期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
33 / 129

32

しおりを挟む


 同じ敷地内にある療養所に向かい、フラヴィオの祖父――フェリックスがいる部屋に案内される。
 だが、個室の前には神殿騎士が立っており、祖父の無事を確認する前に、フラヴィオだけが止められてしまった。

(孫であることを証明しなければならないのか。だが、一体どうやって……)

 今のフラヴィオは、メイドの格好をしている。
 悪評もあり、誰もフラヴィオだとはわからないだろう。

「患者本人の許可がなければ、家族であっても面会することはできません。それに、先程薬で眠ったところなのです。日を改めていただきたく――」

 詳しい規則を説明する声が、遠くに聞こえる。
 次に神殿に来られる時は、いつかはわからない。
 それに、フラヴィオ自身も病を癒してもらうことになっている。

(もしそのまま療養することになれば、お祖父様に会える機会はいつになるかわからない……)

 その間になにかあったらと不安になるが、凛とした声がフラヴィオの不安を一瞬で掻き消した。
 
「顔だけでも見せてやりたい。責任は私が取る」

 ぱっと顔を上げたフラヴィオは、隣に立つ親切な大男の横顔を見つめる。

「……今日は話せはしないが、それでもいいか」

「っ、はいッ!! ありがとうございますッ。本当に……っ、ありがとうございますっ」

 何度も感謝の言葉を告げるフラヴィオの瞳に、ぶわっと涙が溢れる。
 ぼやけた視界にハンカチが見えて、それを有り難く受け取ったフラヴィオは、目元を拭った。

「お見苦しいところを……」

 謝罪しようとしたフラヴィオだが、なぜか神殿騎士だけでなく、アキレスまでもが驚いたように固まっていた。
 ふたりの視線の先は、フラヴィオではない。

「行くぞ」

「っ、はいっ」

 感極まっているフラヴィオは、真っ白な扉を開いた男の太い腕にぎゅっとしがみついていた。

 白で統一された室内では、フェリックスが寝台に横になっていた。
 自慢の金髪は白くなっており、フラヴィオの目には随分と老けて見えていた。
 直ぐにでも飛びつきたい気持ちを堪えるフラヴィオは、手に力が入る。
 慌てて力を抜こうとしたが、頼もしい太い腕はびくともしなかった。

「お祖……、いえ、フェリックス様の病は、治るのでしょうか?」

「はい。しかし、前サヴィーニ子爵の場合は、心労によるものが大きいかと」

 いつのまにか後方に立っていた神官が、フラヴィオの問いに答える。

「心労……。どれくらい休めば……」

「そうですね、原因となるストレスを取り除かない限りは……。症状は半年程前から現れていたようですが、我慢しておられたようです。前サヴィーニ子爵夫人が亡くなられたことも、関係しているのかもしれません」

「っ…………今、なんと?」

(フレイアお祖母様が、天に……召された……? そんな話、誰からも聞いていないっ)

 なんとか冷静になるよう心がけていたフラヴィオの頭の中が、真っ白になった。

「……二年程前のことですが」

 親戚なのに知らないのかと、怪しげな視線を送られてしまう。

(なにか、言わないと……。私が不審者だと思われてしまえば、彼に迷惑がかかってしまう)

 祖父に会わせてくれた恩人は、放心状態のフラヴィオの体を支えてくれていた。

 ぷつんと会話が途切れる。
 今まで何度もピンチを乗り切ってきたフラヴィオだが、なかなか言葉が見つからなかった――。

「私も、大切な人たちを、何度も見送ってきた」

 低い声が、場の空気を変える。
 彼の一言で、全員の視線がフラヴィオの隣に集まっていた。
 フラヴィオを慰めるつもりで話したわけではないのだろう。
 そのことに、フラヴィオだけが気付いていた。

「今は辛いだろう。少し休め」

 部屋を用意するように指示を出された神官は、目を瞬かせていたものの、了承したと頷く。
 すると、フラフラしていたフラヴィオを見かねた様子のアキレスが、そっと手を差し出す。

「私が連れて行きます。……触れても、よろしいですか?」

「えっと、はい……」

 にこりと優しげな笑みを浮かべたアキレス。
 目を見張るほどの美形なのだが、手に触れるだけでわざわざ確認を取るだなんて、とても紳士な人だとフラヴィオは思った。

「私が連れていく。お前は仕事に戻っていい」

 フラヴィオが手を取る前に、待ったがかかる。
 高速で瞬きをするアキレスをよそに、「……いいか?」と甘い声で聞かれたフラヴィオは、即座に頷いていた。
















しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...