期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

文字の大きさ
108 / 129

106 それぞれの選択

しおりを挟む


 あっという間に季節は巡り、ミゲルが無事に学園を卒業した。
 その後に開かれた盛大なパーティーに、フラヴィオは夫と共に出席していた。
 異母弟の晴れの舞台である。
 主役はミゲルのため、盛装してはいないのだが、夫に溺愛され、ますます美しさに磨きがかかるフラヴィオは、なにもせずとも注目を集めていた。

 自身が人目を引く美貌の持ち主だということを、少しは理解することとなっているフラヴィオだが、今注目されているのは己の容姿のせいではないと思っている。
 なにせ、現在フラヴィオの左腕には、真っ赤なドレスを身に纏う、第五王子殿下がぶらさがっているのだ。

「気安くヴィオに触れるなと、何度言ったらわかるんだ」

「本当、独占欲強いんだからっ。フラヴィオも、嫌なら嫌って言った方がいいわよ?」

 ふんっと顎を突き出すシャール殿下は、なんだかんだで師であるクレメントのことが大好きである。
 かまってほしくてダシにされているわけだが、フラヴィオは笑顔で見守っている。

「フラヴィオの言うことはきちんと聞くからねぇ。パパもビックリっ!」

「ふふっ。陛下も、閣下よりフラヴィオ様とお会いしたいと仰っていらっしゃいました。閣下には内緒ですよ?」

 アキレスに耳打ちされたが、「私も同じ気持ちよッ!!」と、シャール殿下が声を大にする。
 クレメントが軽く舌打ちをしたのだが、シャール殿下にとっては、クレメントが反応するだけで嬉しいようだ。

 シャール殿下はアキレスと親友のため、度々ジラルディ公爵邸に遊びに来ている。
 クレメントは鬱陶しいとばかりの対応だったが、フラヴィオの一言で今では仲良く稽古をしていた。
 そしてもうひとり、その輪に加わる者がいる。

「フラヴィオ……」

 眩しいものでも見るかのように、マルティンがすっと目を細くする。
 親友の碧眼には、今も熱が宿っているが、フラヴィオは気付かないふりをする。

「久しぶり、マルティン。……といっても、一週間ぶりだけど」

 そう言ってフラヴィオが微笑めば、マルティンも相好を崩した。
 分厚い手紙を貰い、マルティンの謹慎が解けて以降、フラヴィオに何度も謝罪に来ていた。
 正直なところ、片想いをしていた相手の妻になれた幸せでいっぱいだったフラヴィオは、マルティンのやらかしをすっかりと忘れていたのだ。
 フラヴィオと和解して大喜びだったマルティンには、内緒である。

 その後はアキレスに稽古をつけてほしいと頼みに来ており、フラヴィオともよく顔を合わせている。
 本当ならクレメントに指導してもらいたいようだが、マルティンだけは秒殺される。
 少し大人げない一面を見せるクレメントだが、フラヴィオにとってはそんなところも愛おしいのだ。

「さっさと連れて行け」

「っ、はい!」

 クレメントに睨まれたマルティンが、慌ててフラヴィオからシャール殿下を引き剥がす。
 婚約者に対して雑な対応をするマルティンに、シャール殿下がガミガミと怒っている。
 毎度言い合いをしているふたりだが、なんだかんだで仲が良いのだ。

「……じゃあ、またな。フラヴィオ」

「ああ、また」

 フラヴィオが笑顔で片手を上げれば、マルティンの表情が華やいだ。
 友人ふたりが、いつかクレメントとフラヴィオのように心から結ばれたらいいな、と思うフラヴィオは、笑顔でふたりを見送った。

 そんなフラヴィオを見つめる周囲の人々も、マルティンと同じようにうっとりとしている。
 フラヴィオの内面から滲み出る美しさは、関わる全ての人を魅了する。
 今や、ディーオ王国でフラヴィオを知らない者などいなかった――。


 
 一方、会場の隅では、ひとりでいるところを、早く最愛の兄に発見してもらいたく、うずうずしている男がいた。
 学園に復帰後のミゲルの環境は、ガラリと変わっていた。
 学園では剣術の腕もあり、下位貴族の中心人物だったミゲルだが、腫れ物扱いをされている。
 ジラルディ公爵家から睨まれたくない者たちは、誰もミゲルとは口を利かなかった。

 しかし、取り巻きがひとり残らずいなくなろうとも、ミゲルは特段気にしていなかった――。

 ミゲルの世界の中心は、愛する異母兄なのだ。
 取り巻きのことは、誰ひとりとして最初から友人だと思っていない。
 鬱陶しいとすら思っていたため、清々している部分もあった。
 それにミゲルが虐められているとわかれば、フラヴィオは必ず昔のように助けてくれるはずだ。
 顔に小さな傷を作った時に、心配してくれた優しく心の清らかな兄を思い出すミゲルは、むしろクラスメイトたちから殴ってほしいとすら思っていた。


 両親とは絶縁することを決めているミゲルは、ひとりぼっちの可哀想な自分に酔っている、図太い神経の持ち主だった――。


















しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...