尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 一度見ただけでなんでもさらっとこなしてしまうユージーン様は、本気を出せば料理の道も極めることが出来るだろう。
 そんな彼が、ノエル君のためにデイジーの花を模した料理を、殊更丁寧に作っていたことを思い出した。


 「そうだ、ノエル君が好んでいた料理を出そう」
 「っ、さすがバート! 名案だなっ! でも……ノエル君を思い出して、余計に寂しい気持ちになるんじゃ……」
 「いや。料理を見なくても、ユージーン様はずっとノエル君のことを考えていると思う。今はとにかく、なにか口にしてもらいたい」


 俺は、ノエル君が喜んでくれたデイジーの花を模した料理を作ることにした。
 ノエル君との思い出の料理なら、きっとユージーン様も口にしてくれるはずだ。



 さっそく部屋に持っていくと、庭を眺めていたユージーン様のエメラルドグリーンの瞳が、特別な料理を見つめて、ゆらりと揺れる。
 共に来ていたフランツが、ぐっと拳を握ったのが視界の端で見えた。
 小さく笑みをこぼしたユージーン様が席に着き、スプーンを手にする。
 花の形を崩す前に、彼がスプーンを置いた。


 「ノエルに、私の財産を譲渡するよ」


 突拍子もないことを言い出したユージーン様に、俺たちは息を呑んだ。
 絶句する俺たちを見つめるユージーン様は、無理やり口角を上げている。


 滅多に見られないぎこちない笑みは、ユージーン様が生きることに疲れた証しだと察してしまった。


 そしてフランツが、無礼も承知で声を荒らげる。


 「っ、待ってください。どうしてですか?」
 「金で解決出来る問題じゃないことは、私が一番よくわかっている。それでも、私がノエルを傷付けたことには変わりない」
 「っ、そうかもしれませんけど……っ。契約金以上のお金を、ノエル君のために使ったじゃないですか……」


 ノエル君が宝物として持ち歩いているエリクサーは、あの一本で契約金を軽く超える逸品。
 金額までは知らないとは思うが、かなりの値打ちがするものだと、ノエル君も気付いているはずだ。

 気怠げに頬杖をついたユージーン様に見つめられたフランツは、口を引き結んだ。


 「あの口だけ男が、ノエルを養えるかなんてわからないだろう? 今も自分のことだけで精一杯だ。ノエルのためだのなんだのと言って、結局ノエルを苦しめるに違いない」
 「…………」
 「またノエルが働き出すとしたら、きっと冒険者としてこっそり活動するだろう。優しいノエルには、その仕事だけはさせたくない。私の我儘だよ」


 今後の生活でノエル君が困らないようにと思ってのことだろうが、俺は間違っていると思う。


 「ユージーン様。ノエル君は、強い子です」
 「…………そんなこと、わかっているよ」
 「いいや、貴方は全然わかっていない」


 俺が語気を強めて話したからか、隣で棒立ちになっているフランツが戦々恐々としている。
 それでも俺は、ユージーン様の使用人としてではなく、友人として語りかけた。


 「今のノエル君は、魔獣を凍らせて、ちょちょいのちょいっと討伐しています。もう、昔の泣き虫なノエル君じゃない」
 「…………」
 「それに、大金を貰ったとしても、ノエル君はきっと喜ばない。ただ、申し訳ないと思うだけです。それこそ、ノエル君が辛い思いをするのでは?」
 「……そうだね。私は、ノエルを苦しめたいわけじゃない」
 「そのことは、ノエル君だってきっと、わかっているはずです。俺が『テオも待ってるからな!』って声をかけた時……。ノエル君は、俺にではなく、ユージーン様に向かって笑顔を向けていました」


 そう言ってニカッと歯を見せて笑いかけると、さっと俺たちから顔を背けたユージーン様から、歯が鳴る音がした。









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