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89 なにも知らずにのうのうと
しおりを挟む自室に戻り、すぐにファーガス兄様にお礼を伝えに向かったのだが、仕事が忙しいようで顔を合わせることが出来なかった。
お忙しい中、露店に顔を出すのも、無理をしてくれたのかもしれない。
夕飯時にお礼を述べようと思っていたのに、ファーガス兄様は食堂に現れなかった。
仕事が立て込んでいるから、食事は自室で取るそうだ。
兄様の仕事の邪魔をしたくない俺は、渋々明日の朝にお礼を告げることにした。
だが、翌朝──。
ファーガス兄様は、一足先に食事を済ませており、またしても会うことが出来なかった。
ガッカリとしながら食事を終えて、今日も露店に向かうことにした。
昼前には既に露店の前に行列が出来ており、俺はファーガス兄様とロバート様の影響力の凄さに、感嘆していた。
「俺の出番はなさそうだぜっ」
「堂々と宣言するようなことではありません」
「…………失礼しました」
侍従に謝罪しない、とリュカに怒られて、俺はムスッとした顔で睨む。
「リュカは俺の侍従だけど、友達だろ?」
「…………」
「違うのかよ。……馬鹿リュカッ!」
試食は必要なさそうだが、念のために準備しようと決めた俺は、無表情で固まっているリュカを置き去りにして歩き出した。
コロッケは順調に売れて行き、今日はおつかいを頼まれたのか、子供の姿もちらほら確認出来た。
「すごく良いにおい。一個だけ食べたら駄目?」
「そんなことしたら怒られるぞっ」
「ええ~」
出来立てのコロッケを購入して、仲良く手を繋いで帰っていく子供を見送る。
ほっこりした気持ちになっているうちに、コロッケは完売していた。
「販売する量を、もう少し増やせませんか?」
「すみません。私の店の準備もあるので、これ以上はなかなか厳しくて……。当分は、露店を出す予定なので、また明日お待ちしております」
「あっ。そうですよねっ! 良心的なお値段で販売してくださっているのに、すみませんでした」
「いえいえ。こちらこそ……」
お客さんに詰め寄られて、うまく躱すバッカスさん。
露店でコロッケが食べられなくなると思ったのか、人集りはすぐに解散していった。
「ああっ! もう終わりですか?」
「はい。本日は完売致しました」
「そんなっ……」
絶望した声に振り返れば、先程コロッケを買いに来てくれた子供二人が、項垂れていた。
きっと家に帰って食べて美味しかったから、また買いに来てくれたのだろう。
そんな風にあたたかく見守っていたのだが、小さい子が泣き出してしまった。
兄らしき子が、深刻な表情をしていることに気付いた。
なにか事情があるのだろうかと、そろりと近付く俺は、弟の頭を撫でる金髪の男の子に声をかけた。
「あのさ。試食が余ってるから、食べる?」
「っ…………いいんですか?」
「うん。でも冷めちゃってるけど」
「ありがとうございますっ!!」
ぺこぺこと頭を下げる子が、ラベンダー色の瞳に涙をためていた。
「よかった、これで怒られなくてすむ……」
「あのなぁ……。お前が頼まれたものを、勝手に食べたせいだろ?」
「だってぇ~……」
コツンと拳骨をされて、小さな子がまた泣き出したので、俺はよしよしと頭を撫でておく。
なんとなく事情を察した俺は、コロッケを袋に入れて二人に手渡した。
もちろん「内緒だぞ?」と、伝えておくことも忘れない。
何度もお礼を告げて、飛ぶように帰って行く二人を見送った俺は、帰りの馬車に乗り込んだ。
「ご機嫌ですね?」
「うん? まあな。あの子たちが、コロッケを食べている姿を想像したら、幸せな気持ちになった」
俺の返答に、なぜか複雑な表情になるジルベルトが、躊躇いながら口を開いた。
「あの子たちは、きっと食べられませんよ」
「え?」
「彼らは、いずれ男娼になる子たちです」
身なりを見てすぐにわかったと断言したジルベルトに、俺は息を呑んだ。
親に売られ、下働きとして低賃金で働かされている子供たちは、親に支払った金と、毎日の生活費が借金として増えていくらしい。
男娼になったとしても、売り上げは借金返済に消えて行き、いつまでも抜け出せないのだという。
運良く抜け出せたとしても、教養がないため他のところでは雇ってもらえず、結局男娼に戻るしかないのだそうだ。
第四王子なのに、俺はこの国のことをなにも知らなかった。
「俺は、王子ってだけで、のうのうと生きてきたんだな……」
「今はファーガス殿下が動いていますが、簡単に解決するような問題ではありません。リオン殿下が気にするようなことでは……」
「明日も買いに来てくれるかな?」
意気消沈している俺をリュカが慰めてくれるのだが、俺はすぐにでも問題を解決したくてうずうずしていた。
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