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婚約編
20
しおりを挟むシュヴァリエ様と素敵な一夜を共にしてから、早二ヶ月。
僕の中では、間違いなくスパダリであるシュヴァリエ様と、激甘ラブラブライフを送っていた。
今の僕のハッピーな心情を熱く語りたいのに、シュヴァリエ様の誕生日以降、誰一人として僕たちの噂話をしなくなっていた。
……なんでだろう?
不思議に思いつつ、今日はいつもより気合の入っているシュヴァリエ様をお見送りした僕は、急いで自室に戻る。
今日の為だけに用意していた自作の衣装を着て、その場でくるりと回ってみせた。
空色の刺繍が美しい、真っ白なシルク生地のロングワンピース。
男性が牛耳るこの国で、目立つ気満々のエレガントな衣装だ。
「シュヴァリエ様、惚れ直してくれるかな?」
「既にベタ惚れです」
即答した使用人たちが僕を座らせて、髪をセットし、装飾品をどんどんつけていく。
品のある宝石類は、誕生日プレゼントのお返しとして、すべてシュヴァリエ様からもらったものだ。
とにかくセンスがいいし、僕の好みを完全に把握してくれている。
「今日の服装にピッタリだっ! これを機に、ゆったりとした衣装も流行らせたいな~」
「リュセ様が着れば、ボロ雑巾でも流行ります」
「っ、そんなことあるわけないよ……」
肩を竦めた僕は、鏡越しに本気の目をした夜空色の瞳と視線が交わった。
「本当に狩猟大会に行かれるのですか……?」
「もちろんっ」
「ですが……。シュヴァリエ様はきっと、森の主を狩るおつもりです。さすがに生首を披露することはないと思いますが……」
「っ、な、生首……」
想像しただけで吐き気を催したけれど、僕は絶対にシュヴァリエ様の勇姿を見に行くんだ。
それでも、なんだかんだと話し続けるセバスさんは、最近急激に心配性になっている。
「嗚呼、神よ。どうか、リュセ様が目立ちませんように……」
「無理ですね」
「だな」
シュヴァリエ様が参加するのだから、婚約者である僕も足を運んだ方がいいはず。
それなのに、なぜか止めようと必死なんだ。
二ヶ月前から作っていたお守りを手にした僕は、ささっと部屋を出る。
シュヴァリエ様の活躍を祈っているみんなに別れを告げて、馬車に乗り込んだ。
僕に続いて、今日もぬいぐるみのように可愛いベアードさんが乗り込んでくる。
太い腕がしっかりと抱えている小さな箱には、第二騎士団員全員分のお守りが入っているんだ。
実は、狩猟大会に第二騎士団が参加するのは、今回が初めてらしい。
冬の食糧を確保する為に行われる狩猟大会だけど、狩った獲物を恋人に捧げる一大イベントでもあるそうだ。
だから、恋人がいないのに参加しても恥を晒すだけだと、今まで不参加だったそう。
それでも今回は、全員参加するみたいだ。
「みんなにも頑張ってほしいな」
「そうですね。彼らならきっと上位に入ると思います。ただ、私はシュヴァリエ様が心配です」
「っ、どうして? 大物を狙っているから?」
「……いえ。リュセ様の伴侶になるからです。今も快く思っていない者もいるはず。狩りを妨害される可能性もあるでしょう。でもまあ、シュヴァリエ様なら大丈夫だと思いますよ?」
以前絡んできたと話していた、第一騎士団の人たちのことを思い出す。
シュヴァリエ様は凄腕だから大丈夫だと思うけど、急に不安になってきた……。
そわそわしながら会場となる森に着くと、テントがたくさん張られていた。
狩りの最中は、僕は貴族の方々とお茶をして待つことになっている。
ちょっと緊張するけど、楽しみでもある。
ベアードさんのもちもちとした手を借りて、僕は馬車から降りた。
ひんやりとした秋風が心地よい。
ライトニング公爵家のテントの方へ歩き出すと、準備運動をしている人々が動きを止める。
やる気満々の人たちに、僕はにこっと微笑んでエールを送った。
でも優勝するのは、シュヴァリエ様だけどね!
ロングドレスを靡かせて歩く僕に釘付けになっている人々が、皆一様に女神が降臨したと思っていることを知らない僕は、やけに静かだなあと思いながら、シュヴァリエ様のもとへ向かっていた。
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