愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

文字の大きさ
2 / 46

1 プロローグ

しおりを挟む



「――もう、演技はやめていいぞ」


 暖かな春の午後。
 グランディエ公爵邸の庭園にて、義理の父親と日課の散歩をしていたフレイは、車椅子を押す手を止めていた。

「フレイ、今までありがとう。だが、もう私の前で無理はしなくていい……。全てわかっておる」

 背後を振り返り、フレイの手を握ったジョナスが悲しげに笑った。
 さっきまで和やかな時間を過ごしていたというのに、急にどうしたのだろうか。
 ジョナスの隣にしゃがみこんだフレイは、きょとんとした顔のまま首を傾げた。

「お義父様? なにを仰っているのですか……?」

 しばらくフレイの目を見ていたジョナスは、逡巡しゅんじゅんしたのち、重い口を開いた。


「――お前たちが、死を目前にした私のために、結婚したこと……。今もをし続けていること……。すべて知っておる」

「………………はい?」


 苦い表情を浮かべたジョナスに、フレイは困惑するしかなかった。

 半年程前に、フレイは長年片想いをしていた相手――ヴァレリオと婚姻した。
 みんなが羨むような素敵なデートをし、たくさんの贈り物をいただいた。
 王族並みの豪華な結婚式を挙げ、今は何不自由のない生活を送っている。

 義理の父親はフレイをとても可愛がってくれ、使用人たちもフレイを大切に扱ってくれる。
 その理由は、ヴァレリオがフレイを溺愛しているからだと、フレイは信じて疑っていなかった。

「…………一体、なんのお話ですか? 僕は、ヴァレリオ様のことをお慕いしておりますよ? 十歳の頃から、ずーっとヴァレリオ様が好きで、社交界でも知らない人はいないくらい――」

「もういい。いいんだ、フレイ……。フレイには、私のせいで悪いことをしてしまったな……」

 なぜだろう、嫌な予感がする。
 耳を塞いでしまいたくなったが、その前にジョナスが嘆いた。


だというのに、フレイにそんな嘘までつかせてしまって……。私は毎日、心苦しくて仕方がないっ」

「っ、」


 いつもと変わらない幸せな日常が、ガラガラと音を立てて崩れていった――。



 フレイは、天災により借金を負ったラヴィーン伯爵家の三男である。
 長男のヘクターは伯爵家の次期当主となり、次男のヒューゴは当主の補佐。
 三男のフレイは、裕福な家に嫁ぐことが、生まれた時から決まっていた。

 そして幸運なことに、フレイは神に愛された容姿だった。
 五歳の時点で親衛隊なるものが存在し、フレイの周りには常に多くの令息令嬢が集まっていた。
 黙って立っているだけでも絵画のように愛らしく、フレイが少しでも笑みを浮かべようものなら、黄色い悲鳴が上がるほどだった。
 よってフレイは、自身の容姿が整っていることを自覚していた。



 ――だから、気付かなかった。
 いつもフレイの隣で微笑んでいる夫が、フレイを心から愛していないことを……。























しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年。 かつて自分を救った玲に再会した静は玲に対して同じ苦しみを味合わせようとする。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...