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しおりを挟む事件から一か月が経過したが、今日も部屋の前で言い争う声が聞こえる。
ミゲルが毎日のように、フラヴィオを助け出そうとしてくれているのだ。
「兄様は悪くないんですっ! 早く兄様に会わせてくださいっ!」
「ミゲル……。フラヴィオを庇わなくたっていいんだぞ? 悪いことをしたら、反省しなければならないんだ」
父親らしく、ビシッと告げた低い声。
どの口が言うんだと、フラヴィオははらわたが煮えくり返っていた――。
レオーネ伯爵家に来るまで、ミゲルは父親が妻子持ちだったことを知らなかった。
なにせフィリッポは、毎日ミゲルの住む家で生活していたのだ。
ほとんどの時間を家族三人で過ごしていたため、父親が他に家庭を持っているだなんて思いもしなかったのだろう。
(ミゲルは被害者だ……)
「フローラの育て方が悪かったんだ……。全てあの女の責任だ。苦労をかけてすまないな、ミランダ」
「きっとフラヴィオは、私のことが気に食わないんだわ? だから、私の愛するミゲルを標的にしたのよっ。私が罵声を浴びせられるのはいいけど、ミゲルだけは守りたいのっ」
さも、普段から罵声を浴びせられているとばかりに語った涙声に、フラヴィオは虫唾が走る。
「ああ、わかっている。お前たちのことは、私が必ず守るから安心していい」
「さすがフィリね、頼りにしてるわ」
母親を亡くしたフラヴィオに寄り添うどころか、前妻に似て可愛げがないと嫌悪する父親。
ほとんど会話をしたことがないのに、フラヴィオに嫌われていると、夫の同情を誘う後妻。
(大好きな両親の醜い面を知ったミゲルは、今どんな気持ちなんだろう……)
急にミゲルの声が聞こえなくなり、フラヴィオは落ち着かなくなる。
「兄様は、マルティン様たちからいじめられていた僕を、守ってくれただけなんですっ!!!!」
碌に話を聞いていなかったふたりが沈黙する。
今すぐ飛び出していきたいのだが、体が思うように動かないフラヴィオは、寝台に横たわったまま扉に視線を向けることしか出来なかった。
(ミゲルには、真実は話してはいけないと手紙で伝えていたが……。まだ十二だ。無理もないか)
どうしてもフラヴィオを助けたいミゲルは、全てを洗いざらい話してしまったのだ。
(非常にまずい状況だ……。私のせいで、トレント侯爵家と揉めてしまう)
頭を抱えたくなるフラヴィオだったが、そんな心配は杞憂に終わる。
「ま、まさか、フラヴィオからの報復を恐れて、そんな嘘を……?」
フィリッポのとんでもない発言に、フラヴィオは開いた口が塞がらなかった。
「っ、嘘をついてはいけないわ? ミゲルは今までとってもいい子だったのに……。フラヴィオの影響ね?!」
「あ、ああ、そうに違いない。ミゲル、フラヴィオと関わるのはやめなさい」
「っ……なんでそうなるんですか!? 僕は兄様が大好きなのにっ!!」
ミゲルの悲痛な叫び声が聞こえたものの、その後は同じ会話の繰り返しだった。
ふたりはミゲルの願いを聞くどころか、フラヴィオを悪に仕立て上げた。
なにせ、ふたりはすでにフラヴィオを部屋に軟禁し、食事も粗末なスープのみを与えている。
自分が間違っていたと認められないフィリッポは、ミゲルはフラヴィオからの報復を恐れ、マルティンたちを悪者にしようとしているのだと都合の良いように解釈する。
そしてミランダもまた、フラヴィオがミゲルを守っただなんて信じたくないのだろう。
それに、フラヴィオが悪の方が、ミゲルを当主にしたいであろうミランダにとっては都合がいい。
(自分のことしか考えていない二人で、ある意味よかったのかもな……?)
自嘲気味に笑ったフラヴィオは、問題が解決したことに安堵し、静かに目を伏せる。
瞼の裏に熱いものが込み上げてきたが、きっと気のせいだ――。
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