期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
86 / 129

84 ミゲル

しおりを挟む


 ジラルディ公爵邸に到着した瞬間、ミゲルは馬車から飛び降りていた。
 息苦しい空間に、耐えきれなかったのだ。

 馬車にはミゲルの他に、三名が乗っていた。
 表向きは、ジラルディ公爵夫人の弟ということで、護衛をつけているようにみえるだろう。
 だが、実際には監視されているのだ。
 フラヴィオと離れて、幾分か冷静になったミゲルは、自分の置かれている状況をようやく理解することとなっていた――。

 ミゲルが助かる道は、ただひとつ。

 最愛の兄のもとへ走れば、フラヴィオは公爵閣下に抱き上げられていた。

「あ、あの、クレム様ッ!?」

 おかえりなさいませ、と笑顔で出迎えていた使用人たちだが、今は主人を見上げて固まっている。
 そして突然抱き上げられた様子のフラヴィオもまた、彼らと同じく驚いていた。

「兄様ッ!!」

 いくら夫であっても、フラヴィオに触れてほしくないと思うミゲルは、たまらず叫ぶ。

 ミゲルがフラヴィオに近付こうとしていたが、公爵家の人間によって阻まれる。
 ミゲルは、ぶるっと背筋に寒気が走った。
 使用人であっても、ミゲルより格上の戦闘能力を持ち合わせていることを肌で感じ取る。
 皆の目が、ミゲルを歓迎していないことは明らかだった。

 それでもミゲルは足掻く。
 自分のために――。

「ぼ、僕はこれから、どうしたら……」

 ミゲルを危険人物と判断しているであろう使用人たちからの圧で、ミゲルの声は勝手に震えていた。
 そのおかげもあって、フラヴィオがミゲルを気にかけてくれたのだから、僥倖だった。

「っ、ミゲル……」

「父様はきっと、母様と離縁すると思います。僕は、不貞を働いた母親の息子です。父様はきっと、僕のことも恨むはず……。僕は、ひとりぼっちになってしまう……」

 使用人たちに拘束されるよう、わざと前に出続けたミゲルは、くしゃりと顔を歪めた。
 フラヴィオは、ミゲルを見捨てることなどないと確信しているからこその行為だ。

「安心しろ。部屋を用意してやる」

「っ、」

 フラヴィオが頼む前に、公爵閣下が答える。
 さっと背を向けた公爵閣下は、誰の目から見ても明らかに不機嫌だった。

「待ってくださいッ!! 兄様ッ!!」

 公爵夫人の座に収まったフラヴィオから、『ずっとそばにいて良い』と、言質を取らなければならないミゲルは、必死である。

 なにせその言葉がなければ、ミゲルはフラヴィオと共にはいられないのだ。
 いくら妻が浮気をしたからといって、フィリッポはやりすぎている。
 妻に焼印を押したとなれば、今後は後ろ指を指されることになるだろう。

 それに、拘束されたミランダはともかく、フィリッポはまだ行方不明。
 領民に追いかけ回されている父親を見捨てたミゲルは、確実に恨まれているはずだ。

(ずっと可愛がられていたけど、母様が不貞を働いた今。僕も憎悪の対象となる可能性が高い……)

 今のフィリッポに力を貸す人間がいるとは思えないが、激昂するとなにをしでかすかわからない。
 よってミゲルは、ジラルディ公爵の庇護下に置いてもらわなければならなかった。
 そうすれば、ミゲルは愛する兄とも永遠に一緒にいられる。
 一石二鳥だと考えていたのだ。

「閣下っ!! お待ちくださいっ!! フラヴィオ様が、弟君を気にかけておられますっ!!」

 狡猾なミランダに似たミゲルを、援護する者が現れる。
 大きな空色の瞳の青年が、子鹿のように震えながらも、公爵閣下の前に立ち塞がったのだ。
 青年の行為には、ミゲル自身も驚いていた。
 見ず知らずの者だが、たったひとり声を上げてくれた青年に、ミゲルは感謝していた。

「お願いします! フラヴィオ様のためにも、話だけでも――」

 小柄な青年が、フラヴィオに手を伸ばした瞬間。
 ただならぬ殺気が放たれた。

「私のヴィオに触れるな」

 唸るように吐き出された声は、よく通った。
 ぱたり、ぱたりと、遠巻きに見ていた使用人が数名気絶する。
 主人に楯突いたことで、腰を抜かしてガタガタと震えている小柄な青年を可哀想にも思うが、屈強な男ふたりに両脇を抱えられていたミゲルですら、立っているのがやっとだった――。

 辺りが静寂に包まれ、緊張が走る。

 殺人鬼のような目をする戦場の鬼神を前にし、ミゲルは呼吸もままならない。
 あのアキレスですら、沈黙している。
 誰も声を発することができなかったのだが、殺伐とした空気を打ち破った者がいた。


「……私の……ヴィオ……?」


 どこか信じられないような、だがうっとりとした小さな声が響いていた。













しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~

キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。 あらすじ 勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。 それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。 「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」 「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」 無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。 『辞めます』 エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。 不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。 一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。 これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。 【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】 ※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。 ※糖度低め/精神的充足度高め ※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。 全8話。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...