14 / 46
13 ヴァレリオの幼妻
しおりを挟む《ダリウスside》
『僕は、大好きなヴァレリオ様との、愛の結晶を授かりたいと思ってる』
ダリウスが敬愛する主人――ヴァレリオの幼妻が告げた衝撃的な話に、内心ダリウスは度肝を抜かれていた。
「フレイ様のことは、素晴らしいお方が嫁いで来てくださったと、私も常々思っておりましたが……。まさか、後継者のことまで……」
「……うん。僕が、グランディエ公爵家の後継者を産めば、お義父様も安心すると思うんだ。ヴァレリオ様に似た赤子は、きっとお義父様に力を与えてくれるはずだものっ」
そう言って、にっこりと笑ったフレイの愛らしい顔を、ダリウスは生涯忘れることはないだろう。
(期間限定の政略結婚だというのに、ここまで尽くしてくれる嫁は、フレイ様くらいだ……)
きっとヴァレリオとの離縁後も、フレイならば良縁に恵まれることだろう。
そう、思っていたのに――。
(未来あるフレイ様とは、白い結婚をする、と。そう仰っていたではありませんか……)
冷徹だったはずの主人が、幼妻から逃げ続ける情けない姿を思い出したダリウスは、どうしたものかと頭を悩ませていた――。
フレイ・ラヴィーン。
彼のことを知らない貴族はいないだろう。
綿菓子のようなふわふわとした桃色の髪。
丸く大きな桃色の瞳は、愛らしさ満点。
マシュマロのような頬も、小さな唇も桃色だ。
社交界では『桜の女王』と呼ばれるほどの美貌の持ち主で、老若男女問わず愛されてきた人である。
もし、王太子が未婚だったなら、フレイが王妃になる未来もあっただろう。
実家が何の後楯にもならない、貧乏伯爵家だったとしても、だ。
フレイは、容姿だけが優れているわけではない。
明るく、何事にも一生懸命。
周りが思わず応援したくなるような人柄なのだ。
(フレイ様は、我々の太陽。女神様だ……)
およそ一年半前。
先代グランディエ公爵――ジョナスが病に倒れ、食事も摂れなくなった時。
誰もが絶望した。
治療薬もなく、もう打つ手はないと諦めていた。
職を辞したヴァレリオが、気落ちするジョナスに付き添っていたものの、邸内は暗い雰囲気が漂っていた。
そんな時に現れた救世主が、フレイだった。
天真爛漫なフレイと、他愛もないことを話しているうちに、ジョナスに笑顔が戻ったのだ。
そしてジョナスには、胃に優しく、あたたかいものを食べてほしいと、フレイが料理を習い始めた。
ただ、貴族が厨房に立つなどありえないことだ。
魚に触れることもできず、包丁の扱いもわからないフレイが、まともな調理ができるとは思えない。
挑戦して、ダメだったなら諦めるだろうと、ひとまず見守ることにしたのだが……。
フレイは諦めなかった。
グランディエ公爵家に雇われている一流の料理人たちに混ざって奮闘するフレイの姿は、ジョナスだけでなく、使用人全員が心を打たれた。
(治療薬がないからと、もう打つ手がないと思い込んでいたが……。まだ我々にもできることがあるのだと、フレイ様に教えてもらったのだ)
いくらヴァレリオがレジェンドとはいえ、それも過去のこと。
二回りも歳の離れた男に金で買われたというのに、なんと健気なのだろうか。
政略結婚の相手の父親とも、真摯に向き合おうとするフレイの姿に、ダリウスは柄にもなく涙が出そうだった――。
それからは、フレイが毒見役すらもこなしたからか、ジョナスも少しずつ食事を摂れるようになっていった。
無気力で寝てばかりいたジョナスが、フレイが会いに来れば、車椅子に乗って庭園を散策し、外で食事を摂る。
毎日陽の光にあたったことで、ジョナスの体調も回復していったように思う。
その際に、威厳のある先代に、フレイが料理を食べさせているところを初めて見た時は、流石のダリウスも腰を抜かしそうになったものだ。
(だが、誇り高い騎士だったジョナスが、軽いスプーンすら握れなくなっていただなんて、誰が想像できただろうか……)
今のジョナスは、フレイを孫のように可愛がり、生き生きとしている。
ジョナス曰く、いつもニコニコしているフレイのマシュマロのようなほっぺに触れているだけで、元気が湧いてくるそうだ。
人生を諦め、濁った瞳をしていたジョナスは、もういない――。
文句ひとつ言わず、ヴァレリオの妻として己の役割以上のことを果たしているフレイを、グランディエ公爵家に仕える者たちは皆、敬愛していた。
358
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる