初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん

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35 ふさわしい場所




 ロミオと離れてから半年が経ち、私の気持ちもだいぶ落ち着いていた。
 顔を合わせる機会もなく、胸を締め付けられるような苦しさも薄らいでいく。
 時間の流れは、確かに心の傷を癒やしてくれるのだと実感していた。

(でも、ロミオはなんで身を引いたのかしら……?)

 先日、ブリトニーは、ロナン卿の弟であるペレアス様と婚姻した。
 ロミオは失恋したようで、屋敷に引きこもっていると、風の噂で耳にした。
 手紙を書こうかと悩んだけれど、どんな言葉をかけたらいいのかわからず、結局書けずじまい。

 でも――おそらくロミオは、もっと強くなって戻ってくるはず。

(そのときは、また友達として会えたらいいな……)

 どこにいても、私は心からロミオの幸せを願っている。


 ――けれど、新たな問題も生まれていた。


 私が出席するパーティーには、近頃、決まってカリスタ第二王女殿下が現れるようになったのだ。

 仲の良い友人たちと四人で穏やかに語らっていたその時も、華やかな足音とともに、彼女は当然のように現れた。


「みなさま、ごきげんよう」


 彼女は真紅の髪と瞳を持ち、顔立ちは整っていながらもどこか鋭く、見る者を圧する気品があった。


「カリスタ王女殿下。お会いできて光栄です」


 上品な笑みを浮かべて挨拶をしたのは、学園時代からの友人――ニコレットだった。
 茶色の髪に、エメラルドグリーンの瞳の美女だ。
 ルグラン侯爵家の長女にして、ジークレイン様の熱烈なファンのひとり。
 けれど今は婚約者と良好な関係を築いているため、その憧れは恋というより敬慕に近い。


「ええ、わたくしもよ。ニコレット嬢に、アヴェリン嬢。オーロラ嬢も。またぜひ、お茶会にいらしてね」


 カリスタ王女殿下は、私の友人三人と、にこやかに言葉を交わす。
 それに対し、私だけは名を呼ばれず、視線すら向けられない。

(……これってわざと、よね)

 傍目には、私たちは仲睦まじく談笑しているように見えるだろう。
 けれど、私はカリスタ王女殿下から明確に目の敵にされていた。


「ニコレット嬢も、アヴェリン嬢も、オーロラ嬢も、今日は本当に洗練されているわね」


 友人たちのドレスが素敵だと、大げさなくらいに褒めるカリスタ王女。
 特に仲が良いわけでもなく、三人の友人たちは困惑しつつも、お礼を述べる。


「ありがとうございます」

「カリスタ王女殿下のドレスは、やはり目を惹きますわね。全体の華やかさが圧倒的で、見惚れてしまいますわ」

「王女殿下がいらっしゃると、本当に会場の雰囲気が華やぎますもの。私も見習いたいですわ」


 ニコレット、アヴェリンの褒め言葉に、カリスタ王女殿下は満足そうに相槌を打つ。
 そして、ついでとばかりに私を見たカリスタ王女殿下は、くすっと鼻で笑った。


「ええっと。あと、あなたは――。その薄紫……お色自体は美しいですけれど、やはり少し控えめすぎて、お立ち姿が映えませんわね」


 今日のドレスは、過度な露出を避け、落ち着きと高級感を兼ね備えた仕立てだ。
 胸元が強調された派手なドレスが似合うカリスタ王女殿下からすると、私の着ているドレスは地味に映るのだろう。

(でもこのドレスは、ジークレイン様にいただいたものなのに……)

 『リトリナ王国の流行りの最先端だよ』とジークレイン様が話していた。
 けれど、私は彼が忙しい合間を縫って、一緒にドレス選んでくれたことが嬉しかった。


「少々地味に見えるかもしれませんが、私はとても気に入っていて――」

「お手元の宝石も素敵ですけれど。今日の会には、もう少し華やかな演出があったほうが映えたかもしれませんわね」


 反論は許さないとばかりに、カリスタ王女が私の言葉を遮る。
 私がジークレイン様の瞳の色のドレスを着ていることがどうしても気に食わないようで、執着に責められてしまった。

 すると、水色の髪に澄んだ瞳のオーロラが、柔らかな微笑みとともに、さりげなく会話に割って入った。


「ルキナ様のお召し物は、落ち着いた華やかさがございます。控えめだからこそ、かえって心に残る美しさかと存じますわ。――もっとも、カリスタ王女殿下の華やかさには及びません。殿下を見ておりますと、まるで宝石を眺めているようで、目の保養になりますもの」


 オーロラは落ち着いた表情を崩さず、周囲の空気を和ませる。
 さりげなく私を庇ってくれたことに、胸があたたかくなった。
 すると、カリスタ王女殿下は朗らかに笑い始める。


「まあ。みなさま、本当に仲がよろしいこと。わたくし、羨ましく思いますわ。――本来ならば、それぞれにふさわしい場所にいるべきものですのに」


 微笑みながらも、氷のように冷たい声音。
 誰に向けられた言葉か、はっきりしていた。

(……“ふさわしい場所”? つまり私は、ジークレイン様の隣にいるべきじゃないってこと……?)

 カリスタ王女殿下は、長らくジークレイン様を慕っていたことで有名だった。
 婚約者を持たず、ただひたすらに彼へ求婚し続けてきたのは、誰の耳にも届いていた話。

 横取りしたつもりはなかった。
 けれどカリスタ王女殿下にとって、私は愛しい人を奪った泥棒猫にほかならなかった。

















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