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22 レオン
しおりを挟む──四年前。
俺たちと一緒に王都へ行く時に、エドワードが可愛がられるようにと、ノエルちゃんは率先して雑用をこなしていた。
道中トラブルがあった時も、にこにこ笑顔で空気を変えてくれて、劇団のみんなの癒しのマスコットだった。
そんなノエルちゃんのことを、みんな大好きだった。
もちもちとした頬が可愛らしかったノエルちゃんは、今は見る影もない。
痩せ細って、いつも体調が悪そうで……。
それでも無理をして、今は胃が痛くて不眠症になっている様子だった。
その原因がエドワードなんだから、俺がどうこう言ってもノエルちゃんは我慢するだけで、なんの解決にもならない。
自分の夢を叶えるためなら、ノエルちゃんがいつまでも自分を待ってくれると思い込んでいるエドワードは、心底おめでたい奴だと思う。
◆
俺がブチギレたからか、さっきまで不貞腐れていたアルバートが慌てて慰めてくれたものの、苛立ちは一向に収まらない。
お互い飯の気分じゃなくなって、後日会う約束をした俺は、気付けば目的地まで全力疾走していた。
ふうっと息を吐き、小さな家の扉を叩く。
「よっ!」
「っ、レオンさんっ! また遊びに来てくれたんですか?」
ひょっこりと顔を出したノエルちゃんが、少しだけ落胆したことに気付かないふりをして、俺は手土産を渡した。
俺はちゃんと届けた。
聞かれていないから、誰からのプレゼントかは言っていない。
ノエルちゃんだって、恋人が後援者から貰ったものを、プレゼントとして贈って来ただなんて知りたくないはずだ。
不用心にも、深夜に自身に好意を寄せる相手を、家に招き入れる俺の想い人。
……俺がノエルちゃんを守ってあげたい。
「レオンさん? 入らないんですか?」
「あ、ああ、お邪魔します」
どうぞと、俺だけに見せてくれた笑みに、秘めた想いが溢れ出てくる。
それでも、ノエルちゃんにいつもの元気がないのは明らかで……。
俺はわざと片手で頬をむにゅっとしてやった。
「ノエルちゃん、ちゃんと飯食ったか?」
久々にノエルちゃんに触れた俺は、ドクドクと高鳴る心音が耳まで聞こえていた。
……もう、今すぐ口付けて奪ってやろうか。
俺がそういう空気を出しているのに、きょとんとしたまま『ま、まだでしゅ』って答えるもんだから、可愛すぎて笑ってしまった。
恋人がいる相手にアプローチをする人間が、この世にいるはずがないと思っている、純粋なノエルちゃん。
俺の怒りの感情を、全て吸い取ってくれた。
それでもエドワードには腹が立つが、俺はノエルちゃんには誰よりも幸せになってもらいたい。
アイツがいない期間、代わりにはなれないだろうが、俺が大好きな子を見守ることに決めた。
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