94 / 100
婚姻後
21
しおりを挟む華やかに飾られたライトニング公爵邸の大ホールでは、女神の登場を今か今かと待つ多くの貴族で賑わっていた。
本日は、次男セナ様のお披露目会なのだが、皆の目的は何年と経ってもリュセ様だ。
異世界人の血を引き、麗しい容姿のシオン様ももちろん注目されている。
だが、美貌や人柄だけでなく、異世界の知識を駆使して新たな物を生み出せるのはリュセ様だけだ。
皆がこぞって我が物にしたいと願う、特別な存在なんだ。
そんな我が国の宝であるリュセ様の護衛を任された俺──ヴィクター・リッチ。
名前の通り、今回の大役を勝ち取っていた。
「お待たせっ」
「っ……」
淡い水色のスレンダードレスを身に纏うリュセ様が現れて、待機していた俺は息を呑む。
ふわふわとした優しい印象を与える衣装は、リュセ様の愛らしさを倍増させていた。
思わず触れたくなるようなシフォン生地で、リュセ様が歩くだけで目を奪われる。
本日初披露となるエレガンスなお姿を、一足先に見ることができた俺は、目の前の黒髪の天使に見惚れていた。
「今日の主役はセナだけど、僕の護衛を引き受けてくれてありがとう。ヴィクターくんが志願してくれたって聞いたよ?」
「っ……い、いえ、その、光栄です。必ずお守りいたします」
ビシッとカッコつけてみたものの、上目遣いではにかんだリュセ様の愛らしさに、俺は顔が熱くなるのを止められなかった。
ちなみに身長差ゆえのことなので、リュセ様が俺に色目を使っているわけではない。
「っ、とても素敵ですっ」
「ありがとうっ! ヴィクターくんのお眼鏡にかなったなら、きっと大ヒット間違いなしだ!」
嬉しそうに小さく弾んだリュセ様は、新作衣装を褒められたと勘違いをしているが、そんなところも可愛いんだ。
「ヴィクターくんも、今日は一段とキマってるね? セナのためにありがとう」
「っ、いや、俺は、その……はい……」
「母性本能をくすぐるような可愛らしい内面なのに、ワイルド系の顔立ちだなんて、狡いギャップがたまらない王子様だよっ!」
……なにやら早口すぎてよくわからなかったが、褒められたのだと、思う。
(可愛すぎる笑顔にときめく俺は、黒い瞳に吸い込まれそうだっ!)
「くれぐれも、私がいることを忘れるなよ」
「ヒッ!」
リュセ様に聞こえないように配慮しつつ、ドスの効いた声で脅してくる団長。
元々リュセ様を大切にしていた団長だが、半年程前からその勢いが加速し、立場を弁えている俺たちも驚くほどの溺愛っぷりだ。
なぜか昔から妖精族ではなく、ブサイクな俺たちを警戒している。
確かに俺たちはリュセ様と接触する機会は多いため、心配する気持ちもわからないわけではない。
だが、団長にも止められない理由がある。
毎年秋に行われる狩猟大会において、上位十名に入賞した者は、国の保護対象となっている異世界人の護衛の任に就くことができるのだ。
俺たちが毎年狩猟大会に参加し、熾烈な争いを繰り広げている事を知らないのは、リュセ様おひとりだけだ。
先を歩いていたリュセ様が、振り返る。
いくつになっても、なんて愛らしいお方なのだと惚れ惚れしてしまう。
そして、ぼんやりとしていた俺の背後に回った。
(まるで空を自由に羽ばたく妖精のようだ……)
「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫っ! リラックスリラックス!」
「ふぁいッ!!」
背後から肩を揉まれてしまった俺は、歓喜のあまり膝の力が抜けてしまう。
(リュセ様を狙う野郎共を始末する前に、俺が天に召されそうだっ!)
護衛対象に瞬殺されてしまった俺だが、己の使命は全うするつもりだ。
「ありがとうございます……リュセ様……」
「ふふっ。それは僕の台詞だよ?」
笑顔で首を傾げるリュセ様は、いつも俺たちなんかにも感謝の言葉を忘れない。
……俺のオアシスだ。
本来、夫ではない俺たちが、リュセ様と名を呼ぶことはできない。
だが、今も昔も変わらず親しい友人として接してくださっているんだ。
「それじゃあ、行こうか」
「はいっ」
女神を狙う無礼者共を近付かせないために、俺は気合いを入れた。
仲睦まじい二人が会場に足を踏み入れると、容姿に自信のある若者たちが、案の定リュセ様に目が釘付けになる。
……会場内には、けしからん野郎共しかいなかった。
212
あなたにおすすめの小説
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました
水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。
彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。
ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。
李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。
運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。
だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。
過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。
東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる