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第九章
206 緑でいっぱいに ※
しおりを挟む抱き合いながら口付け、俺は恋人の腰に足を巻きつけて、まったりと揺さぶられる。
体が溶けて、エリオット様と一つになった気分になっている俺は、身も心も満たされていた。
「んっ……エリー……そろそろ……」
「もう少し良いだろう?」
「でも、んんッ……」
俺から誘ったのだが、さすがに職務怠慢だろうと、切り上げようとする言葉を遮られる。
真面目なエリオット様のことだから、さらりと終わらせるのかと思いきや、随分と長い休憩時間を取得していた。
「エリーはっ、専属騎士以外に、何を所望したんですか?」
「ん? ああ、私は元々最高騎士爵を得ていたから、実家の爵位が陞爵する予定だ」
「……ロズウェル伯爵?」
「ククッ、まあなんでも良いが」
「っ、良くないです! だって、俺……。イヴ・ロズウェルになるんですよね?」
動きを止めて、真剣な表情で見つめると、エリオット様は驚いたように目を瞬かせた。
「え、違う……の?」
「違うな?」
「っ……ウソ」
「私だけと婚姻したなら、ロズウェルの姓になるが。重婚することになると……、セオフィロスのままなんじゃないか?」
「え、ええ……」
恥ずかしいことを口走ってしまい、それを誤魔化すように不貞腐れた声を出す。
口を尖らせていると、軽く口付けられる。
「急遽法律が変わったばかりだからな。イヴのためだけにだぞ?」
「……ふぅ~ん」
「ククッ。可能性があるとしたら、ローランドの姓だが……、私がそれを許さない。ということで、却下だ」
にたりと口角を上げるエリオット様がかっこよくて、俺はデレッとした顔を曝け出す。
俺の幸せのために、みんなとの婚約をと願ってくれたエリオット様だが、独占欲が感じられて、胸がキュンとする。
今でも信じられない時があるのだが、この大人な色男は、俺の恋人なのだ……。
脳内お花畑になっていると、戻って来いとばかりに、俺の額をツンと指先で押すエリオット様。
「それに、セオフィロスの姓を賜りたい人は、たくさんいるからな? 私だって、羨ましいと思う」
「…………エリオット・セオフィロス? 似合わない。ひあッ!」
「ククッ、失礼だな?」
ご機嫌な様子で笑うエリオット様に、お仕置きとばかりに、胸の飾りをきゅっと摘まれる。
これ以上いたずらできないように、ぎゅっと抱きついて、腰を振ってやる。
「っ……イヴ」
「んっ、は、ぁっ……エリー、大好きッ」
「っ、ハァ……私もだ」
下から突き上げられて、ぱちゅんぱちゅんと肌を打つ音が鳴り、耳を犯される。
痛いくらいに勃ち上がっている陰茎が、バッキバキに割れている腹筋に触れて、気持ち良い。
夢中で快楽を拾っていると、しがみついていた体が寝台の上に倒れる。
尻を鷲掴みにされ、奥を激しく刺激されて、逞しい胸元に涎を垂らしながら喘ぐ。
「んぁっ……んっ……ンッ……んぅっ……きもちいっ、エリーっ……ぁあッ、ぁっ、んっ、ンンンンンン──ッ!!」
「っ、く……」
絶頂して中を行き来していた陰茎を締め付けると、中にたっぷりと射精され、全身が火照った。
呼吸を整えていると、優しく髪を撫でられる。
最高に幸せな瞬間だ……。
「湯浴みをしようか」
「……もう少しだけ、こうしていたいです」
「ククッ、さっきまでとは逆だな?」
なんとでも言ってくれと吐き捨てると、俺を愛で続けるエリオット様が、くつくつと喉を鳴らした。
「そろそろ第一王子殿下と豊穣の神が訪ねて来るが、この格好で迎えて良いのか?」
「っ、はあ!? なんで今、そんな大事なことを言うんですかっ! ちょ、エリーッ、急いでっ!」
慌ててガバリと起き上がると、ゆっくりと体を起こしたエリオット様は、焦る俺の唇を啄んでくる。
わざと焦らすように口付けてくるところが意地悪すぎるだろう。
……俺で楽しんでいやがる。
エリオット様が余裕そうなら、まだ時間ではないのだろうかと思いつつも、とにかく換気をしなければと、逞しい体を押し返した。
超特急で準備を整えると、ちょうど二人が訪れて、俺はハラハラとしながら出迎えた。
そんな俺の隣には、さっきまで色気を爆発させていたくせに、今は涼しい顔をしている俺の専属騎士様がいる。
ソファーまで案内しようとするエリオット様からは、俺と同じ石鹸を使っているはずなんだが、めちゃくちゃ良い香りがした。
俺が恋人に、じっとりとした目をしていることに気付いたクリストファー殿下は、目元を和らげる。
なにかを察したのか、藍色の瞳を輝かせていた。
そして、俺が忙しいだろうからと、案内を断ったクリストファー殿下が、その場で話しだした。
「心配していたが、元気そうでなにより」
「ご心配をおかけしてすみません。クリストファー殿下もお元気そうで」
「ああ、ラフも頑張ってくれている」
彼の背後から、おずおずと顔を出したラファエルさんは、新緑色の瞳を潤ませていた。
随分と汗をかいているのだが、体調が悪いのだろうか?
クリストファー殿下から耳打ちされたラファエルさんは、すうっと大きく空気を吸い込んだ。
「失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げ、長い白銀の髪が肩からさらりと零れ落ちる。
一向に頭を上げないラファエルさんを、不思議に思いながら首を傾げた。
「…………なんのことです?」
「え゛」
「クククッ、ほらな? 私の言った通りだっただろう?」
俺たちの顔を交互に見ながら変顔を披露し、なにやら一人で喋る、挙動不審なラファエルさん。
クリストファー殿下に話を聞けば、以前俺にジュリアス殿下を惑わすなと大臣たちと詰め寄ったことを、謝罪していたらしい。
大臣たちに利用されて、言わされていることはわかっていたし、俺は特段気にしていない。
むしろ、忘れていた。
だが、彼には頼みたいことがあったので、にたりと不敵な笑みを浮かべる。
「では、俺の頼みを聞いてもらえますか?」
「は、はいっ! なんなりとっ!」
ビシッと背筋を正したラファエルさんの左手を取り、紋章の上に口付けを落とす。
出来るかわからないが、俺の力を少しだけ分け与えられるように祈った。
「っ…………」
草木に囲まれ、両手を上げる豊穣の神の紋章が、黄金色に光り輝く。
触れている手が、じんわりと温かくなる。
すっと光が消えて唇を離すと、目を見開いたラファエルさんが頬を紅潮させていた。
「魔物の王と戦った地を、緑でいっぱいにして欲しいんです。あの地は、俺が大切な友人と過ごした、思い出の場所だから……」
アレクサンダーのことを想いながらお願いすると、ほうっと息を吐いた豊穣の神は、首を垂れた。
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