93 / 137
92
しおりを挟む「ノエル……」と、両親が呼びかける声に反応できない僕は、ただただユージーン様の勇姿を見守っていた。
出番を終えたユージーン様が舞台袖に下がり、僕は安堵の息を吐く。
僕を殺気混じりに睨みつけていた人は、きっと僕を恨んでいるに違いない。
社交界を牛耳っている人に恨みを買ったとしても、僕は別にかまわない。
ユージーン様を守れたのなら、それでいいんだ。
幕が下り、僕は会場を見下ろす。
興奮さめやらぬ観客は、今も席に座ったままだったけど、その中に黒髪の美女の姿はなかった──。
◆
劇場を後にしようとしたのだけど、僕たち家族は控室に案内されることになった。
間違いなく、僕がやらかした件についてだ。
さっきまでは、ユージーン様を守って舞台を成功させるためならば、僕はどうなってもいい!
……って思っていたんだけど。
怒られるだけならいいけど、みんなから嫌われるのは嫌だなぁ。
フラフラになりながら控室に行くと、劇団の人たちが集合しており、みんなが僕に駆け寄る。
「本当にありがとうっ! ノエル君っ、救世主だったよっ! ユージーンが台詞を飛ばすなんて初めてだったからね! 誰も咄嗟に対応できなかったんだっ! 今日の陰の主役はノエル君だっ!」
興奮気味に語ったカーターさんに、バシバシと背中を叩かれる。
勝手にやったことだったけど、あまりに褒められるものだから、恥ずかしくなる僕は「痛いですっ」と、照れ隠しをする。
でも、カーターさんの夜空のような瞳が潤んでいることに気付いた僕は、笑みを向けた。
そんな僕を熱心に見つめていたエドワードは、今は両親と抱擁を交わしている。
エドワードをさらに真面目にした感じのお父さん──エイダンさんに、よくやったと褒められて、恥ずかしそうに銀髪を掻いているエドワードに、僕も声を掛けた。
「エディー、おめでとう」
「っ……ノエル」
「素敵な王子様だったよ。でも、勝手に雪を降らせてごめんね」
「いや、すごく綺麗だった……。一生忘れられない、と思う」
ぎこちなく話すエドワードに、ご両親が不審な目を向ける。
「この前は、演技だったとしても、母親だなんて言ってごめん……」
僕に謝罪したエドワードが深々と頭を下げる。
さすがに気にしていないよとは言えなかった僕は、微笑むだけに留めた。
そんな僕たちの間にすっと入ったエイダンさんは、低い声を出す。
「エド、どういうことだ」
「…………実はっ、」
馬鹿正直に全てを話したエドワードに、ご両親の顔色がみるみるうちに青褪めていく。
そして今は真っ赤な顔で怒るエイダンさんは、エドワードに殴りかかりそうな勢いだ。
「歯を食いしばれっ、バカ息子っ!!」
「っ、あ、あのっ! 顔だけはやめてあげてください! まだ三週間は舞台があるので……っ」
殴らなくてもいいとは言わない僕に、僕の両親が顔を見合わせて笑い始める。
ピリッとした空気が少しは緩和されたのだけど、僕を本当の息子のように可愛がってくれていたエイダンさんは、今も怒りに震えていた。
「僕も悪かったんです。家を飛び出してきたのだから、絶対に夢を叶えないといけないと思って、周りが見えなくなっていて……」
「っ、ノエル君は悪くないよ。私の育て方が間違っていたんだ……。悲しい思いをさせてすまなかったね……」
「いいえ。僕の夢を叶えてくれたので、エディーには感謝しています」
にっこりと微笑むと、泣きそうになるエイダンさんにむぎゅうっと抱きしめられていた。
「ノエルっ、俺……っ」
「なにを言うつもりだ? まさか、復縁したいだなんて言うつもりじゃないよな?」
図星をつかれたのか、エドワードが盛大に喉を鳴らした音が響いた。
149
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる