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1 プロローグ
しおりを挟む「――もう、演技はやめていいぞ」
暖かな春の午後。
グランディエ公爵邸の庭園にて、義理の父親と日課の散歩をしていたフレイは、車椅子を押す手を止めていた。
「フレイ、今までありがとう。だが、もう私の前で無理はしなくていい……。全てわかっておる」
背後を振り返り、フレイの手を握ったジョナスが悲しげに笑った。
さっきまで和やかな時間を過ごしていたというのに、急にどうしたのだろうか。
ジョナスの隣にしゃがみこんだフレイは、きょとんとした顔のまま首を傾げた。
「お義父様? なにを仰っているのですか……?」
しばらくフレイの目を見ていたジョナスは、逡巡したのち、重い口を開いた。
「――お前たちが、死を目前にした私のために、結婚したこと……。今も愛し合うふりをし続けていること……。すべて知っておる」
「………………はい?」
苦い表情を浮かべたジョナスに、フレイは困惑するしかなかった。
半年程前に、フレイは長年片想いをしていた相手――ヴァレリオと婚姻した。
みんなが羨むような素敵なデートをし、たくさんの贈り物をいただいた。
王族並みの豪華な結婚式を挙げ、今は何不自由のない生活を送っている。
義理の父親はフレイをとても可愛がってくれ、使用人たちもフレイを大切に扱ってくれる。
その理由は、ヴァレリオがフレイを溺愛しているからだと、フレイは信じて疑っていなかった。
「…………一体、なんのお話ですか? 僕は、ヴァレリオ様のことをお慕いしておりますよ? 十歳の頃から、ずーっとヴァレリオ様が好きで、社交界でも知らない人はいないくらい――」
「もういい。いいんだ、フレイ……。フレイには、私のせいで悪いことをしてしまったな……」
なぜだろう、嫌な予感がする。
耳を塞いでしまいたくなったが、その前にジョナスが嘆いた。
「典型的な政略結婚だというのに、フレイにそんな嘘までつかせてしまって……。私は毎日、心苦しくて仕方がないっ」
「っ、」
いつもと変わらない幸せな日常が、ガラガラと音を立てて崩れていった――。
フレイは、天災により借金を負ったラヴィーン伯爵家の三男である。
長男のヘクターは伯爵家の次期当主となり、次男のヒューゴは当主の補佐。
三男のフレイは、裕福な家に嫁ぐことが、生まれた時から決まっていた。
そして幸運なことに、フレイは神に愛された容姿だった。
五歳の時点で親衛隊なるものが存在し、フレイの周りには常に多くの令息令嬢が集まっていた。
黙って立っているだけでも絵画のように愛らしく、フレイが少しでも笑みを浮かべようものなら、黄色い悲鳴が上がるほどだった。
よってフレイは、自身の容姿が整っていることを自覚していた。
――だから、気付かなかった。
いつもフレイの隣で微笑んでいる夫が、フレイを心から愛していないことを……。
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