愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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38 素敵な女性騎士

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「――そんな可愛い反応しないでよ……。期待してしまうから」

「っ、」

 ヴァレリオに迫られてたじたじになるフレイは、ドキドキしすぎて何も話せなくなっていた。
 そんなフレイの周りで、じっと息を潜める騎士たちの視線が、痛い……。
 
「フレイ、教えて? この子の父親は、どこにいるの? 今後の話がしたい」

「っ……そ、それは……」

 真実を話せないフレイは、口ごもる。
 まさか、フレイとヴァレリオの離縁が成立していなかっただなんて、思ってもみなかったのだ。

(……でも、待って。つまり、僕は一年近くも家出して、貴族の義務を放棄していたということになるの……?)

 恐ろしいことに気づいてしまったフレイは、ぶるりと震える。
 恐る恐るヴァレリオの顔色を伺うと、ヴァレリオは怒ってはおらず、むしろ慌てて謝罪した。

「っ、ごめんね。何の説明もせずに、フレイのことばかり聞いてしまって……。会えない期間に、フレイに大切な人ができたとは、思っていなくて……」

「……えっ?」

 レイチェルを見つめるヴァレリオは、複雑そうな表情だ。
 自身が父親だとは、思ってもいないようだった。
 だが、フレイはレイチェルの変化に、密かに驚かされている。
 人見知りなレイチェルが、ヴァレリオの指を握っているのだ。

(……ふふっ。レイチェルの方は、父親だと気付いているのかな?)

 いつも一緒にいるエミリオが、ヴァレリオとそっくりだからか、警戒心がない。
 それどころか、「きゃはは」と、笑い声まで上げていた。
 そんなこととは知らないヴァレリオは、浮かない表情のまま目を伏せる。

「いや、全て私が悪いんだ。私が、フレイに隠し事をしていたから……。そのせいで、フレイが私を信じられなくても無理はない」

 そしてヴァレリオが、フレイが去ってから何があったのかを、話し始めた。

「レニー・ヘムズワースが我が家に滞在していたのは、王命で奴を監視していたからなんだ」

「っ…………え?」

「あの男は、伴侶の遺産を使い込んだ罪で逮捕されたよ。ザイル王国で、終身刑の判決が下された。それからフレイの専属侍従だった者も、北部の監視が厳しい牢獄にいる。ふたりとも、牢獄で生涯を終える予定だよ。だから、二度と会うことはない」

 ヴァレリオが淡々と話した内容が衝撃的すぎて、フレイは固まってしまった。

 それから、レニーが若い頃、ヴァレリオの母親と密会していたこと。
 息子の婚約者と親しい関係になったことで、ヴァレリオの母親はこの世を去ったこと。
 だからヴァレリオがレニーを恨むことはあれど、愛することなどないこと……。

 その驚愕の事実に、フレイは言葉が出てこなかった。
 そして驚いているのはフレイだけではない。
 騎士の大半の者が絶句している。
 醜聞になるからと、秘密にしていたのだろう。
 悲しい出来事を、ヴァレリオが包み隠さず話してくれ、フレイは胸が締め付けられる思いだった。

「それから、フレイの専属侍従だった男の話は、全部でまかせだよ。あのふたりは、裏で繋がっていたんだ。だからふたりとも、私が牢獄送りにした。それでも、私のことが信じられない?」

「っ……」

 真っ直ぐに見つめられ、フレイは胸が熱くなる。

「私はフレイを愛しているよ、フレイだけだ。フレイ以外は考えられない。だからここまで来た……。フレイは、鬱陶しいかもしれないけどね?」

 そう言って、ヴァレリオが自嘲気味に笑った。
 ヴァレリオは、ずっとフレイだけを愛してくれていたのだ。

「っ……僕もっ、ヴァレリオ様を、愛しています」

「っ、本当に?」

 ヴァレリオの表情がぱあっと華やぎ、フレイは何度も頷いた。

「――僕が、ヴァレリオ様の言葉を信じられなかったのは……僕たちが、政略結婚だったことを知ったからなんですっ」

 フレイが本音を打ち明ければ、ヴァレリオは驚きに目を見開いた。
 まさかそのことが原因だったとは思いもしなかったのだろう。

「…………そう、だったのか。それは、本当に悪いことをしたと思っている。でも、どうしても話せなかった、フレイを傷つけたくなくて……」

 ヴァレリオの優しさにフレイは泣きそうになったが、グッと堪えて首を横に振った。

「いえ、僕が悪いんです。勝手に恋愛結婚だと思い込んでいて……。婚約した時は、ヴァレリオ様と両想いだったんだー! って浮かれていました。今思い出しても、本当に恥ずかしいですっ」

 フレイが羞恥で頬を染めれば、ヴァレリオは優しく微笑んだ。
 その優しい笑みに、フレイの胸がキュンと音を立てる。

「フレイが私にとって、特別な人であることは変わりないよ? 『フレイ』と名付けたのは、私だからね。昔はそういう意味で、特別だった。でも、今は違うよ……」

「っ、ヴァレリオ様……」

 フレイは愛する人と熱い視線を絡ませる。
 逞しい腕に引き寄せられ、唇を近づけた時――。

「あう!」

「「「っ…………」」」

 ペチッ、とレイチェルがヴァレリオの顔面をビンタしたのだ。
 まるで、『これ以上はダメだよ!』と、ストップをかけたようにも見えた。

(レイチェルは将来、ヴァレリオ様に似た素敵な女性騎士になりそうっ)

 きゃはきゃはと楽しげな笑い声に、フレイもつられて笑ってしまう。
 だが、ヴァレリオは明らかに落胆しており、見守っていた騎士たちも、天を仰いでいる。

 そしてフレイが真実を話そうとした時、遠くからカツカツとひづめの音が聞こえた。

「おーい! フレイ! ヴァレリオ様ー!」

 そこに現れたのは、エミリオを大切そうに抱く、ケントだった。
 別行動していたケントは、フレイが住んでいた家に向かっていたらしい。
 あとからゾーイが馬車で来ると話してくれた。

「急いでいたとはいえ、ヴァレリオ様より先に抱っこしちゃってすみませんっ!」

「「「っ…………」」」

 ヘラヘラと笑うケントだが、全員あんぐりと口を開けていた。
 エミリオの容姿は、どう見てもヴァレリオにそっくりなのだから――。
 














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