能を上げているんだ。))

((へぇ~、すごいね。))

((──うん。))

ふと外に目を向けると、
『ひより水族館』の看板が目に入る。

「もう、着いたのかな?」

「七瀬さん、もう少しで到着しますよ。」

ワゴン車は駐車場に入り停車し、
自動でスライドドアが開く。

「七瀬さん、足元にお気をつけくださいね。」

「はい。」

ワゴン車から降り、周囲を見渡す。

「う~ん、これは初めての風景だと思う。」

駐車場の区画線は真っ白く綺麗で、
タイヤの跡や掠れている部分もない。

『ひより水族館』の建物も新しく見え、
オープンしたばかりのように思えた。

「ここって、できたばっかりなんですか?」

ワゴン車から降りてきた佐藤さんが、
建物を指さしながら口を開く。

「『ひより水族館』は、オープンして2年くらいですね。」

「そうなんですね。」

((ねぇ、2年くらいなの?))

((──うん。正確に言うと1年10か月だよ。))

((そうなんだ。))

((──うん。))

知らない場所へと足を踏み入れた感覚を抱きながら、
『ひより水族館』の入口に向かって歩き始めた。
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