俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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20 難航

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 肩口で整えられた美しい銀髪の美青年を取り囲む令息達を遠巻きに観察する俺は、飲み慣れてきたシャンパンに舌鼓を打つ。

 オリバーの時と違って、ジークハルト様のお相手を探すのは簡単そうだとたかをくくっていたが、意外にも難航している。

 オリバーの時も同じだったが、本人が全く乗り気でない。

 それに当たり前だが、オリバーより口が立つ為、令息達の必死な形相に、壁の花になっている俺ですら若干引いている。

 クリストフ侯爵家に嫁ぎたいというより、ジークハルト様に見初められたい令息ばかりだ。

「「はあ……」」

 隣に視線を向けると、俺と同じようにジークハルト様を見つめて溜息を吐いた、長い前髪で顔が見えない令息が、壁に背中を張り付かせていた。

 俺の視線に気付いて、慌てて顔を背けた彼は「め、目が潰れるっ」と呟く。

「あの……」
「ひゃいっ!」
「少しお話ししませんか?」
「わ、わた、私……ですか?」
 
 柔らかく微笑んで頷くと、爽やかな若葉色の髪を触りながらゆっくりと頷いてくれた。

「もしかして、ジークハルト様のことを?」
「っ…………私なんかが、おこがましい、です、よね……」
「そんなことありませんよ。それに、ジークハルト様は、外見で判断するような方ではありませんから」

 優しく話しかけると、ハッと顔を上げた彼の髪の隙間から、髪と同じ色の大きな瞳が垣間見えた。

「ブラッド様は、お美しいから……」
「お褒め頂きありがとうございます。でも、貴方の瞳もすごく魅力的ですよ」
「っ……」
「もし宜しければ、お友達になってもらえませんか?」
 
 ヒェッと素っ頓狂な声を出す彼は、こくこくと激しく頷いてくれた。

「じ、実は、私の兄が、幼い頃にブラッド様と、顔見知り……でして……」

 そして彼の名前を聞いた俺は目を見開く。

 キャンベル公爵家次男、フィリップ様。

 十歳の頃に招かれたお茶会で、オリバーが粗相した公爵家のお方だった。

 滅多に夜会に顔を出さないフィリップ様の姿を初めて見た俺は、知らなかったとはいえ、公爵家の方にお友達になってくれなどと宣っていたことを後悔していた。

 だが優しいフィリップ様は、気にしないで良い、むしろ嬉しいと、おどおどしながら話してくれた。

 俺の予想では、ジークハルト様はガンガン来る相手が苦手。

 だから、フィリップ様のようなおっとりした方の方が好感を抱きそうだ。

 前髪を失礼して、じっくりとお顔を観察していると、若葉色の瞳に薄い膜が張る。

 そしてピンと来た。

 確か俺を揶揄うことが好きなジークハルト様は、泣き顔が好きだったはず。

「フィリップ様! 一緒にジークハルト様を落としましょう!」

 フラフラになるフィリップ様の手を握った俺は、脳内で鬱陶しい前髪を切って、髪色に似合う服を着せて、彼を大改造する。

「いける。うん、間違いない!」

 ――君に決めた!

 脳内で叫んだ俺は、後日、フィリップ様とお茶をする約束をして、早々に夜会を後にした。


 
 邸に戻り、信頼する侍従のルカと共に、フィリップ様のイメージチェンジ案を練る。

 こういうことはルカの方が得意だから、ほぼお任せになってしまったが、さっそくフィリップ様にお茶会の招待状を書いた。

 ルンルン気分の俺が寝付く頃。

「あ……。ジークお義兄様のこと、忘れてた」

 嫌がるジークハルト様を夜会に連れ回し、会場に放置して帰ってきたことに気付くのだった。







 翌日。

 クリストフ侯爵邸に出向くと、半目で腕組みするジークハルト様が待ち構えていた。

「お、お義兄様……。昨日は、大変申し訳ありませんでした」
 
 フンッと鼻を鳴らす美青年は、ご立腹だ。

 テラスに移動し、彼のお気に入りの席に座らせて肩をマッサージする俺は、今日だけはジークハルト様のしもべと化す。

「お許しを」
「フンッ」
「お義兄様ぁ~っ!」
 
 肩を揉み揉みしながら叫んだ俺に振り返った美青年は、俺の唇の端に口付けを落とす。

 いきなりのことに呆然としていると、ニタリと笑った悪魔は「許す」と告げた。

「いいや、許さないっ!」
「クククククッ。唇にしてないじゃん」
「そういう問題じゃありませんっ! 全く。人を揶揄って楽しむ癖をやめてくださいっ! せっかくもう夜会に行かなくても良いと言いに来たのに」

 おっ、と目を丸くしたジークハルト様は、鼻歌を歌い出しそうなほどご機嫌だ。

 ……相当ストレスだったらしい。

「一週間後、予定はありますか?」
「いや、ないけど? なになに? デートのお誘い?」
「紹介したいお方がいるんです!」
「………………げっ」

 項垂れるジークハルト様をよしよしと愛でる。

「俺の初恋を応援するって言ってくれたのに……」

 お目目をパチパチとさせて泣き真似をしてみると、唸る美青年は渋々頷いてくれた。

 やはり俺が思った通り、ジークハルト様は涙に弱かった。

 



 ――三日後。

 ブラッド侯爵邸に遊びに来てくれたフィリップ様の姿を見たルカは、「腕が鳴る」と呟いた。

 指をポキポキと鳴らして意気込むルカに、ぶるりと体を震わせたフィリップ様。

 バッサリと前髪を切り落とされて、半泣きになる彼を磨き上げたルカは、清々しい笑顔だ。

 相手が公爵子息でも容赦がない。

 もっさり頭から、庇護欲を掻き立てられる美青年に変身を遂げたフィリップ様は、暫く鏡を見続けていた。

「遠くから見ているだけで幸せでしたが……。お二人のおかげで勇気が湧いてきました。……ほんの少しだけ、ですが」

 はにかむフィリップ様の謙遜するところも、とても好ましい。

 運命共同体になった俺たち三人は、作戦会議をしながら楽しい時間を過ごしていた。


















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