期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 突如として大股で部屋に侵入して来た人物が、すうっと息を吸い込んだ。

「フラヴィオ・レオーネ!! 隠れていないで出ていらっしゃいっ!! この泥棒猫ッ!!」

 綺麗に縦ロールされたピンク色の髪が揺れ、野太い声が部屋に響く。
 朝食を食べようとしていたフラヴィオは、スプーンにすくっていたすりおろした林檎を、ぽとりと皿に落としていた――。

 キリッとした太い眉毛を吊り上げ、激昂している成人男性と、バッチリと目が合う。
 『許さないわよッ!』と、ぷりぷりと怒っている青年が、なぜかフラヴィオの前を素通りした。

 その直後、面倒臭そうに部屋に入って来たマルティンが、フラヴィオにバツの悪そうな顔を見せる。
 その表情を見て、なんとなく予想がついたフラヴィオは、内心げんなりしていた。

(やはり納得していないんじゃないか……)

「マルティンッ!!!! 泥棒猫をどこに隠したの!?」

「……はあ??」

「はあ? じゃないのよッ!! 愛人を作ることにも反対なのに、ましてや私と婚姻する前に愛人とイチャつくなんてッ!! 許さないんだからッ!!」

 どうやら、マルティンの婚約者が乗り込んできたようだ。
 ただ、口調がどこか女性らしく、そのギャップにフラヴィオは驚いていた。
 だがフラヴィオは、直様気持ちを切り替える。
 座ったままでは失礼だと立ち上がったが、フラヴィオを横目で見た青年に手で制された。

「チッ。この部屋じゃなかったみたいね? 邪魔したわ。行くわよッ!! ……フラヴィオ・レオーネッ!! どこにいるのッ!! 三秒以内に出て来ないと、ただじゃおかないわよッ!!」

 どんどん声が小さくなっていき、フラヴィオは唖然とする。

 それから数分後。
 直立不動のまま待っていたフラヴィオのもとへ、マルティンの婚約者が戻って来た。
 大きな目を細め、怪訝な表情を向けられる。

「一応、確認するわ。……あなたが、フラヴィオ・レオーネなの?」

 黄金色の瞳は、フラヴィオを上から下まで値踏みするように見ていた。
 ようやく声をかけられたフラヴィオは、不躾な視線を気にすることなく口を開く。

「お初にお目にかかります。レオーネ伯爵家嫡男、フラヴィオと申します。以後お見知り置きを」

 プライベートの場でありながら、正式な礼をしたフラヴィオに、ふたりが息を呑んだ。
 侯爵子息の婚約者であるなら、彼は間違いなくフラヴィオより格上だろう。
 それに口調は少し変わっているが、彼が身に纏うオーラが、他の者と全く違う。
 微笑を浮かべるフラヴィオは、彼が高貴な身分のお方だと瞬時に見抜いていた。

「っ、どういうことなの……」

 そう漏らしたフラヴィオより歳上であろう男性が、ぼけっとしているマルティンに詰め寄った。
 胸倉を掴まれて揺さぶられるマルティンだが、フラヴィオに熱い視線を送り続けている。

「信じられないッ!!!!」

 フラヴィオはマルティンよりも大柄だと噂されていたのだから、当然の反応である。
 どう証明しようかと考えるフラヴィオの耳に、予想外の言葉が届く。

「私より、格段に美人じゃないのッ!!」

 呆気に取られるフラヴィオは、その場で立ち尽くす。
 面と向かって美人だと言われたことにも驚いたのだが、本物のフラヴィオだと信じてくれている様子だったからだ。

「だ、だからずっと言ってただろ。お前よりフラヴィオの方が可愛いってわかったんだから、俺の愛人として認めてくれるよな?」

「ぐっ……」

 へなへなとその場で座り込んだ婚約者を見下ろし、なぜか勝ち誇った顔をしているマルティン。
 なにやら条件を提示していたようだが、フラヴィオはマルティンを一瞥し、呆然としている男性の前で膝を折った。

「どんなことがあろうとも、私は愛人になるつもりはありません。貴方様の婚約者に対して、特別な感情を抱いてはおりませんので、ご安心を」

「っ……」

 優しく微笑みかけると、ごつごつとした手がラヴィオの差し出した手と重なった。
 そして目を瞬かせていた男性が、ハッとした様子でフラヴィオの手を撫で回す。

「信じられないッ!!!!」

「…………あの、本心で――」

「こんなにほっそりとしているのに、今まで一体なにしてたのよッ!!」













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