期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 涙が出そうなほど感動しているクレメントが凄まじい速度で邸内を疾走し、寝室の扉を蹴破る。
 そして、戸惑うフラヴィオの口を塞ぎ、心置きなく愛でていた――。





 濃厚な一夜を過ごしたフラヴィオは、逞しい腕を枕にして目を覚ます。

「おはよう」

 甘い声がフラヴィオの耳を擽り、漆黒色の瞳と視線が交わる。
 寝顔をじっと見られていたことに気付き、照れるフラヴィオは無言で硬い胸に顔を隠していた。
 くつくつと小さく笑うクレメントの声は、酷くご機嫌だった。

(今日こそは、自分のことは自分でしようと思っていたというのに……。またしても熟睡していたな)

 ふたりが愛し合う時は、フラヴィオは必ずと言っていいほど先に寝てしまう。
 そしてフラヴィオが目覚めると、身は清められており、クレメントが腕枕をしてくれている。
 とても嬉しいのだが、フラヴィオは申し訳ないと思っていたのだ。

 だからこそ体力をつけていたのだが、やはり昨晩も先に寝てしまっていた。
 それもこれも、全てはクレメントが本気を出したからである。
 いつもは手加減されていたことを知ることになったが、フラヴィオは幸せいっぱいだった。

(なぜ、クレム様が暴走したのかはわからないが……。野獣化するクレム様も、素敵だった……)

 フラヴィオがうっとりとしていると、大きな手に顎を掬われる。

「ヴィオの要望通りだったか?」

「っ……」

 なにやら勘違いをしているクレメントが、片方の口角を上げ、雄々しい表情を見せてくる。
 もっと愛してほしいと、フラヴィオが強請ったと思っているのだろう。

(そんな破廉恥なことを、私が口にするはずがないというのに……)

 顔中にキスの雨を浴びるフラヴィオは、否定することをやめた。

(大好きな人に深く愛されるのなら、勘違いをされていても構わない……)

 蕩けた瞳になるフラヴィオは、最愛の夫を見つめて控えめに頷いていた――。





 そして夕刻。
 ジラルディ公爵邸の庭園では、鬼ごっこ大会が開催されていた――。
 鬼を務めるのは、『戦場の鬼神』という通り名を持つ大男である。
 その名の通り、本物の鬼に追いかけられる三百名の家臣たちは、死ぬ気で逃げ惑う。
 しかし、十分も保たなかった。
 
「くっ。フラヴィオ様っ! 逃げてくださいっ!」

 大男に背を踏まれるピエールが、最後のひとりとなったフラヴィオに向かって叫ぶ。

「お早く……っ!! ぐえっ」

 蛙が踏み潰されたような声を発し、ピエールが力尽きる。

(っ……つ、捕まえ方が、過激だ。鬼ごっことは、こんなに恐ろしい競技だったのかっ!?)

 にたりと笑うクレメントが、ゆっくりとフラヴィオのもとへ向かって来る。
 青い花畑を駆けるフラヴィオの心拍数は、とんでもないことになっている。

(想像していた鬼ごっこと、全然違うっ!)

 一番足の遅いフラヴィオを、じわじわと追い詰めるクレメントを止める者は、誰もいなかった――。

「あっ!」

 フラヴィオが段差に躓くと、倒れる前に太い腕が伸びてくる。
 瞬間移動したのか、と問いかけたくなるクレメントが、フラヴィオを支えていたのだ。

「つかまえた」

「っ……」

 フラヴィオだけを優しく確保したクレメントが、ふっと笑った。
 凛々しい夫に見惚れるフラヴィオの心臓は、限界を告げる。
 痛いくらいにドキドキする胸を押さえるフラヴィオは、少しだけ泣きそうになっていた。

(クレム様にとっては、つまらない遊びだったというのに……)

 すっと目を細くしたクレメントが、乱れた金色の髪にゆったりと指を通す。
 さりげなく顔を隠してくれたことに気付き、フラヴィオは人前にもかかわらず、夫に甘えていた。

「クレム様、ありがとうございます……」

「……ん? 捕まえられたというのに、ヴィオは鬼に礼を言うのか?」

「っ、もうっ。わかっていらっしゃるくせに……」

 怒ったように告げたフラヴィオだが、涙声になってしまう。
 そして主人に目配せをされた家臣たちは、静かにその場を離れていた。

 ずっと外を駆け回りたいと思っていたフラヴィオにとっては、密かに楽しみにしていた遊びだ。
 しかし、皆からしてみれば子供の遊び。
 皆はフラヴィオを楽しませようと、最初から手を抜くつもりでいたのだと思う。

 だが、鬼役を買って出たクレメントが一番最初に捕まえたのは、俊足のアキレスだった。
 その瞬間に、クレメントからは本気で取り組もうとしていることが伝わってきたのだ。
 フラヴィオと共に楽しむために――。

「私は……クレム様の、そういうところが、好きなんです」

「…………どんなところだ? 教えてくれ」

 わかっているのかいないのか。
 それとも、あまり想いを口にしないフラヴィオに言わせたいだけなのかもしれない。

「ヴィオ、頼む。……恥ずかしいのなら、好き、だけでもいいから、言ってみてくれないか……?」

「……ふふふっ」


 クレメントが教えてほしいと懇願する声を聞き続けるフラヴィオは、幸せをかき集めたような顔で笑っていた――。

















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