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リュセ
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しおりを挟む僕の目の前で、絵になる二人が会話をしている。
見目麗しいカップルにも見えるふたりだけど、片方は僕の母様だ。
この国に落ちて来た時に、現場にいたらしいエルヴィス母様。
身元不明の怪しい僕を、すぐに引き取ってくれたそうだ。
僕の両親も命の恩人には違いないのだけど、僕の視界にはシュヴァリエ様しかいなかった。
……誠に申し訳ない。
「ほら、リュセ。話したいことがあるんだろう?」
ナイスアシストをくれたエルヴィス母様。
だけど、僕は緊張でガチガチである。
お美しい碧眼が、すっと僕に向けられた。
……昇天しそうだ。
「あ、あの……。三年前に、助けてくださり、ありがとうございましたっ!」
直角に頭を下げた僕。
お礼を述べているのに、深々と頭を下げる姿は、どうしてか謝罪に慣れていた。
「覚えてくれていたんだな……」
頭上から聞こえて来た美声に、鼓膜が震える。
……ああ、ようやく天使様にお礼を告げることが出来たんだっ。
感極まる僕の目には、じんわりと涙が浮かぶ。
「わ、忘れるはずがありませんっ!」
「…………そうだろうな」
勢いよく顔を上げれば、ふっと笑ったシュヴァリエ様がいた。
間近で笑いかけられて、死んでもいいと思ったのだけど……。
どこか悲しげに笑った気がしたシュヴァリエ様は、僕から視線を逸らしていた。
お礼を告げることができたのだから、満足しないと……。
そう思うのに、もっとお近付きになりたいと願う浅ましい気持ちが、顔を出していた。
シュヴァリエ様が手にしているグラスが、空になりそうなことにいち早く気付いた僕は、体が勝手に動き出す。
そして給仕の人からシャンパンを奪っていた。
「ど、どうぞ……っ」
「…………ああ、ありがとう」
空になったグラスに手を伸ばす。
さりげなく手に触れる僕は、全神経を指先に集中させている。
騎士様だからゴツゴツとした男らしい手だった。
思い出のグラスを、永久保存してしまいたい気持ちを押し殺す。
給仕の人がわざわざ取りに来てくれた姿が視界の端に映ったけど、僕はすっと手を下ろして何事もなかったかのように振る舞う。
そんな僕の肩に手が乗せられて、ビクンと飛び跳ねそうになった。
「本気なんだな?」
そう告げたエルヴィス母様の声は、普段より低くて真剣そのものだった。
「だが、そんな消極的な態度じゃ、彼には伝わらない。二人きりで話して来い。いいか? リュセの気持ちをストレートに伝えるんだ。それから腕を絡めて密着しろ」
「っ、ム」
「無理じゃない。行け」
急に鬼軍曹になった母様に背を押された僕は、不敬にもシュヴァリエ様に抱きついていた。
ふわりと花の香りがして、脳が痺れた。
……嗅いだことのあるような、ないような。
「っ…………リュ、セ」
「も、申し訳ありませんっ!」
戸惑う声が聞こえて、慌てて離れる。
怒られるかもしれないと謝罪したけど、無言のシュヴァリエ様の目尻がほんのりと赤くなっていた。
お酒に酔っているわけじゃない、と思う。
……もしかして、照れている?
いやいや、そんなわけないだろう。
「早く誘え」と、背後にいる司令塔に指示を出される僕は、憧れのお方を見上げた。
「よろしければ、庭園に行きませんか? お話がしたいです……。ふ、ふたりきりでっ!」
ごくりと唾を飲んだのは、エルヴィス母様かシュヴァリエ様のどちらかはわからない。
むしろ、聞き耳を立てていた参加者全員が息を呑んでいたことに気付かない僕は、緊張した面持ちのまま返事を待っていた。
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