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しおりを挟む翌朝。
クレメントとお揃いの衣装が用意されていた。
準備が良すぎる気もしたが、さすがは天下のジラルディ公爵である、とフラヴィオは思った。
(いつもより、引き締まって見えるな……)
早速着替えを終えたフラヴィオは、全身黒尽くめで鏡の前に立つ。
髪色と同じ金糸の刺繍が、とても華やかだ。
「……黒が、一番似合うな」
背後から聞こえた低い声は、フラヴィオの耳にはどこか嬉しそうに響いた気がした。
鏡越しに、ふたりの視線が交わる。
「クレム様の方が、似合っていますよ?」
「……見慣れているだけじゃないか? 私は、ヴィオの方が似合っていると思う」
ひとつ頷いたクレメントだが、顔が真っ赤だ。
つられて照れてしまうフラヴィオも、じわじわと顔が熱くなる。
互いに黒が似合うと言い合うふたりは、世に言うバカップルにしか見えなかった――。
「むしろ何色でも……いや、ヴィオの美しさを一番引き出している色は、やはり黒だな」
「っ……う、美しさ? それを言うなら、クレム様ではないですか? 風格があります。クレム様は、男前ですし……」
「…………ッ!?」
ぽろりとこぼした本音を聞き逃さなかったクレメントは、腰を抜かしそうになっていた。
(クレム様は、お世辞もうまいのか……。まあ、私は本心だけどな?)
恥ずかしくて俯いていたフラヴィオは、ぶったまげているクレメントの腕に手を添える。
(今日は一段と、腕の筋肉の動きが活発だ。なんと素晴らしい……。クレム様は、非力な私とは違って完璧だ)
互いに、自身の伴侶は誰よりも魅力的だと思っているふたりは、普段より密着して部屋を出ていた――。
お揃いの衣装で現れた公爵夫夫が、家臣たちと合流する。
「お待たせしました」
「「「っ……」」」
随分と待たされていたのだが、皆はフラヴィオの姿に目を奪われていた――。
特に神殿騎士としてフラヴィオを守っていた者たちは、いつもとは違い、魅惑的な雰囲気を漂わせているフラヴィオに息を呑む。
普段は妖精のように愛らしいフラヴィオが、今は情欲をそそる美人である。
真っ白な病衣姿の印象が強かったこともあり、黒を纏うフラヴィオは別人に見えていた。
知性と色気を兼ね備えているフラヴィオは、まだ十七とは思えないと、皆が惚れ惚れとしていたのだが……。
「っ、オイ! あの締まりのない顔を見ろ」
「「「っ、」」」
次は公爵家当主に視線が集まる。
厳格な主人が、だらしない顔で後妻に見惚れているのだ。
今まではデカい図体で、チラチラと盗み見ていたというのに、もう隠すこともしていない。
誰の目から見ても、ゾッコンだった。
「おふたりが、ついに身も心もひとつにっ!?」
感極まるピエールが、両手を絡ませる。
濃い紫色の瞳を潤ませながら告げた、その衝撃的な言葉は、ミゲルの耳にも届いていた――。
「きっと違いますね。もしそうならば、今頃フラヴィオ様は立っていられないかと」
淡々と告げたアキレスに、皆はどこか残念そうに同意する。
「フラヴィオ様はともかく……。閣下も純情すぎないか!?」
ガックリと項垂れるピエールの発言に、どっと笑いが巻き起こる。
だが、ミゲルだけは顔面蒼白だった。
なにせ、皆がフラヴィオに見惚れていたというのに、愛する兄だけはどう見ても凶悪な顔面の大男に魅了されているのだ。
長年一緒にいただけあって、フラヴィオがクレメントに惹かれていることに、ミゲルは薄々気付いてしまっていた。
ふたりが親密にならないようにと努力した結果、逆にふたりの距離が縮まっていたのだ――。
誰が相手であっても不満を抱いていたであろうミゲルだが、なぜよりにもよって戦場の鬼神なのか。
麗しい容姿の兄には不釣り合いだと、ミゲルはどうしても納得できなかった。
どこか初々しい雰囲気のふたりは、皆から生暖かい目を向けられている。
ミゲルが不満を募らせていると、この世で最も美しい翡翠色の瞳と目が合う。
(ミゲル、感謝しているよ)
念願の想い人の色を身に纏い、上機嫌だったフラヴィオは、呆然とするミゲルに向けて、人生初のウィンクをかましていた――。
「兄様を幸せにできるのは、僕なのに……」
「ヴィオの相手が、私では不満か?」
「っ、」
気配なく背後に立っていたクレメントの地を這うような声に、ミゲルは肌が粟立つ。
それでも憎悪を隠しきれないミゲルは、憎き恋敵を睨みつけていた。
「僕は、ずっと兄様だけを想ってきたのです……」
あなたとは違って――。
そう言いたげな顔をするミゲルを、クレメントは無言で見下ろす。
そして、皆に囲まれているフラヴィオへと熱い視線を向けた。
愛するフラヴィオに、前妻との秘密を打ち明ける決意をしたクレメントは、最愛の人に嫌われる覚悟を決めていた――。
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