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しおりを挟む草木の葉も緑を増し、梅雨が明けてからすっかり暑くなり夏めいてきた。
絶好の見合い日和だと、談話室で待ち構えるフラヴィオは、着古した服装で現れたミゲルよりも気合が入っている。
「お相手は、とても腕の良い医師だそうだ」
「……でも、平民ですよね?」
最愛の兄のきらきらとした姿に見惚れていたミゲルが、小さな声で愚痴を言う。
途端に困った顔になるフラヴィオから、平民を見下すような発言は慎めと、ミゲルはこどものように怒られる。
領民のことを第一に考え行動している兄を、不愉快な気分にさせてしまったミゲルだが、単純に縁談を受けたくないだけだった――。
しかし、名ばかりの貴族が公爵閣下の頼みを断れるはずもない。
相手から、今回の縁談を断ってもらえることだけを祈っていた。
『うまくいくといいな』と微笑むフラヴィオは、兄を愛するミゲルに縁談を勧めてくる、優しく残酷な人だ。
それでもフラヴィオに気遣われれば、ミゲルは幸せを感じる。
このまま誰とも婚姻することなく、一生フラヴィオの世話になりたいと思っていた――。
そこへ、細身の青年が現れる。
ミゲルの伴侶候補と初対面したレオーネ兄弟は、色白の青年に目が釘付けになっていた――。
「お初にお目にかかります。ジェラルドと申します」
恭しく挨拶をした青年が帽子を取れば、胸元まで無造作に伸びる黒髪がはらりとこぼれ落ちる。
頬を紅潮させる青年――ジェラルドの、鋭い漆黒色の瞳に射抜かれたフラヴィオは息を呑んだ。
そして全くもって乗り気ではなかったミゲルは、すでに卒倒している。
ひょろりとした体型のジェラルドだが、クレメントに似ていたのだ――。
「フラヴィオ様にお会いしたく、参上致しました。絵葉書で見るより、お美しい……」
「いやっ。君の方が素敵だと、私は思う……」
フラヴィオの手の甲に口付けを落とす仕草を見せたジェラルドが、僅かに目を見開く。
「……本心ですね」と、フラヴィオの心を読んだように告げたジェラルドは、やはりクレメントに似ていた。
ミゲルのことなど目に入っておらず、真っ直ぐにフラヴィオだけを見つめている。
(まさかっ、クレム様の隠し子……!?)
ジェラルドは現在二十二歳。
隠し子のはずがないのだが、落ち着き払っているところもまた、クレメントの纏う雰囲気と似ていた。
「お噂はかねがね伺っております。フラヴィオ様にお近づきになりたいと、常々思っていたのです。このような機会を与えてくださり、心から御礼申し上げます」
「っ、ああ……」
「よろしければ、庭園を見せていただいても?」
貴族のような立ち振る舞いのジェラルドが、流れるようにフラヴィオをエスコートしようとする。
直様クレメントが阻止したが、ジェラルドはどこ吹く風だった。
「だから会わせたくなかったんだ……」
死んだ魚のような目をするクレメントが、妻を守るようにフラヴィオの肩を抱く。
「なぜです? 俺は、クレメント様の言い付けを守っているだけではありませんか。二度も――」
クレメントが不機嫌そうに目を細めれば、ジェラルドはにっこりと微笑んだ。
そのどこか不敵な笑みもまたクレメントに似ているのだから、フラヴィオの目はジェラルドに釘付けだった。
それから話をしてみれば、ジェラルドはとても感じの良い青年だった。
専門知識を豊富に持つジェラルドだが、それをひけらかすこともない。
仕事熱心な男だということもわかり、フラヴィオはすぐに打ち解けることになった。
たまにジョークを交える余裕もあるジェラルドは、話していてとても楽しい人物だ。
(っ……そうだ。アキレス様に似ているんだ)
信頼するアキレスに似てしっかりした性格のジェラルドを、フラヴィオは好ましく思っていた――。
「もういいだろう。あとはふたりで話せ」
黙って話を聞いていたクレメントが、頭痛がすると眉間の皺をほぐす。
フラヴィオがクレメントを気遣えば、どこか羨ましそうに目を細めたジェラルドが、口を開いた。
「では、式の日取りはいつにしましょう?」
「「っ、」」
ぱっと表情が明るくなったフラヴィオとは対照的に、顔面蒼白になるミゲルは絶望していた――。
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